その②
「えーと、俺は真白エル。君は?」
「わ、私は夕凪ユイです。あなたも魔導学園に入学されるんですか?」
「うん。ということは、君もなんだろ?」
「は、はい」
夕凪ユイと名乗る少女が頷く。
ちなみに、これも俺は知らなかったことだけど、この国では名前の他に苗字と呼ばれる言葉を名乗らなければならないらしい。
一応、今の俺は真白さんの養子ということになっていて、戸籍の登録がどうのこうのと真白さんが言っていたのを覚えている。
というわけで、俺の名前は真白エルなのだ。
「あ、さっきの筆記試験どうだった? 俺、あんなに難しいなんて思わなくてさ」
「あ、私もです! ほとんど空欄で出しちゃって……」
夕凪さんは照れたように笑った。
こうして同世代の人と話すのはほとんど初めての経験だ。今まで話したことのある人と言えば、ニィおばさんとか真白さんとか年上の人ばかりだったから(というか、この二人くらいしか話したことがないから)、なんだか新鮮に感じる。
「そうだ、君どこから来たの? この近く?」
「いえ、私はマティスタウンから来ました。えーと、ここからだと結構遠いです。すごく田舎で、電車も一時間に一本来るか来ないかなんですよ」
それがどのあたりにある町で、どのくらい田舎なのかは俺にはよく分からないけれど、とにかく田舎らしい。
「へえ、そうなんだ」
「エルさんはどちらからいらしたんですか?」
「ええと、どこだったかな。そんなに遠くないんだ。電車で一時間もかからないくらい」
「だったらラフィシティの辺りでしょうか……? 街の名前、覚えてないんですか?」
「うん、最近引っ越したばかりで」
そもそも、町や村といった概念自体最近知ったことだ。
ずっとおばさんと人目につかないようなところに住んでいて、そしておばさんもそういうことは教えてくれなかったのだから仕方ないか。
常識を教えられるのを、忘れていた。
「エルさんは魔法、得意なんですか?」
「どうだろう。俺のおばさんは色々な魔法が使えたけど、俺はそんなに得意な方じゃないかな。植物を生やすくらいしかできないし」
「……ということは、植物を生やすことができるってことですか!?」
夕凪さんが目を丸くする。
「うん、まあ」
「えーっ! 凄いです! さすがです!」
夕凪さんが急に大きな声を出したので、周囲に並んでいた人が一斉にこちらを振り向いた。
こうやって大勢に見られるのも初めての経験だ。
うわ、ちょっと恥ずかしい。




