その⑥
「庶民庶民ってうるさいな。ここはお嬢様学校で俺はサンプルか何かですか? 俺にはエルって名前があるんだけど」
言いつつ、俺はユイに離れるように促した。
ユイは頷いて、俺たちから離れた。
「わたしくしにとって庶民は庶民。家畜と同じで名前を覚えるまでもない存在なのですわ。身をわきまえない庶民にわたくし自らが罰を与えてさしあげます。さあ、どうされたいかしら? まずはその小うるさい口から」
俺は咄嗟にしゃがみ、頭をひっこめた。
頭上を何かが高速で通り過ぎていき、髪の毛が数本切り裂かれたような気がする。
一体どういう攻撃なんだ?
まさか、魔法か?
この神奈崎とかいう女も魔法を使えるのか?
相手から距離を取りつつ、俺はそんなことを考えた。
「この……っ、俺を殺す気か!?」
「わたくしのような一握りのエリートとは違って庶民など掃いて捨てるほどいるのですから、一人二人減ったところで何も変わりませんわ」
「――ッ! 人の命は大切にしろ!」
イメージはすぐに固まった。
次の瞬間、地中から現れたツタが神奈崎の両手を縛りあげた。
「こっ、これは……!?」
神奈崎の表情に動揺が走る。
「『縛式術』。特殊な結び方をしているから、動かせば動かすほど締め付けは厳しくなるぜ」
「庶民のくせに魔法を使うというの!? 生意気ですわ!」
怒鳴りながら、神奈崎は両腕に絡みつくツタを振りほどこうと必死に腕を振り回すが、そのせいでますます締め付けが厳しくなる。
「決着はついた。それ以上動くと鬱血するから、おとなしく最後尾に並べよ。そうすれば魔法を解除してやる」
「抵抗すればするほどキツく縛りつける魔法なんて、庶民らしい下衆な発想ですわ。この変態!」
「へ、変態!? なんで俺が!?」
「わたくし、女の方が縄のようなもので縛られている映像を見たことがあるのですわ! そしてそのような映像を見て男の方は悦ぶのでしょう! わたくし知ってますわよ!」
「……俺にはよく分からなんだけど、なんで男が喜ぶものをお前は見たことあるんだよ?」
「それは興味があったから――あっ」
ハッとしたように神奈崎が目を大きくして、そしてなぜか顔を赤くする。
「とっ、とにかく! わたくしの高貴な体を縛り付けようなどと、下衆のすること!」
なんだ、この女。怒鳴ったり怒ったり忙しいな。
金持ちってみんなこんな感じなんだろうか。
だとしたら、俺は金持ちじゃなくて良かったかもしれない。




