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プロローグ クズニート散る

初めての異世界転生ものです。n番煎じも甚だしいシロモノですが、どうぞ生暖かい目で見守ってくださいませ。

パソコンのモニターから漏れる光だけが照らす暗い部屋。完全に閉め切った遮光カーテンにより、今が昼なのか夜なのかさえ定かではない。

そんな外界と隔絶された空間の隅、毛布を頭から被った男がいた。


「あぁ〜〜〜〜まったく!! 親の金で食う飯は格別だな!」


18歳、クズニート。社会の害悪を体現したゴキブリのような男である。

日がなゲームと電子掲示板にのめり込み、これは立派な自宅警備という職務だと言って憚らない彼は、当たり前ではあるが家族のみならず親戚全体から嫌われていた。


「ねえねえ、ママ、パパー! あのね、今日ね、算数のテストで100てんとったんだ! 」

「おお! えらいじゃねえか!」

「すごいね~」


薄い壁一枚隔てたリビングから聞こえる、家族の楽しげな会話も。男の耳には煩わしい蝿の羽音と似たようなものである。

壁まで這っていき、


「うるせぇ! 黙れよゴミ共!! 」


怒声と共に“壁ドン”をする。

シーンと時間が止まったかのように静まり返る家。

男はこの感覚が好きだった。自分の壁ドンで楽しそうな談笑が一瞬で止まる。

それはまるで自分が王に、神になったかのような錯覚すら覚えた。クズの極みであるが楽しいからしょうがない。


「さぁて、アホ共の書き込みでも眺めるかなぁ〜」


気分が良くなった男は、ニヤニヤと誰もがイラつく表情を浮かべながら電子掲示板を開くためにパソコンの元へ行こうと立ち上がる。

しかし、


「おい、穀潰し」


突如部屋のドアを蹴破ってきた何者かによってそれは叶わず、男は宙を舞った。


────な、なんなんだよおい!? 何が起こったよ!?


男の心中を占めるのは膨大な疑問符。

しかしそれも一瞬。

壁に叩きつけられ、肺を満たしていた空気が一気に漏れる。


「な、な……ゴホッ、ん……だ、よ」

「穀潰し、よく聞けよ。今日ばかりはさすがの俺も堪忍袋の緒が切れた……」


咳き込む男を見下ろしていたのは、ゴミを見るかのような目で青筋を立てる男の父親だった。


「な……にす、んだよ。……クソがァ!」

「ああん? 親に向かってなに舐め腐った口きいてんだよ、穀潰し」


怒りで殴り掛かる男を、父親は鳩尾を容赦なく蹴って吹き飛ばす。そして痛みで蹲る男の襟首を掴み、父親は息のかかる距離まで顔を近づけ囁く。


「俺も、てめぇの母もいつかはてめぇが更生して社会復帰してくれることを期待してたんだよ。そのためにゲームやらなんやらにも金を使ってやった」


父親は男の襟首を放し、静かな怒気を纏いながら続ける。


「けどこれはなんだ? いつまで経っても社会復帰する様子がねぇ。いつもゲームしては食っちゃ寝の堕落した生活。挙げ句の果てに俺たち家族の団欒を邪魔するときた。てめぇは何様のつもりなんだ? え?」

「う、るせぇよぉ……! 俺は悪くねぇ! 俺がこんなザマなのも全部お前らのせいだぁ!!!!!」


だがしかし、最早更生できる域にいないクズニートたる男に父親の言葉は響くことは無かった。現状の責任転嫁をし、逆に怒鳴る始末。

救いようがない。

父親は男の足首を掴み、男が物の角にぶつかろうが、痛いと叫ぼうが、構わず玄関まで引き摺っていった。


「もう帰ってくんなよ。どっかで野垂れ死んでろ」


そう吐き捨てられるとともに、男は外へ放り出される。

扉が閉まる一瞬、男の視界に映った父親の顔は、自分が本当に家族に見限られてしまったことを男に教えるに充分に足るものだった────


「ひでえよ。俺が何したってんだよ……あのクズ親父が! 」


ぶつぶつと恨み言を吐きながら歩く男。

着ているものは家を追い出される前に着ていたパジャマだけ。

人々が行き交う往来のど真ん中でその格好はとても目立つものである。


「ねえねえ、あのお兄ちゃんはどうして寝るときの服なの? 」

「こら、見てはいけません」


男は自分を指差す少年とその母親らしき女性を睨みつける。

ただの八つ当たりである。


「死ねよチビザル」


勿論、すれ違う瞬間に悪態をつくのも忘れない。


────どいつもこいつも俺を見下しやがって。本気出せば俺は何だってできる天才なんだぞクソが。


男は苛立ち混じりに近くにあった電柱を蹴る。彼は最早心内で燻る怒りでいっぱいいっぱいであった。

だからこそ、気が付かない。


「そこのお前ェ! そっからはやく離れろォ!! 」


自分に呼びかける声に、


「きゃあああああ!!! 」


歩道を歩いていた人々をはね飛ばしながら男の元へ迫る鉄の塊に────気付かない。


然してその瞬間は呆気のないものだった。


「はえっ? 」


間抜けな声が男の口から洩れると同時に、一瞬の圧迫感。男のもやしのような体が紙きれのように宙を舞う。そして刹那に訪れる浮遊感。


────今日は飛んでばかりだなぁ。


男の瞳は、流れゆく景色を余さず捉えていく。

両手のひらを口に当ててドン引きする女子高生。母親に目を塞がれるチビザル。唖然として口を開きっぱなしにしたオッサン。視点が何度も右往左往し、目まぐるしく変わっていく世界。

しかしそんな映像も終わりを告げる。

暗転。

男は8tを誇るトラックによって、そのまま引き摺られて肉塊となった。クズニート、挽肉へジョブチェンジである。


────次に生まれ変わったら本気出す。


彼が死の直前、呟いた言葉は誰の耳にもとまらず彼の意識とともに霞んで消えた。



それが今世で、ノエル・アストレイアと呼ばれる女の子の前世の記憶。

かっこ悪くて、ゲスで、嫌われ者だった男の退廃的な日常の記録である。

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