その⑤
「そういえばさ、神奈崎」
「なあに庶民」
「真白エルだよ。一週間も同室なんだからいい加減名前を憶えてくれよ」
「分かりましたわ、庶民の真白」
あくまでも庶民呼ばわりは貫き通すつもりらしい。
まあいいか。これ以上揉めるのも面倒だし。
「君の家がお金持ちだっていうのは分かったけど、Eクラスになったことで何か言われなかったのか?」
てっきり罵詈雑言の嵐が飛んでくるものだと思っていた俺は、神奈崎が落ち込んだような顔をしてしまったので驚いた。
「……あ、ごめん神奈崎。深い意味はなかったんだけど」
「別に気にしないで良いのよ。貴方の質問に答えるなら、『特に何も言われなかった』。期待されていないのは気楽なものですわ」
自嘲気味に笑う神奈崎。
マズい。
この話題は地雷だったかも。
また俺何かやっちゃったらしい。
「うへー、エルさぁん、なんか私熱くなってきちゃったんですけどぉ!?」
突然ユイが俺の肩に手を回して来た。
びっくりしてそちらを見てみると、ユイの顔は真っ赤になっていて、右手には何やら瓶に入った飲み物が握られていた。
そ、それって。
もしかして果物とか穀物とかを発酵させて作った大人の飲み物では?
「ゆ、ユイ、もしかしてそれ飲んじゃったの?」
「だってぇ、冷蔵庫の中のものは遠慮なく飲み食いしていいって言われたじゃないですかぁ!」
ユイが俺の肩を掴んで前後に揺さぶる。
彼女の目は完全に座っていた。
「とにかく水を飲んで落ち着いた方がいいと思うよ。セカイ、ちょっとユイを……セカイ?」
「うっ……な、なんすか真白のアニキ。ウチは今、多分何の役にも立たないっす」
ユイとは反対に、セカイは顔を真っ青にして口元を押さえていた。
「まさかお前……乗り物に酔ったのか?」
「ちょっとテンション上げ過ぎたっす……。先に……向こうで待ってるっすね……ガクッ」
「セカイぃぃぃ! 目を覚ませええええっっ!」
神奈崎と話している間に、座席では地獄絵図が繰り広げられていた。
この人たちやっぱりちょっとおかしいよ……!
「うへへ、セカイくんも飲みなよぉ、最高に『ハイ!』になるよ」
「やめろユイ、具合の悪い人にそんなものを勧めてはいけない」
ユイを全身で食い止める俺の様子を見てか、神奈崎はため息をついて、
「羅留場、一度車を止めて頂けるかしら。少し休憩しましょう」
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