その⑨
「でざいなーべびー?」
気が付けば、神奈崎は僕を睨むのをやめていた。
「その様子だと知らないみたいですわね」
「うん。初めて聞いたよ」
「簡単に言えば、親が望むように見た目や能力を調整されて生まれた子供ということですわ」
「……つまり、神奈崎はそのなんとかベビーだって言いたいの?」
だとしたら大変だ。
神奈崎の高慢な性格も彼女の両親によって設定されたということになる。
嫌な親だなあ。
いや、未成年に子供を預けて行方を晦ました俺の両親のような人たちもいる。俺も色々言えた立場じゃないよな。
「ええ、そう。だけど失敗作なの」
「失敗作?」
驚き半分、納得半分。
「結局わたくしは両親の望むような力を得ることはなかったと聞いていますわ。親がわたくしに関心がないのは単純にわたくしが末娘だからというわけではなく、あの人たちの期待を裏切ったからなのですわ」
「なるほどね」
「だからこそわたくしは真のエリートにならなければなりませんの。こんなEクラスの底辺なんかで燻っている時間なんて、本当はあってはならないはずですのよ」
「……君の両親のために?」
「いいえ、あの人たちを見返してやるためにですわ。わたくしを出来損ないだと判断したあの人たちに、わたくしの力を思い知らせてやるの」
他所の家の事情に口出しできるほど俺が偉いわけじゃない。
じゃないのだけれど。
なんとなく素直に肯定できないような気分ではあった。
「まあ、頑張って。応援するよ。うまくいくことを祈ってる」
「あなたも他人事ではありませんのよ」
「え?」
「わたくしが真のエリートとして返り咲くためには、あなたの力も必要なのですわ」
「どういうこと?」
話がおかしな流れになって来た。
「序列戦争の話をご存じないかしら」
「いや、全く」
俺が言うと、神奈崎は大きなため息をついた。
「これだから庶民は。でも、良いですわ。時期が来たら教えて差し上げます」
いつの間にか俺たちは部屋の前に立っていた。
神奈崎がそのドアを開ける。
そして俺は、妙な違和感に気が付いた。
「……?」
「どうかしたの、真白?」
「いや、あそこ……」
見慣れない小さな人影が神奈崎のベッドに横たわっている。
近寄って人影をよく見てみると、その正体は黒いゴスロリの服を来た幼女だった。
真っ黒な髪のロングヘアで、心地よさそうに寝息を立てている。
――なんで幼女が、こんなところに?




