その⑩
「……どうしてぼくらを? ぼくの両親を恨んでいるのなら、あの人たちを殺せば良かったじゃないですか」
一瞬、真白さんの表情が歪んだように見えた。
だけど気づけば彼はまたいつも通りの顔に戻っていた。
「さっきも言っただろう? 君の両親の行方は『彼岸』でさえ掴んでいないんだよ。彼らにとって、標的に繋がる唯一のカギが君であり、また、君という存在が国を滅ぼすような力に目覚める可能性を秘めた脅威だったのさ。だから、君を殺そうとした。君を殺すことで脅威を排除し、標的である君の両親の動揺を誘おうとした」
「そんな……」
そんな自分勝手な理由でぼくらを殺そうとしたのか?
「君に危険が及んだのはボクの責任でもある。ボクの対応がもう少し早ければ、君のおばさんは死なずに済んだかもしれない。本当にすまない」
「……真白さんが謝る必要なんてないですよ。ニィおばさんが帰ってくるわけでもないし」
今までぼくを育ててくれた、あの優しいお姉さんはもういない。
あの人が最期に浮かべた笑顔を思い出すたびに、ぼくは血が熱くなるような気がした。
「それで、ぼくはこれからどうなるんですか? ぼくがここにいたら真白さんもその『彼岸』って人たちに殺されるかもしれないんでしょ?」
「逆に訊くけど、君はどうしたい?」
「――え? どういう意味ですか?」
予想外の言葉に、僕は思わず聞き返していた。
「そのままの意味だよ。君はどうしたい? ボクは君の意見を尊重するよ」
「ぼくは……」
ぼくはどうしたいかなんて、そんなことは決まっている。
「ぼくは、いや、俺は、その『彼岸』って奴らを皆殺しにしたいです」
真白さんは俺の顔をじっと見ただけで、しばらくの間何も言わなかった。
そして、彼の中で何か考えがまとまったのか、おもむろに口を開いた。
「もし君が、昨晩の件で自分の力を過信しているのならやめた方がいい」
「……知ってたんですか?」
「知っていたも何も、あの血だまりの中に倒れた君を見つけたのはボクだからね。もちろん君にもあれくらいの力はあるだろうとは思っていたけど」
「だとしたら、どうして止めるんです」
「それじゃ、エル君。君は今すぐここで、『彼岸』の兵士を殺した力を発動できるのかな?」
「……っ!」
真白さんは全てを見透かすような目で僕を見る。
初めて俺は、真白さんのことを怖いと思った。
「だからさ。君の望む復讐のためにも、その力を鍛えなきゃいけないと思わないかい?」
「何が言いたいんです?」
「君宛に魔導学園の入学届が届いている。ボクはいい機会だと思うけどね」




