その④
黒塗りの高級車だからと言って、疲れからか追突してしまうわけではない。
黒い光沢のある高級そうな車が俺達の目の前に停まったのはそんなときだった。
政府の高官が乗るようなその車を見て神奈崎が頷く。
「さ、車も来ましたし、行きますわよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ神奈崎、俺の知ってるタクシーと違うんだけど?」
前に俺が電車でこの街にやって来た時に駅前で見かけたタクシーはもっと普通の車だった。
いや、もちろんずっと山奥に居た俺にとって車自体珍しいんだけど、それにしてもこんな一目で高級だと分かるような車をタクシーと呼べるんだろうかという疑問くらいは浮かぶ。
しかし神奈崎の顔を見た瞬間、彼女の意図を知った。
「あらぁ、わたくしにとっては普通ですわぁ? エリートの生活というのはやはり庶民には理解できませんのね。うっふっふっふ」
こいつ、ただ自分が金持ちなのを自慢したかっただけだ……!
俺はちらっと下井の方を見た。
下井は番号の書かれた紙を取り出して俺に見せた。
「……ウチはここに連絡して車を用意しろと言えって指示されただけっすよ。最初からお嬢の計画だったってわけっすね」
うんうん、と納得したように首を上下に振る下井。
その間に、黒い車からはこれまた黒い服の男が降りて来て、神奈崎に頭を下げた。
「お嬢様、お車の用意は出来ております」
「ご苦労。さ、行きますわよ。ちなみにこのタクシーは神奈崎財団の系列下にありますの。だから遠慮なさらないで。うっふっふっふ」
黒服の男がドアを開けて、神奈崎は堂々と乗り込む。
その次にユイとセカイが、俺は最後に乗った。
えー、なんか、椅子の向きが違うんですけど? 冷蔵庫とかあるんですけど!?
「飲み物もご自由にどうぞ。ご自分の家だと思ってお寛ぎになって」
神奈崎は得意げな顔で、どこからかとりだした扇をパタパタさせる。
「わーいやったー! 神奈崎さんありがとー!」
さっそく冷蔵庫の中身を物色し始めるユイ。
「ゆ、ユイ、ちょっとは遠慮したほうが」
「何言ってるんですかエルさん。私の辞書に遠慮の二文字はありません!」
「そうっすよ、貰えるもんは貰っときましょうよ」
いつの間にかセカイは果物を齧っていた。
もしかしておかしいのは俺の方なのか!?
と、そのとき、車が動き出した。
「羅留場、最初はグルツタワーから回って頂戴」
「分かりました、お嬢様」
羅留場と呼ばれた人が運転席から神奈崎に返事をする。
「……しかしお嬢様がお友達をお連れになる日が来るなどとは思いませんでした。この羅留場も一安心です。お嬢様の性格ですから、きっとクラスの中でも浮いてしまうのではないかと思っておりました」
「よっ、余計なことを言わないで頂きたいわねっ!」
顔を赤くする神奈崎。
しかしこの羅留場って人、神奈崎のことがよく分かってるな。
きっと付き合いも長いのだろう。




