ラッキースケベを意図的に多発させている教師の事情は
「すみません、遅刻しまして。すみません」
開口一番に謝罪を口にする俺に対して
「あ、椎名君。また遅刻ですか?季語は含まれていないようですが」
「またとは、またですけれど。ですけれど意図しないダジャレなんかって恥ずかしくないですか?」
「ですけれど、どうせいつものアレでしょう。先生は理解しています。
理解はしていますが、だからといってそれに依存して堕落していくのは認められませんからね」
流石俺の担任である。
遅刻する理由が俺に無いことは理解してくれているようだ。
いや、全く無いというわけでもないのか。
「ありがたいことです、勿論僕も理解をいいことに自分の意志で堕落しようとは思いませんよ」
「それはいいことです、ではホームルームの続きをするので席につきましょうか」
説教をされないのであれば非常に助かる、
だが看過出来ない事象を目の前にしてどうしてこのまま席に着くことができるだろうか
「先生、服を来てください」
「上は着ていますが」
「下を履いてください」
「バカには見えない服を着ているんです」
「バカには見せていいという思考は一体どうなんでしょうか」
それもそうだ、と合点がいったのか急く急くとスカートを履くこの教師
与次郎 小百合はどうやって教員免許を取れたのかわからない程
そして、何故この有様を見て誰も何も言わないのか理解出来ない程
俺の常識からは大幅に外れた概念を持った【異世界人】であった。
スカートは、ホームルームの途中で脱いだのか?
今まで誰にも何も言われなかったのだろうかという疑問がよぎる。
------何でも科学の力によって時空に歪みを生じさせ違う次元で生きている「ヒト」と交流を持つようになった人類は
時が経つにつれ、その存在をこの世界に合わせ馴染ませ、混じらせることによって教鞭を取るようになったらしい。
というざっくりとしたことは聞いたことがある。
そういった違う軸を生きている人達のことを異世界人と呼んでいるわけではある
かといって特別「コチラ側」の人間と変わった部分は無い、と思う、少なくともこの人以外はそうであって欲しいものだ。
「しかし先生、僕から見ると異常な事態だったのですが」
「これ以上無駄話をするわけにはいかないので、続きはこの後にしましょうか。
とりあえず席に着きましょう」
無駄じゃないだろう、何故誰も何も言わないんだ。
……「ではホームルームを終了します、この後の授業も皆さん気を抜かずに頑張ってくださいね」
委員長も戻ってきて、何事も無くホームルームが終了し与次郎先生は何かのプリントを教卓の上で整理している。
俺は、気になっていることを委員長に聞かずにはいられなかった。
「なぁ、八代さん」
自分の席を立ち、最前列中央に位置して座っている委員長に話しかける
「あ、何かな椎名君。さっきの続き?」
「いやそうじゃなく、さっきの続きって。
そういうのはもっとこう……なんというか誰とでもするのは良くないんじゃないかな。
それは置いといてさ」
「でも椎名君は誰とでもああいうことになるじゃない?私としてはそれも悪くないと思うのだけれど
やっぱり男性とはいつかそうなると考えると事故が多分に起こってしまう椎名くんに対して何故か理由はわからないけれど、そうなってもいいかなっていう思いはあるというか責任を取るという意味でもしっかり考えないといけないかなって思うことも無くはないわけで。理由がよくわからないというのも深く考えてみれば恋をするとか誰かを好きになるというのに理由はいらないという人も無いという人もいるのであって、それを加味した上で考えると」
「委員長、ストップ八代さん。ステイ!ステイ!!」
「あ、はい」
よかった、八代さんはいい意味でも悪い意味でも素直だ。
「だから八代さん、それは置いといて。さっきの与次郎先生の格好についてなんだけど。
あれ、誰もツッコまないのかなっていつも不思議なんだ」
「あぁ、それで委員長の私に代表して注意してはどうか、という提案をしたいわけ?」
「こういう察しはよくて助かるよ。何故か誰も注意しないものだし、
入学して間もないとはいえ俺としてもああいうのは目の毒というか、
恥ずかしいから看過出来ないわけでどうにかしたいとは思っているんだ。
でも、俺の言うことってあまり聞かないじゃない?」
「そうだね、聞かないね」
何事に対してもハッキリと意思表示ができるのも彼女の美点だろう、貶されているわけではないはずだ。
「だから、クラスを代表して委員長である八代さんが言えばいいんじゃないかと」
「でも、私だって『最前列中央だから委員長だね』という理由で役職が決まっただけで
特別クラスの皆や教師から認められているというわけではないんじゃないかな。
誰がしても同じだと思うよ。それに」
「そうかな、入試の時の点数だとかそういうのは把握していると思うし
八代さんには八代さんである理由があって、たまたまそうなったわけではないよきっと」
「そう言ってもらえるのは非常に嬉しいのだけれど、それに先生にだってきっと考えがあると思うよ」
考えとは、アレにどんな理由があるというのだろう。
「先生ね、異世界から来たらしいでしょ?
