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第十二話 怯え

遅れてすいません。

最低二週間に一回は更新していきたいと思ってるのでよろしくお願いします。

「落ち着かない………」

ある日の昼休み。シオ達が良く昼食をとる喫茶店イル・サローネからの帰り道。

シオは減るどころか日を追うごとに増え続ける視線の数にとうとう根を上げた。

共に歩いていた二人は足を止め、ルテティアは気の毒そうに、ロゼッタは呆れたようにシオを見る。

「……大丈夫?」

「たくっ、分からないでもないけどよ、いい加減慣れろよな。もう一ヶ月じゃねえか……」

「あはは……」

シオの力のない笑顔にロゼッタは腰に手を当てて「はぁ…」と大袈裟にため息をつく。ルテティアはそれを困ったように見ていた。

シオが学生会に入ってから既に一ヶ月が過ぎていた。

今ではシオも学生会で会長の補佐につかされ、仕事を覚えるためユウの後をついて回らされている。

そんなシオが自分に向けられるいつもと違う視線を意識するようになったのは学生会に入って何日か経った後だった。とは言っても、それまでにハーフだということでチラチラと視線を向けられていることに慣れていたシオは始めは大して気にも止めていなかった。ハーフが学生会に入るという前代未聞の事件が起きたので珍しがっているだけだろうと思っていたのだ。だが、それはあまりにも甘い考えだったということを後にシオは身を持って知ることになる。

いい事もあるにはあった。クラスの生徒がシオに普通に接するようになったのだ。ユウが言うには、平民のハーフに気安く話し掛けては貴族としての立場が無くなってしまうので出足を挫いていたみたいだが、学生会にシオが入った事でその要素をふまえても貴族としての体面を十分に保てるようになったからなのだそうだ。

そんなに簡単に態度を変えられるものだろうか、と首を傾げるシオにユウはこうも言っていた。

「確かにあなたを利用しようとして近付く人は少なくないでしょう。学生会に入るというのは、それだけで将来を約束されたようなものですからね。おこぼれに預かろうとする人はいるはずです。

でも、そういう人だけというわけでもない。

それに、シオ君。いくら学生会のメンバーでもつき合いを持ちたくない人とはめったなことではわざわざ関わりを持たないものですよ。それはシオ君の今までの行動に対する人徳です。誇りに思っていいんです」

柔らかな笑みを浮かべるユウにシオは恥ずかし気に小さく、はい、と返事を返した。

だが、嬉がっている場合ではないことにシオはすぐ気付くことになった。

今まではこっそりとシオに気付かれないように見ていた女生徒達が一気に態度を変えたのだ。まるで、フェルシスやウィストを見ている時のような羨望の眼差し………いや、獲物を狩る狩人のような目を向けてくる。シオはワケもわからずこの激烈な眼差しに目を丸くし、まるで自分の一挙一動を全て監視するかのような眼光に恐怖した。

そして今日シオはついに根を上げた。

今のシオにとって唯一の憩いの場であり、学院からほど近い広場の側にあり、しかし、その複雑な道順から学院には知る者が殆どいないであろう穴場の喫茶店、イル・サローネを嗅ぎつけられたからだ。

「しかし、目敏いよなあいつ等も……。あんな分かりにくい所にある店まで見つけちまうんだからさ。

執念て言うか何て言うか……」

「ちょっと、怖かったよね…」

「だなぁ。あたしらだけを凄い目つきで睨んで来てたしな」

不安げに語るルテティアと違い、ロゼッタは先程店で睨まれたことを軽く笑い飛ばしている。日頃からコワいものは怒ったルテティアと自分の家の庭師の爺さんだけだと断言している彼女らしい豪快さだ。

憩いの場を知られたことで少なくないショックを受けていたシオは何とか立ち直りそんな二人の後をトボトボとついて歩いていた。

「しかし、どうすんだよ雑用。何か対策でも考えてんのか?」

学生会の仕事内容を伝えてから「それってただの雑用じゃね?」「でも、会長命令だし、役職は会長補佐ってことになるらしいよ」「ふーん、でも今度からお前は雑用な」という風に決まった最近ロゼッタの中でシオの呼び名として定着してきている名前を呼ばれシオは顔を上げた。

「とりあえず、今日学生会にいったら会長に相談しようとは思ってるけど……」

「ふーん、なら大丈夫だろ。トバセ会長が会長に就任した時も結構ひどかったって聞いたことあるしな。アドバイスの一つや二つなら直ぐにくれるんじゃないか?」

「そう、かな…………?」

会長だけならまだしもカリナ先輩の耳にまで入ったら、逆に面白がって事態を悪化させるような気がするのは自分だけなのかと不安になる。

しかも、ユウとカリナは仲がいいのでその確率はかなり高い。シオはユウがカリナに話さない事を願うばかりだった。

「…………?

