ラッキースケベを偶然にも誘発させる俺とは
「さて」
放課後になった、朝与次郎先生に呼ばれていたな。
今日は先生が担当する授業がなかったからあれから会う機会も無かったが
俺を呼び出すのは一体どういう理由があるのだろう。
「失礼します」
俺は職員室の扉を開き与次郎先生を探す。
「先生、言われたとおり来ましたけども」
「あぁ、椎名君!よかった忘れてなかったんですね!先生は嬉しいですよ~」
なんだか年下にしか見えない容姿でそんなことを言われると奇妙な気分になるのだが
純粋に教師として言いつけを守られたことに喜んでいるのだろう。
なんとなく、この人が考えていることは生徒のためが第一な気がする。
「ともあれ先生、服を着てください」
「下は履いてますが」
「上を着てください」
「バカには見えない上着なので」
「バカに見られてもいいと言うんですか」
それもそうだ、といそいそシャツとジャケットを着る先生なのであった。
考えていることは生徒のためだろうが、行動は伴っていないのではなかろうか。
「そもそも職員室で下着姿になっても何も言われないんですか?」
「先生が貴方を呼んだのはですね、少しお話があるからなのです」
無視された
「お話ですか?僕、何かしましたかね」
女生徒に股間を押し付けられたり握られたりしたことは多々あるが不可抗力である。
責められる謂れはないと思うのだが、思い当たることと言えば
「お話をする前にですね、先生貴方にちょっと聞きたいことがあるんです。いいですか?
答えたくないことであれば答えなくても良いので一応聞きますね」
「あ、はい。どうぞ、何でしょう」
質疑応答が始まった。
「んーと、そうですね。まずはじめに、椎名君は性欲ってありますか?」
「……?は?性欲?保健体育で習うようなあの性欲?思春期にありがちな劣情?性欲ですか?」
ちょっと取り乱してしまった、とはいえいきなりなんてことを聞くんだこの教師は。
「んー、はい。貴方の考えているもので間違ってませんよ。どうですか?」
「それは、まぁ……人並みだと思いますけど。」
「はい、正直でいいですね。先生はそういう生徒が好きですよ」
ちょっとドキッとしてしまった。
容姿と年齢の差異はこの際置いておくとしても見た目はいいからなこの人。
好きという単語がこの口から出ると多少動揺してしまうだろう、誰だって。
「人並み、ですよ。唐突に性犯罪を犯すようなレベルではないです。
というか何なんですかこの質問。
できれば聞かれたくありませんでしたし、答えたくありませんでした。
もう答えてしまったのでいいんですが、意図がわかりません」
動揺を隠すように少々まくし立ててしまったが嘘ではない。
思春期の青少年にとって触れられたくはない部分ではあるだろう、そうだろう?
「まぁそれは少々先生としても聞きづらいと言いますか。聞いておいてなんですが恥ずかしい気も。
でも必要なことなんです」
先生は続ける
「では、次に聞きたいのですが。。。最近、とは言っても覚えている範囲で構いません。
最近女性と密着する、もしくは『してしまう』機会が増えてはいませんか?」
「は?」
思わず聞き返してしまった。
「ですから、自分の意志とは関係なくとも女生と、その、密着をですね。
する、もしくはしてしまう、ということが多くはありませんか?ということです。
先程も言いましたが、答えたくないことであれば答えなくても構いませんからね、正直にいきましょう」
……
「そうですか~。んーでは単刀直入に言いますと、それは貴方の体細胞が影響しています」
驚いた、本当にこんなことがあるのだろうか。
与次郎先生の話しはこうだった
・入学時に行った健康診断で全生徒の体組織を検査した
・過去、時空の歪みを開いて異世界や宇宙との交流を境に様々な要素を操作する
もしくはしてしまうような因子が見つかっている
・俺の場合はLS因子と呼ばれているものである
・この因子を持つものは異性との肉体的な接触が極端に
他者と比較して多くなってしまう「体質」になってしまう
・接触といっても様々な形がある、よっては指先が触れてしまう程度の偶然も含まれる
・現段階に置いてこの因子に様々な物理法則は通用しない
・その因子が俺の体組織に多分に含まれている、もしくは発生している特殊な状況らしい
・本来この因子は隕石などの物質に宿るものであって、生命体に起因するものは初めてである
・命に関わるようなものではない
研究対象ではあるため今後も継続して体組織を調べさせて欲しいと依頼をされている
・人の意志を操ったりするものではないし、
判明している限り行動を操作してしまうレベルの強力なものではない(そうなると神の領域である)
ざっくりと理解できたのはこれくらいだろうか。
なるほど、責められる謂れは俺にもあったのか。
「先生が上着を着ていなかったりしたのも、この因子が関係しているんでしょうか?」
「それは私の意志です。
この因子が人の意志まで操作することはないそうですから心配いりませんよ」
それはそれでなおさら問題な気がするのだが
それを言ったところでどうするような周囲でも無いのだろうか。
まさか面白いから放置しているだけじゃないだろうな。
「一応お伝えしたとおりなので、私もこれを伝えて欲しいと頼まれただけで
深く追求されても詳しいことはわからないのです。
とはいえ、聞かれたことを報告する程度のことはさせて頂きますが。
前向きに受け入れるしか無い、とのことで心中お察しします。
先生も出来る限りサポートしようとは考えていますので何でも!
相談してください、何かあればいつでも!!」
ぽむ、と自慢の胸をたたきながら自信満々にそういう先生を見ると悲観的な気持ちにはならなかった。
それよりも貴方の体質はそういうものだ
と説明されたところで誰だって実感がわかないものだろう。
待てよ、じゃあ今朝のゆずの件や委員長の件もこの因子が関係しているのだろうか。
と考えて、委員長は元からああいう感じだったと思い直した。じゃあゆずは?
この因子を持つ俺と関わる限り「望まない」事故に巻き込まれる?
それは……簡単に受け入れても良いのだろうか。
「やや困った顔をしてますね~」
はっとした、つい考えてしまった。
「いえ、大丈夫です。自分でも理解が追いついてはいないので、よく考えてみます。
話しはこれでおわりでしょうか?」
「はい、以上です。お話を聞いてくれてありがとうございました」
自分のことだし、先生も伝えてくれと頼まれただけでお礼を言われるようなことではないのだが。
むしろこうして話してもらえて良かったとも思えてくるのは先生の教師としての才能か。
「ありがとうございます、なんだかよくはわかりませんけど」
「では、先生からは以上で!生死に関わるようなものではないそうですし、そこは安心です!
原因は調査が必要とのことですので、今後も何かあったら先生からお話しますね!
こう見えても先生異世界人なので、色々なケースには詳しいんです!いつでも頼ってくださいね~」
なるほど、こういった専門的な分野の話しを一教師から伝える理由はそこなのか。
こう見えて異世界人として教鞭を振るう先生は様々な方面からの信用を得ているらしい。
それもそうか、でなければ自分の次元軸で教師をするだろうに。
「それにしても、LS因子って唐突に発生するようなものなのだろうか」
帰路に着いた俺は一人で考えを巡らせていた。
「ヨ~っす、シーナ少年!今帰りかな!?偶然だね!偶然偶然、これは偶然だよね!」
・・・ゆず?
偶然ですか?