その⑫
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「遅かったわね庶民ども! エリートたるわたくしを待たせるなんて千年早いですわっ!」
扇を片手にEクラスの座席で俺たちを待ち構えていたのは、あの金髪女――もとい、神奈崎だった。
「待たせたってどういうことだよ。ここは学園の底辺を誇るEクラスの席だぜ。エリート様がEクラスなんかに何の用?」
「うっ……嫌味な男ですわね! 事情を知っていて言っているのでしょう!?」
事情……?
あっ。
「まさかお前、俺とケンカしたから――」
俺が言うと、神奈崎は俺を睨みつけて来た。
「その通りですわっ! あなたのせいでわたくしは試験を受けさせてもらえずにEクラスに配属されたのですわ!」
「……ということは、あれだな」
「な、なんですの?」
「エリート崩れ……いや、元エリート……もしくはプライドと口だけの女……」
「こ、ここぞとばかりにっ……! 悔しいっ……、でも否定できないっ!」
「だってあれだけエリートエリート言っておいて学園最底辺のEクラスなんだもんなあ。ま、これから仲良くしようぜ、元エリートさん」
俺が右手を差し出すと、神奈崎にその手を思い切り叩かれた。
「馴れ合いはしませんわ! 見てなさい、わたくしは必ずエリートの誇りを取り戻して見せますわよ! エリートの下克上ですわ!」
も、燃えてる。
元エリートさんが燃えてらっしゃる!
椅子の上に仁王立ちし握りこぶしを作る神奈崎の姿は、気が付けば周囲の注目の的になっていた。
……他人の振りをしておこう。
ほら、周りの人がこっちを見て囁く声が聞こえてくる。
「おい、見ろよ、あいつ……」
「そうだぜ、試験の時に暴力事件を起こしたっていう……」
「ああ、あの金髪の子? 可哀そうに、Eクラスだってよ」
「いや、そっちじゃねえ、男の方だよ。あいつ、腹に穴が開いても死ななかったらしいぜ」
「うわ、Eクラスってやっぱりヤバい奴らの集まりなんだな」
ん?
あれ、もしかして俺、注目されてるっ!?
「エルさん、座って座って」
ユイに袖を引かれ、俺は彼女の隣に座った。
「なんか俺、うわさになってるみたいなんだけど」
「入学当初からあれだけの魔法戦をやったのですから当然ですよ! それより、いよいよ私たちの学校生活が始まるんですね! この人たちがみんな同じクラスの仲間なんて、わくわくします!」
ユイは周りの席に座る、栄えあるEクラスのクラスメイトたちを見て目を輝かせた。
だけどEクラスの座席に座っているのは意気消沈している生徒たちばかりで、目を輝かせるような要素はどこにもないように感じた。
AクラスとかBクラスとかの席はまさしく青春って感じの煌びやかな雰囲気に包まれているのに、俺たちの席だけまるでお通夜ムードだ。
っていうかよく見たら、俺たちの椅子は錆びついたパイプ椅子なのにAクラスの椅子は高級そうなソファじゃないか。しかもメイドみたいなお姉さんが飲み物まで配ってるし。
同じ魔導学園の生徒であるはずなのに、この扱いの違い……これが格差社会か! 納得!




