その⑩
目里先生は静かに首を振る。
「入学は出来ます。――ただし、強制的に最下位ランクのEクラスに配属になります」
そ、そんな。
俺はただ列に割り込んできた人に注意しただけなのに……。
いや、とにかく魔導学園に入学するという目的だけは間違いなく達せられる。
でも、入学届が届いた時点で入学することは決まっているのだから、別にわざわざ準備して試験を受けなくても――もっと言えばこうして試験を受けに来なくても――良かったかもしれない。
こんなことなら、サボればよかった……。
「き、傷の具合はどうですか?」
「傷?」
目里先生に言われて俺はようやく自分の腹部の事を思い出した。
そういえばあの金髪女にやられたんだったっけ。
気が付けば服も着がえさせられていた。血まみれだったし、替えてくれたのはありがたいんだけど、一体誰に着がえさせられたんだろう。
傷口のあったところを触ってみると、完全に塞がっていた。血の一滴も出ていないし、わずかな痛みも感じない。
「ああ、大丈夫です。今まで怪我のことを忘れていたのが何よりの証拠でしょ? 一体どんな魔法を使ったんですか?」
「く、詳しくは言えませんが、魔法が半分、魔導王国時代の科学技術が半分といったところです」
「なるほど。知的好奇心を刺激される非常に興味深い治療法ですね」
「……分かってないですよね?」
「あ、バレました?」
「と、とにかく、怪我の調子が良いようなら帰宅許可を出します。もうこの学校に残っている新入生候補はあなたくらいなものですから。動けますか?」
「はい、完璧です」
俺はベッドから立ち上がり、手足を動かしてみた。
全く違和感がない。
「で、でしたら帰宅して構いません。何か後遺症が出るようであれば、またここに来てください」
「はい。あー、ありがとうございました」
目里先生は表情を変えないまま、俺に手を振った。
俺はドアを開けて、医務室を後にした。
――で。
「ここから、どうやったら出られるんだ……!?」
俺の目の前に広がるのは、どこまでも続いているようにも思える廊下。
校内の地図なんて覚えてるはずもないし、このままだと学校で遭難してしまう。
戻って目里先生に訊こうかな、なんて俺が思っていた時。
「あっ、エルさん! 無事だったんですか!?」
廊下の片隅に見覚えのある人影があった。
「ユイ! なんでこんなところに!?」
「な、なんでって……エルさんが心配だったんですよ! 怪我がひどそうだったから!」
ショートヘアの少女は照れたように言った。
「そうか。おかげで俺も元気百倍だよ。でさ、ちょっと頼みがあるんだ」
「なんですか?」
「――あのさ、出口まで案内してくれないかな?」
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