その①
※※※
「エル君、大切なのはイメージだよ」
「イメージ?」
木々に囲まれた小さな小屋に、ぼくとニィおばさんは二人で住んでいた。
小屋の前には広い畑があって、ニィおばさんの魔法で育った野菜が一面に植えられている。
その畑の一角で、僕は今おばさんに魔法を習っているのだ。
「そう。魔法はイメージなんだよ。自分が実現させたいものを思い浮かべて、魔力を通じて現実に働きかける。それが魔法なんだよ」
おばさんは地面に向けて両手を広げた。
すると、若い木が地面を突き破るようにして生えてきた。
「すごい……おばさんはいつから魔法を使えたの?」
「エル君よりずっと小さい頃からだよ。っていうか、エル君。あたしまだ二十代なんだからね。おばさんじゃなくてお姉さんって呼んでって前から言ってるはずだけど?」
「そう言われたって、ニィおばさんはぼくの父親の妹なんでしょ? 血筋上はおばさんのはずだけど」
「あんまりおばさんおばさん言われると、あたしだって少し悲しい気分になるんだよ。それ以上おばさんって呼んだら、魔法は教えてあげないよ?」
「分かったよ、ニィお姉さん」
ぼくが言うと、おばさんは満足げに笑った。
確かにおばさんと呼ぶには若いんだろうけど、小さい頃からずっとそう呼んでいたのだから今更変えようとしても変えられない。
「それではエル君、君の番だよ。ちょっとやってみて」
「やってみてって?」
「だから……そうだね、私が今やったように植物を生成してみるんだよ。樹が地面から生えて来る様子をイメージして、それから魔力の流れを掴んで」
「うん。こうかな?」
ぼくはニィおばさんの真似をして、両手を地面に向けた。
それから木が生えてくる様子をイメージする。
だけど、木はおろか双葉さえも生えてくる気配はなかった。
「魔力の流れを感じないといけないんだよ」
「魔力の流れって何?」
「えーと、言葉で説明するのは難しいんだけど、空気の中に微妙な感触の力の流れがあるっていうか……きっとエル君なら感じ取れるはずだよ」
「どこにそんな根拠があるのさ」
「……あたしの勘ってことにしておいて」
勘か。
当てになるのかな、おばさんの勘。
でも、なんとなくやれそうな気がしてきた。
ぼくは目を瞑って、おばさんの言う魔力の流れとやらを探した。
冷たい風や昼下がりの日の光、ニィおばさんの気配。
僕の周囲を取り巻く様々なものに混じって、それは確かにあった。
温かいような冷たいような、よく分からない力の流れに、ぼくは自分のイメージを同調させる。
「エル君! やったよ!」
「え?」
おばさんの声にぼくが目を開けると、そこには先ほどまでなかった一本の若木が生えていた。