その④
「……ユイを疑うわけじゃないんだけど、その話本当なの?」
「本当ですよ。私だって魔法使えませんし」
「で、でも今から魔法の試験があるんだろ?」
「試験と言っても魔力量の測定とか魔法の適性とかを試験するだけで、実際に魔法を使わせることはないらしいですよ」
「え、そうなの」
じゃあ俺のここ一か月の努力は一体!?
いや、来るべき時のために魔法は鍛えておく必要はあった。努力が無駄になったってわけじゃないだろう。
「でも、エルさんはもう魔法を使えるのだから、ひょっとするとAクラスに配属されるかもしれませんね。一緒のクラスかもと思ってたんですけど、ちょっと残念です」
「そんなことは試験を受けてみないと分からないよ。せっかくこうやって知り合いになったんだし、俺もユイと同じクラスがいいな」
俺が言うと、ユイはなぜか顔を赤くしながら、
「い、いきなりそんなこといわないでくださいよ、もう!」
なんて言って俯いてしまった。
どうしたんだろう。
気に障ることを言ってしまったのかな?
同年代の人とのコミュニケーションに不慣れなのは、俺の欠点だよな……。
と、その時、周囲の人たちがどよめきだした。
俺が何かやっちゃったかと思って辺りを見渡すと、どうやらそうではないことが分かった。
「……誰だ、あれ?」
周りの人がやっているように後ろを振り返った俺は、豪華な装飾のついたひらひらのドレスに身を包んだ金髪の少女が、黒服の厳つい男たちを従えながら歩いて来るのを見つけた。
「どこかのお嬢様でしょうか?」
ユイも俺の隣で背伸びをしながら少女を眺める。
「いかにもって感じだよな。本当にああいう人がいるんだなあ」
当然ながら、初めて見た。
「ここに居るってことはあの人も試験を受けるんでしょうか?」
「なるほど、確かに」
金髪の少女は列の一番後ろに並んだ――かと思えば、彼女の前に並んでいた人たちが一斉に道をあけ始めた。
少女は黒服たちに囲まれながら、開いた空間を前へ進んでいく。
「え、な、何? 何が起こってんの、ユイ」
「私に聞かれても!」
なんて俺らが言い合っているうちに、金髪の少女と黒服の一団は俺の目の前まで来ていた。
気づけば、彼女たちの前に立ちふさがっているのは俺たちだけになっていた。
黒服の一人が言う。
「神奈崎家の令嬢、神奈崎レエネ様のお通りである。列を譲れ、庶民」




