その⑭
※
「よう諸君。俺がこのクラスの担任の、斬沢ロットだ。よろしく頼むぜ」
髪を一部だけ赤く染めた黒髪の男。
ロットと名乗る、高級そうなスーツを着たその男が俺たちのクラスの担任だという。
「あの人が担任の先生か。なんか、目つきが怖いよね」
俺は隣の席に座るユイに言った。
「昔は国の諜報機関に居たらしいですよ。怒らせない方が賢明かもしれないですね!」
「へえ、そうなんだ。どこでそんな情報を手に入れたの?」
「ふっふっふ。私を見くびってもらっちゃ困ります」
ユイは怪しげな笑顔を浮かべる。
「……それよりさ、先生の斬沢って苗字、どこかで聞いたような気が」
「おい、そこのお前!」
突然、斬沢先生が大声を出した。
顔を上げると、彼は俺の方を見ていた。
「俺、何かやっちゃいました?」
「何かやっちゃいましたじゃねえんだよ。人が話してるときは人の話を聞けって習わなかったか?」
「あー、すみません。ところで先生、入学者代表の斬沢さんと何か関係があるんですか?」
「あ? どういう意味だよ」
目つきの悪い斬沢先生の目が、さらに凶悪さを増す。
こんな人が教員やってていいのか? コンプラ違反じゃないの?
「いや、苗字が一緒だなあって思って」
「斬沢アオは俺の娘だよ。それがどうした?」
「あ、やっぱりそうなんですね。優秀なお子さんを持つと色々と不安が絶えないでしょう。男親としては心配なんじゃないですか? ほら、この学校って寮生活だし、変な虫が寄り付かないとも限らない」
俺が言い終わると、クラス中を痛いほどの沈黙が包み込んだ。
……入学早々目をつけられるとは。やっぱり俺は不幸の星の元に生まれてきたに違いない。
「――じゃねえか」
「え、なんです?」
「よく分かってんじゃねえか、お前。名前は?」
「え? えーと、エル……真白エルです」
威圧感を身にまとった斬沢先生が、教壇から俺の方へ歩いて来る。
そして、俺の肩に手を置いた。
「真白くん。君は俺の気持ちをよく分かってるなぁ!」
「……はい?」
見ると、斬沢先生は両目から涙を流していた。
「俺が言うのもなんだがよ、ウチの娘は顔も可愛いし頭も良い。君の言う通り俺はあの子が心配で心配で仕方ねえんだよ。それなのに、アオは俺のことを臭いだの汚いだの……!」
斬沢先生は、スーツの内ポケットから一枚の写真を取り出した。
可愛い女の子が映っている写真だ。
多分幼い頃の娘さんの写真だろう。
「昔はあんなに素直で可愛かったのに、今じゃ……。俺がこの学年の担任を志願したのも、あの子をどこの馬の骨かもわからねえ男から守るためなんだよ! それなのにEクラスの担任なんかになっちまって! うう……!」
どうやら彼の触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。
まあ、どうやら俺に怒っていたのは忘れられちゃったみたいだし、良いか。




