その⑧
「ふう……悪いっすけど、ウチ疲れちゃったっす。先にお風呂行って来るんで、部屋戻っててくださいっす」
そう言ってセカイは風呂場のある方へ立ち去っていった。
「あ、じゃあ私トイレ行こうかな。じゃあまた後程です」
ユイもトイレへ行ってしまって、俺は神奈崎と二人で、寮の玄関先に取り残された。
「……神奈崎もトイレ行かなくていいの? 連れション」
「真白、あなた時々品のないことを言いますわよね? これはわたくしがエリートだからというわけではなく一般的な立場から言わせてもらいますけど、そんなことばかり言っていると嫌われちゃいますわよ」
「注意するよ。で、俺達はどうする?」
「部屋に戻りましょう。下井ではないですけれど、わたくしも少し疲れましたの」
というわけで、俺達は先に部屋へ戻ることになった。
一日中はしゃいでいたから、俺は俺で確かに疲れている。
こんなにはしゃいだのは久しぶりだ。
なんとなくニィおばさんと暮らしていた日を思い出す。
「ねえ、真白」
「はい?」
顔を上げると、神奈崎の青い瞳が俺の方を向いていた。
「あなた、羅留場と何か話していましたわよね? 何を話していたの?」
恐らく公園での一件のことを言っているのだろう。
「いや、大した話はしていないよ。あの人は君に友達が出来て良かったって思ってるって、その程度の話さ」
「わたくしが神奈崎家の末娘だという話を聞いたのではなくて?」
「……もしかして聞こえてた?」
神奈崎が首を振る。
「少し考えれば分かる事ですわ。あの男はわたくしのことを心配しすぎていますから」
「心配しすぎるのと、俺に君の事情を話すのはどう関係しているわけ?」
「あの男のことだから、わたくしの身を守ってくれとか言ったのでしょう?」
まあ、その通りだ。
俺は素直に頷いた。
「羅留場は本当に余計なことをしますわね。で、あなたは何と答えたの?」
「引き受けたよ。断る理由もなかったら」
「……全く、こんな庶民にわたくしを守らせようなどと。大体、わたくしにそんな価値なんてありませんのに」
「どういう意味? 君はエリートなんだろ。価値がないわけないじゃないか」
俺が言うと、神奈崎に睨まれた。
「あなた、嫌味な男ですわね」
「神奈崎に鍛えられたんだよ」
「…………」
俺を睨んだまま神奈崎が押し黙る。
しばらく無言が続いた後、不意に神奈崎は口を開いた。
「ねえ真白、あなた、デザイナーベビーって知っているかしら」




