その③
「いやいや、そんなに大したことじゃないんだよ。生やせるって言ったって一度に少しだけだし。俺のおばさんは、魔法で畑を野菜だらけにできたんだ」
ふと俺の脳裏に、あの巨木で組まれた壁の光景が浮かんだ。
おばさんが死ぬ間際、俺を守るために魔法で作り出した木のバリケードだ。
…………。
「それなら、エルさんの家系は――あれ、エルさん?」
気づくと、夕凪さんが俺を心配そうに見つめていた。
「あ、いや、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけ」
「考え事ですか?」
「個人的なね。気にしないで。それで、さっき何か言おうとしてなかった?」
「は、はい。ええと、エルさんの家系は皆さん魔法が使えるんですか?」
次は家系の話ときたか。
俺の頭には、当然、俺を捨てた両親という単語が思い浮かぶ。
家族の話も魔法の話も、どれも嫌な思い出に繋がってしまう。これじゃまるで俺、面倒くさいやつだな。
「ちょっと俺の家、複雑でさ。そういうのよく分からないんだ」
俺が言うと、ユイはハッとしたような顔をして、
「ご、ごめんなさい! 失礼なことを聞いてしまいましたか?」
「謝らなくていいよ、ええと、夕凪ユイさん」
「あっ」
「え?」
「えーと……ユイ、で良いですよ」
恥ずかしそうに夕凪さん改めユイが言う。
確かに夕凪さんと呼ぶよりはユイと呼んだ方が呼びやすい。噛まずに済みそうだし、文字数も少ないし。
「分かった、ユイ。話を続けて」
「あ、は、はい。えーとえーと、そう、魔法を使うには血筋も大切なんです。両親が魔法を使える場合、その子供はほとんど8割の確率で魔法を使うことができると聞きます」
「へえ、そうなんだ」
「もちろん突然変異的に魔法が使えるようになる人もいます。この魔導学園は、理由はどうあれ魔法が使える、もしくは魔法を使うことのできる才能を持つと認められた人を集めているのです」
似たような話は真白さんから聞いた気がする。
「つまり、誰でも魔法が使えるわけじゃないってこと?」
「そうです。それに、この時点で魔法を習得している人は少ないと思います。だって、魔導学園以外に魔法を身に着けられる場所なんてないんですから」
「どういうこと?」
「えーと、要するに、魔導学園に通わずに魔法を身に着けることは出来ないんです。基本的に。もし今ここに居る人の中で魔法を使える人がいるとしたら、その人は魔法を教えられる特権を持った人の関係者ということになるのです」
なんか話がややこしくなって来た。
少なくとも、おばさんはそんな特権を持っているような人には見えなかったけどな。




