その③
※
翌日。
俺達は神奈崎のガイドの元、首都であるグルツシティを観光することになった。
「張り切って行きますわよ! この街には観光地がたくさんありますの!」
腕まくりをした神奈崎が鼻息を荒くしながら言う。
そんな神奈崎の今日のファッションは、胸元に赤いリボンのついたブラウスとロングスカートというお嬢様風のコーデだった。
「なるほどなるほど。やはりアレですな。素材の良さですな。中身はアレっすけど。アレね」
そんな神奈崎を、品定めするような下品な目で眺めるセカイ。
「すっげーゲスい顔してるぜ、セカイ」
「うへへ、普段制服姿しかみたことない女の子の私服というのも良いもんっすね」
「寝間着とかは毎日見てるけどね」
「ほほう、真白のアニキはそっちの方が趣味っすか? さすがアニキ、中々マニアックな嗜好をお持ちで」
「俺を同類にしないでくれ……」
「それじゃ案内は神奈崎さんに任せます! 楽しみだなー!」
目を輝かせながらそわそわと落ち着かない様子で体を動かすユイ。
彼女が着ているのは学校指定のジャージだった。
……ジャージか。
それ、いつもユイが寝間着に使ってるやつだよな?
「おや、どうされたんですかエルさん? 私の顔に何かついてますか?」
「いや何も。普段着もジャージなんだなんて思ってないよ」
「あっ、さてはジャージの汎用性をナメていらっしゃいますね!? いいですか、ジャージファッションというのがあってですねえ、機能性もデザイン性も優れたジャージは――」
突然ユイのエンジンがかかる。
俺は嫌な予感がして一歩引きさがった(物理)。
「も、もういいです。その話は遠慮しておきます」
「何言ってんですか、最初にジャージのことを言ったのはエルさんでしょう? この魔導学園指定ジャージはですね、夏は涼しく冬は暖かく、そして防臭性防菌性バッチリ、しかも丈夫という」
「あなたたち何をうだうだやっているのです!? さっさと行きますわよ。下井、タクシーの手配は済んでいるの?」
「もちろんっす、お嬢!」
両手をすり合わせながらセカイが神奈崎に言う。
完全な主従関係が出来てしまっている……!
「……あれ、タクシーを使うの?」
「当たり前ですわ! ここから中心街までは遠いのですから、歩いていては日が暮れますわ!」
魔導学園は首都の中心から少し離れた、閑静な場所にある。
確かに歩くのは辛いだろう。
「でも、バスとか出てるし……」
「あなた、このわたくしにあんな庶民の乗り物を使えというの!? 金はあるのだから使わなきゃ損ですわっ!」
これが金持ちか!
もしかして俺の考え方がみみっちいのか!?
いや、そんなわけない――と信じたい。




