その⑯
斬沢先生が話を始め、少し場の空気が正常に戻った頃、俺は少しだけ後ろを振り返って訊いてみた。
「……あのー、神奈崎さん」
「何かしら」
「さっきの、どのくらい本気なの?」
「ふん。本気に決まっていますわ。庶民に気やすく近づかれてはたまりませんもの」
白い顎を上げながら神奈崎さんは言う。
こいつ、友達なくすぞ……。
俺が気にするのも余計なお世話かもしれないけど。
そうしている内に先生の話も終わり、俺たちは寮へ移動することになった。
※
「……ここが俺の部屋か」
畳が敷かれた10畳ほどの部屋。
入ってすぐにはトイレと洗面台、そして冷蔵庫が設置されている。
部屋の隅には布団が四枚折りたたまれている。
聞いたところによると、四人の相部屋らしい。
「一体誰が同じ部屋なんだろうな。親切な人だといいけど」
と、俺が呟いたとき。
「……ちわっす」
小柄な女の子が部屋に入って来た。
肩くらいまである黒髪で、なぜか男子の制服を着ていた。
あ、いや、男子の制服を着ているのだから男子か。ちょっと勘違いしてしまったらしい。
それにしても、なんかこいつ知ってる気がする。
「もしかして、自己紹介でスベッてた人?」
男子生徒はあからさまに落ち込んだ顔をした。
「そ、それは言っちゃダメっすよ。忘れて欲しいっす。ウチの名前は下井セカイ。ちょっぴりエッチな思春期新入生っす」
「ああ、俺は真白エル。よろしく」
「もちろん噂は聞いてるっすよ! 試験の時魔法を使って大暴れしたとか、上半身と下半身が引き裂かれても死ななかったとか、地元一帯を焦土にしたとか」
完全に噂が独り歩きしている。
俺は化け物か何かか?
――いや、ある意味では間違いないのかもしれない。だって俺は人殺しなのだから。
「とにかく、そんなスゲー人と同室なんて心強いっす! どーぞよろしく!」
セカイは俺の右手を握った。
小さくて柔らかい手だ。……こいつ本当に男子なんだよな!? さすがに女子と同室ってことにはならないよな!? 常識的に考えて!
が、そんな俺の思いを打ち砕くように、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「な、なんですのこの部屋っ! エリートのわたくしにこんな部屋で過ごせというの!?」
「わーっ! ここで私の新しい生活が始まるんですね!」
入り口に立っていたのは、俺のよく知っている二人――神奈崎とユイだった。