見た目はあまり私達と差異は無いけれど、気にしてるみたいだし」
「あぁ、アレ」
アレというのは、与次郎先生の見た目に起因する先生のニックネーム
「「合法ロリ教師」」
ハモってしまった。
与次郎 小百合
身長145cm(自称)、合法ロリ教師であり異世界人であり
自分の容姿にコンプレックスを抱いているらしい。
恐らく奇行の一部は異様に幼い見た目からのイメージを払拭するべくして取る
彼女なりのアプローチなのだろう。
異文化交流の一端で異世界人も教鞭を取れるので
自分の次元の文化や教えを広めたいという意志のもと教師になったとは彼女の弁だ。
なるほど、しかしアプローチの仕方が独特すぎるのでは……
あれではただの痴女にしか見えないじゃないか。
考えているとチャイムが響き渡った。
「時間が、ごめん八代さん無駄にしてしまって」
「いいよ別に、ふふっ」
授業が始まってしまう、仕方なく俺は自分の席に戻った。
「ごめんね、あの、違ってたら悪いんだけど、遅刻したのって、その、私の?みたいな?」
席に戻るとやや控えめな口調でゆずが話しかけてきた。珍しい。
幼馴染であり、同じ学校の同じクラス、更に俺の隣の席なこいつである。
偶然、それだけで、その言葉で片付けていいのだろうか。出来過ぎだ。
「ああ、いや、それだけが原因というわけでもないから気にしなくてもいいだろ。
それに俺だって注意散漫だったんだ、そんなに謝らなくてもいい」
あまり気を使わせてしまうのも、故意にやったわけでもないことを責める気はない。
そう告げると安心したようで
「よかった、あ、よくはないか。遅刻もあまりしてると印象よくないもんね。
でも嫌われてしまうんじゃないかといつも不安なんだ。私ってよくああなるし・・・ほんとすみませんほんとああ~!」
頭を抑えながら困惑している。
「ああいうのはお互い様だから。気持ちはわかるけど、今後気をつけるってことでいいんじゃない?」
「そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、最近迷惑かけてばかりでっさーやんなっちゃう!
どーうして!?どうして転べるの!?自分でも不思議なわけさ!
ある程度気の置けない仲とはいえ、ああいうことばかりやってると私としても気が気じゃないわけですが
ねつまり」
「あぁ、ゆずがそう考えてるのはわかってるから」
この春から何度目になるだろうか、そういったやり取りをしていると授業が始まった。
さて、今日も1日頑張るか。というところで
「椎名くーん、ちょっといいかな?」
プリントの整理を終えたらしい与次郎先生から呼ばれてしまった。
今職員室へ戻るところのようだが。
「放課後先生のところに来てください、ちょっとお願いがあるんです。」
お願い?なんだろうか、特に断るようなことでも無いが今伝えるということはそれなりに重要で
忘れては困るということなのだろうか。
「わかりました、じゃあ放課後伺います」
「悪いけど、先生が忘れてたら教えてね。じゃあまた後で~」
そう言うと軽快にドアを開け、きちんと閉めて行ってしまった。
「シーナ、何だろうね」
ゆずにも聞こえていたのだろう、それはそうか。
「いや、わからないけど。説教じゃなければいいよ」
そう答えると授業が始まった。
放課後、忘れないようにしないとな。
先生はアホではない。決して。
大人に見られたいという願望が間違った終着点に行き着いてしまっただけなのだ。