シオ君どうかしたの?」

解決策が見つかるかもしれないのに、と浮かない顔のシオにルテティアは不思議そうな顔で問いかける。

「うん………、いや、何でもないよ。

それより、早く学院に戻ろう。

そろそろ授業が始まっちゃうし……」

これ以上迷惑をかけてばかりはいられないので誤魔化すようにそう言って、シオは歩く速度を少し上げたのだった。

会議用に使われる学生会室が置かれている時計塔。そこは学生会専用の建物で、会員にも個別の部屋がそれぞれ用意されており、仕事が忙しい時は泊まることもできる。また、実技館ほどの広さではないが体を動かすための部屋もあり、たった九人のためだけに使うにはいささか贅沢な造りになっていた。

シオは授業が終わると直ぐに時計塔に向かい。ユウの仕事部屋である会長室を訪れた。

「それで…………。

女の子に追いかけ回されて困っているので私にどうにかして欲しいと、そういうことですか?」

「えと……………」

「………………」

「………はい」

昼の出来事や学生会に入ってからのことなどを掻い摘んで話し終え、最初の機嫌の良さは何処へ行ったんだと言いたくなるような変貌を見せたユウの質問にシオはビクビクしながら小さい返事を返した。

そんなシオの戸惑いを見てユウは「はぁ…」と短く溜め息を洩らす。

「…………まぁ、いいでしょう。あなたが悪い訳ではないですしね。それにそうなるんじゃないかなとは思っていましたから」

「え?」

「毎年の事なんですよ。

私が会長になった時も周りが騒がしくなりましたし、カリナ先輩の時は本人も乗り気だったせいで、もっとひどかったらしいですから。それでも私達は女でしたから男の方からの視線はそこまであからさまではありませんでしたけどね…」

「じゃあ、副会長やウィスト先輩の時はどうだったんですか?」

「彼らの時もシオ君ほどではなかったですね。

この前も言いましたがシオ君の場合は特殊なんです。あなたと仲良くなりたくても立場上の問題で皆さん二の足を踏んでいましたから…。

それにシオ君の他の人に対する態度も悪かったと聞いていますし……。

そういうのが学生会に入ったことで一気に爆発してしまったのではないですか?」

「僕的には普通にしてたつもりなんですけどね………」

ただ、故郷の村以外でのハーフの扱われ方を知り、経験してからは少し警戒もしていたというだけだ。

「…まったく、自分の外見がどれだけ人に影響するか、まるで分かってないんですね………」

ユウは少し眉を寄せて目の前にいるシオにギリギリ聞こえないくらいの声で独白する。

うまく聞き取れなかったシオは

「え?」

と不思議そうにユウを見た。

ユウは眉をひそめ「田舎者だといったんです」と唇を尖らせ顔を背ける。

また、いきなり機嫌を悪くしたユウに戸惑いながらシオは控えめに質問を続けた。

「…でも、じゃあどうすればいいんでしょうか?」

シオの質問にユウは「そうですねぇ…」と考え込み始める。

しばらく考えた後、ふと

「そういえばシオ君、一年生の実技の授業はいつからでしたっけ?」

と、全く関係がないと思われることを唐突に口にした。

シオは不思議に思いながらも「確か明後日からだったと思いますけど…」と答える。

ユウはそれを聞いて軽く確認するように、うんと頷いた。

「それなら、時期的にも丁度いいかもしれませんね。

そろそろ決めなければと、思っていた所ですし」

「何がですか?」

「学生会の残りのメンバーですよ。

一年生は後二人ほど決めなければならないんです。

シオ君の場合は学院長のお願いもあったので早い時期に入って貰いましたけど、例年はいつもこの位に決まるんですよ」

「へぇ」

「後二人も入れば、その分注目も分散されるでしょうし。

一石二鳥ですね」

「でも、そういうのってどうやって決まるんですか?

僕の時とはかってが違うんでしょう?」

「そうですね。

毎年選出方法は違うので決まった方法があるわけではないんですけど、一定の決められた基準を超していればその年の会長が大方のあたりをつけて、その後また数を減らすために篩にかけたり最後は全校生徒に投票して貰って学生会にふさわしいかどうかを決めるんです。

だから、時期も丁度いいし今回は私が実技の授業を見て目星をつけようかなと思いまして」

「え、会長がわざわざ見にくるんですか?」

シオは意外そうな表情でユウを見る。

「こっそりと、ですけどね」

驚くシオにユウは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「私がいるからといって張り切られてケガでもされたら困りますし、普段の力を見極めないと意味もないですから」

「でも、いいんですか?

会長も授業とかがあるんじゃ……」

「何言ってるんですか。私は学生会の会長ですよ?

その位の融通が聞かないとでも思ってるんですか?」

今にえっへんとでも言いそうなくらいに自慢気に胸をそらせるユウ。

「融通がきくからといって、やっていいというわけではないと思うんですけど……」

と、シオは苦笑いを漏らすしかない。

「まぁ、それは冗談として……。

学生会という立場は決して軽くないですからね。会長である私が一から見定めるのも仕事のうちなんです」

「はあ、大変なんですね…」

「だから、シオ君も学生会の一員として相応しい行動をとってくださいね?」

その言葉にシオは急に軽い寒気みたいな物を感じた。

「相応しい行動、ですか?」

あえてその寒気を意識しないようにしているシオの疑問にユウはそれこそ花でも咲きそうな満面の笑みを持って答えた。

「実技の授業で女の子に騒がれて調子に乗っているようなら承知しないですよって言ったんです」


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