その②
よく考えたら、俺は物心ついた時からおばさんと二人暮らしだった。
おばさんと言っても本人の言う通り二十代後半なのだから、逆算してみるとあの人は十代のころから俺の面倒を見ていたことになる。
だから当然、小さい頃俺を風呂に入れてくれていたあのニィおばさんはまだ二十歳にもなっていなかったわけで……。あの人は普通に下着姿で家の中を歩き回ったりしていたわけで……。
こうして思い出してみると、凄い状況だ。っていうか俺の両親はよく俺を預けようと思ったな? 今の俺くらいの年齢の時、ニィおばさんは既に俺を預かってた計算になるけど!?
「エルさんは休みの間何かする予定があるんですか?」
ジャージ姿のユイが俺の隣に座る。
なんかいい匂いがした、気がした。
というかそもそもこの部屋、神奈崎の香水でアロマチックな香りが充満しているのだ。俺の服だってそこそこいい匂いがするに違いない。
「いや、俺も特にないから、魔法の練習でもしようかなって。そうだ、一緒にやる?」
「それもいいですね! でもエルさん、一つ忘れてることがあるんじゃないですか?」
「忘れてること?」
何だっけ?
課題みたいなものが出ていたっけ?
「ふっふっふ。この魔導学園はどこにあるんですか?」
「どこって、グルツシティだよね?」
「そうです。この国の首都であるグルツシティです。いいですか、この国の首都なんですよ!」
「首都がどうかしたの?」
俺が言うと、ユイはやれやれとでも言いたげに首を振った。
「分かってないですねー。首都ってことはこの国の一番需要な都市ってことです。だから、田舎になかったものもいっぱいあるはずなんですよ!」
「それがどうかしたの?」
「どうかしたの、じゃないですよ! せっかく首都に来たんだから、観光しましょうよ観光! どうせ暇なんですよね!?」
「え、なんすかなんすか、観光っすか? ウチも行きたいっす!」
床でのたうち回っていたセカイが混沌から這いよるようにこっちへ来る。
「ふん。首都観光というなら、優秀なガイドが必要ですわね。エリートたるわたくしは首都の地理は良く知っていますから、ついて行ってあげなくもないですわよ」
ふぁさっ、と髪を耳に掛けながら神奈崎が言う。
……なんかおかしなことになってきた。
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