その①
※
「止め。全員ペンを置きなさい」
教室中の人が一斉にペンを置く音が響いた。
俺が真白さんの家に住むようになってから一か月。今日は魔導学園のクラス分け試験の日だ。
試験を受けるために、俺はわざわざ電車やバスを乗り継いで、この国の首都であり魔導学園の校舎があるグルツシティまでやってきたのだ。
電車とかバスなんてものに俺は初めて乗ったのだけれど、俺の他にも人がたくさん乗っていて、あまり気持ちのいいものではなかった。
真白さんが言うには、そういった交通機関は現在の国が出来て急速に普及した者らしい。
以前――つまり、この国ができる前はどこへ行くにしても馬車や徒歩だったとか。
確かに、俺が小さい頃、まだ街に住んでいたときはまだあちこちで馬車が走っていたような気がする。今はほとんどが自動車とかいう鉄の塊にとってかわられているけど。
話が逸れた。元に戻そう。
魔導学園にはAクラスからEクラスまで分かれていて、この試験を元にクラスを割り振られるらしい。もちろんAクラスが優秀で、Eクラスが落ちこぼれだ。
クラス分け試験が終われば再来週には入学式があり、そして学園生活が始まる。
この魔導学園は全寮制だから、入学と同時に真白さんの家とはしばしのお別れ、ということになる。
この一か月、試験に向けてそれなりに勉強はしたけれど、所詮付け焼刃だ。大した成績が得られるとは思えない。
まあ、Eクラスでも魔法が学べることに変わりはないだろう。
俺の目的はこの学校で優秀な成績を収めることじゃない。『彼岸』の連中に復讐できるだけの力を得ることだ。
――実際試験を受けてみて、思った以上に問題が解けなかったのは少々ショックだったけど。
筆記試験が終われば次は魔法の実技試験だ。
魔法は自分なりに練習してきたつもりだ。その成果を見せつけてやる。
※
実技試験は校庭で行われることになっていた。
だから俺は、教室を出てそのまま校庭に向かった。
端っこが見えないようなだだっ広い校庭には、既に長い列が出来ていた。
熱心な人が多いらしい。一体どんな試験を受けさせられるんだろう。
俺は、列の一番後ろに並んだ。
目の前には茶色い髪を肩の辺りで切り揃えた、眼鏡をかけた女の子が並んでいる。
「……君も試験を受けに来た人?」
俺が声をかけると、女の子は肩をビクッと動かして俺の方を見た。
「は、はいっ!?」
どうやら驚かせてしまったらしい。
困ったな。俺はあまり人と関わった経験がないものだから、そういう反応は勘弁してもらいたいんだけど。




