その⑥
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「うー、頭いたいです……」
「うー、気持ち悪いっす……」
高級車を、道沿いにあった公園らしき場所の駐車場に止め、俺たちは一度休憩することになった。
その間にユイの体調が悪化し、病人は二人に増えていた。
セカイとユイの二人は神奈崎に付き添われながらベンチで休んでいる。
こうしてみると神奈崎も案外面倒見のいい奴だ。さっきからユイの背中をさすってやったり、セカイに水を飲ませてやったりしている。
一方の俺はというと、あの羅留場とかいう名前の黒服のおじさんと二人きりで車の前に立っていた。
「…………」
「…………」
さっきから重たい沈黙が俺たち二人を包み込んでいる。
大体、このおじさんの威圧感が半端なさすぎるのが悪い。
何か話した方が良いのだろうか。だけど、話すようなこともないしな。
「……おい、真白とか言ったな」
ふいに羅留場さんが口を開いた。
「は、はい。えーと、羅留場さ――」
返事をしようとした俺だったが、その言葉は最後まで続けさせてもらえなかった。
いきなり黒服が俺の顔に蹴りを入れてきたからだ。
間一髪で躱した俺は、反射的に相手の懐に潜り込んで、その鳩尾に肘を叩きこんでいた。
が、手ごたえが小さい。
黒服は衝撃を殺すように後ろに飛ぶ。追い打ちをかけるために、俺は彼に接近しようとした、が、相手はふと立ち止まり両手を上げた。
降参の合図だ。僕は追撃の手を止めた。
「分かった。俺の負けだ。どうやらあの時も偶然で敗れたわけではなかったらしい」
「……はい?」
「クラス分け試験の時だ。俺はお前に投げられている」
……あ。
ようやく思い出した。
この人、あの時神奈崎のボディーガードをやっていた黒服の一人なんだ。
「俺を試したんですか?」
「そうだ。が、安心した。それだけの実力があれば、お嬢様も大丈夫だろう」
「どういう意味です?」
「……お前にお嬢様の身の安全を守ってもらう。学園内では俺たちの手は届かないからな」
「ずいぶん勝手ですね」
「お前を男と見込んでのことだ。あの方は、神奈崎家の末娘なのだ。それゆえ、生まれた時から分家に預けられ、両親と会ったことさえほとんどない。当主はお嬢様のことを政治の道具程度にさえ思っていらっしゃらない。お嬢様のあの言動は、すべてコンプレックスの裏返しなのだ。分かってやってくれ」
分かってやってくれと言われても、境遇だけで言えば俺の方がまあまあ過酷だしなあ。
辛さは分かっても同情までは出来ないというか。
でも、まあ。
男と見込まれたのなら仕方がない。
「出来る限りやってみますよ」
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