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プロローグ2 ゲス幼女さん

二話目です

「はぁ……」


魔道大国サビリウス。

その王宮にほど近い湖畔で少女がため息をついていた。

思わず撫でてしまいたくなるような二つに結われたゆるふわな銀髪が風に揺れる。アメジストのような双眸はただただ地面を見据え、その整った顔には翳りが見える。


「どうして……こうなった」


ダウナーな雰囲気を漂わせる彼女こそ、最年少にしてサビリウス宮廷魔道師団に所属する若きエリートであり、前世がクズニートのノエル・アストレイアである。

なにがどうなったらクズニートからこうも変身するのだろうか。


「どうしたんだい、ノエル。ため息は幸福を逃がすというよ」

「……勇者のせい」

「ああ、そういえば今日だったね、勇者が王宮にお呼ばれされるのは。

ノエルは彼のパーティーに誘われているんだろう? 」


ノエルの隣に腰掛けているのは、燃えるような赤い髪の少女。

ノエルと同じく宮廷魔道師団に所属するリーカー・スブレインだ。ノエルのたった一人の友人であり、また性欲の対象でもある。ノエルには純粋な友情など存在しないのだ。


「……興味……ない」

「そっか。……勇者のパーティに入れるなら世の中の女性は全財産だろうと喜んで積むだろうに。さすがノエルだよ」

「リーカー……わたしと代わ、る……?」

「いいや、遠慮しておくよ。勇者はノエルを誘ったんだ。ボクじゃない」

「……そっかー」


勇者。

魔族を束ねる魔王の侵攻を危惧したサビリウス王が古より伝わる召喚魔法で異世界から召喚した人間である。強力な力を持ち、唯一魔王と対抗できる人間なのだとか。

そしてノエルはそんな勇者の魔王討伐パーティーから誘いを受けていた。

普通の人間なら泣いて喜ぶその栄光はしかし。


────めんどくせぇ。魔王討伐とかクソほど興味ねえんだよ。


クズニートクオリティ。

前世から働きたくない病を患っているノエルの心中はこのところずっと荒れていた。


「ノエル、本当に嫌なら断ってもいいんだよ。なにせ、君は宮廷魔道師団のメンバーだ。君の方に選択権がある」

「……ん、あの」

「それにノエルは……失礼だけど人と話すのが苦手だろう? 魔道師団と違ってパーティーは仲間との連携が最も重要なんだ。君には荷が重いと思う」


ノエルは、サビリウス語が流暢ではない。

前世で『あいどんすぴーくいんぐりっしゅ』であったノエルは新しい言語を覚えるのが非常に苦手なのだ。

そのため、未だに拙い喋り方しか出来ず、今世でもぼっち路線を独走している。


「まあ、でも給料は魔道師団よりも多いだろうね。とはいえ、所属してるだけでお金が貰える魔道師団と違って、勇者のパーティーは最低限働かないといけないだろうけど」

「……リーカー」

「だから、やっぱり君は────ん? なんだい? 」

「…………王命」

「は? え!? 王命!? どういうことだよ!! 」


王命ときいた途端、リーカーがノエルの肩を掴んでガシガシと揺さぶる。ノエルの方といえば眉を八の字に下げて困ったようにするばかり。

王命、それはつまり王からの勅命である。

拒否権は────ない。

つまりそれはノエルがどんなに嫌だと言おうが受け入れられないことを意味する。


────何が悲しくてイケメン勇者と行動を一緒にしなきゃならねえんだ。王許すまじ。


ノエルは前世からイケメンが嫌いである。理由は特に無いが、なんとなくムカつくのである。

理不尽ここに極まれし。

とまあ、そんなノエルが美青年と名高い勇者と行動を共にしろと強要されたらどうなるか。簡単である────


「……もういっそ、魔王の……仲間になって、サビリウス、滅ぼ、そうかな……?」

「何言ってるのノエルぅ!? 」


目が据わっているノエルを、リーカーは再び肩を掴んで揺さぶる。


「考え直すんだ! 君のそれは洒落にならないッ! 」

「……首、折れ……」

「第七位階の君が! 暴れたら! 冗談抜きでこの国終わっちゃうからぁ! 」


この世界で最も重要な役割を担う魔術。それを扱う魔道師には、ご丁寧に第一位階から第十階位まで術者としてのランク分けがされている。

ちなみに三位階から上級魔道師として認められ、第五位階以上になると王宮お抱えの魔道師として宮廷魔道師団に誘われるのだ。


「そもそもね! ノエル、君は本当におかしいよ! なんで初めて使った魔術が第六位階相当の威力なんだよ! 」

「……なんかできた」

「うきぃぃ!! ボクなんて血を吐くほどの努力を重ねて重ねて!!! やっと第五位階なんだぞぉ!」


第六位階からは人外というのが一般人の意見。

第九位階以上に関しては誰も存在しないときた。どうしてあるのだろうかと疑問に思わなくもない。


「はぁ、本当にノエルはずるいよ……」


項垂れるリーカーにノエルが優しく微笑む。

それは正しく聖母の笑であった。


「ねえ……リーカー。聞いて、わたしはね────」


現状、第八位階までの術者しか存在しないこの世界において、第七位階の術者たる元クズニートのノエルは、


「天才なの……♪ 」


恐ろしいことにトップクラスの天才なのであった。

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