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第九話 最終試合

シオのわき腹数センチの所でギンッギンッという音と火花が飛び散る、手にある刀が強烈な攻撃に悲鳴を上げた。

(危なかった……)

とっさに抜き放った刀を盾にして速度の急激に上がった蹴りを二連撃、ギリギリのところでガードしながらシオはそう思った。

今の攻撃をくらっていれば、次の試合どころかこの試合ですら危なかったかもしれない。

抜かされた刀を落とさないよう握り締め相手と距離を取るべく牽制の一撃を放つ。

それを避けるために相手は体をひねり受け流した右手を地面について跳ねるようにその場から離れた。

お互いに体勢を立て直すべく一定の距離をとる。

シオは正直この相手に驚いていた。この試合まで自分とまともに闘える人がいなかったからだ。初戦の相手は完全に自分のことをなめていたし、次の試合では警戒のし過ぎで一向に攻撃をしてこない相手に痺れをきらし少しの隙をつついてみただけで、即興で作られたチームワークは簡単に崩れてしまった。

近衛騎士候補生と言っても所詮はこの程度か、と失望にも似た感情を抱いていたが、この相手だけは違った。

動きの速度や技のキレ、その他にも色々な部分が他の近衛騎士候補生と一線を画している。

油断していたとはいえ使うまいと思っていた刀まで抜かされたのだ。

考えを改めないわけにはいかなかった。

シオはまず刀を鞘に戻す。そして、体を低くして右半身になり刀に手をかけた。

居合いの型だ。

そのまま狙いを定めるように相手をその青く染まった二つの眼で睨みつけ一歩を踏み出そうと…………

「審判、降参です」

………する前に、相手が手を挙げてウィストに降参の意を示した。

ウィストとシオが驚いたように相手ーーエリス・シュテインスを見る。

「………いいのか?」

「はい、今のを避けられては他に打つ手ないですから」

「本当に…いいんだな?」

「はい」

「そうか……では、『第三試合、試験官側の戦意喪失のため、勝者シオ・ラーク!!』」

そんな感じに驚きに目を丸くするシオを残し第三試合の幕は呆気なく落ちたのだった。

「よかったのか?」

舞台を降りたエリスにフェルシスは声をかけた。

無理はするなとは言ったがまだ余裕があるように思えたのだ。

実際にエリスを良く知るフェルシスは彼女がまだ本気を出していなかったことがわかっていた。

「うん、それなりにやったし…。それにあのハーフの子、多分全然本気じゃなかった」

「…………どういうことだ?」

「うーん、あの最後の構えは見た?

ケリをつけようとしたんじゃないかな。絶対避けられないなって思った。凄い気迫だったよ…」

エリスは普段見せない少し怯えたような困ったような顔をしてフェルシスを見る。

日頃明るい性格の彼女にしては珍しい態度に、フェルシスはそれが冗談ではないことを感じた。

「気を付けてね、フェルシス。フェルシスが負けるとは思ってないけど…、でも油断していると足元を掬われるかもしれない…」

不安そうに表情を曇らせるエリス。フェルシスはそれを打ち払うような頼もしい笑顔を見せる。

「安心しろ。侮ってはいたが別に油断していたワケじゃない。闘うからには全力で行く。それが礼儀でもあるからな」

そう、ここで万が一にも負けるわけにはいかない。

自分は貴族の代表としてヤツを打ち負かし学院の秩序を保たなければならないのだから。

決意を新たにし気合いを入れ直す。

そこにウィストがフェルシスを呼ぶ声が聞こえた。

『これより第四試合を始める。出場者は舞台へ』

「では、行ってくる」

「…うん」

まだ心配そうにしているエリスに声をかけフェルシスは舞台に向かった。

舞台に上がったフェルシスは向かい合うように目の前に立つシオに話しかけた。

「初めに言っておく。武器を使わずに勝とうなんて考えは早めに捨てておくことだ。俺は他のヤツらのように甘くはない」

シオはさも心外だというような顔をする。

「別に元からそんな事は考えてませんよ。あの人達が弱すぎたんです」

自分に刀を抜かせなかったそちらが悪い。シオは暗にそう言っていた。

立て続けに戦闘を行って気分が高揚しているのだろう。その口調も普段より幾分強めになっている。

「でも、最後のあの女の人は強かった…。副会長のお知り合いですか?」

「ああ…、わざわざ自分から志願してくれたんだ。彼女は自分の力だけで近衛騎士候補生にまでなった実力者だからな。

家の力とほんの少しの実力で候補生になった者達とはレベルが違う。

…もし、お前が他のヤツらと彼女を同列に扱っているようなら八つ裂きにしてやったところだ」

「しませんよ失礼な」

フェルシスがシオに対して、ではなくエリスと他の者を同列に扱うことが、である。

「フン、混ざり者にもそれぐらいは分かるか…。取りあえず彼女に代わって礼くらいは言っといてやる」

「いりませんよ別に…」

近くにウィストしかいないとあって二人共言いたい放題だ。

見かねたウィストが呆れたように言う。

「そろそろ始めたいんだが、二人共いいか?」

「ええ」

「はい、いつでもいいですよ」

元凶二人が自分勝手にのたまう。

しかし、ウィストからはカリナの傍若無人な態度に慣れているせいか大した文句もなかった。

そうか、と頷いて片手を頭より上の位置から振り下ろし開始の合図を告げる。

『これより学生会入会試験最終戦第四試合を始める……。第四試合始めっ!!』

シオは学生会に入り夢みた平和な学校生活を実現するため。

フェルシスは自分の信念と学院の秩序を守るため。

互いにそれぞれの思惑を持ち最終試験が開始された。

開始の合図と共にシオは刀を抜き放ち内渉魔法で瞬時に体を強化しフェルシスに襲いかかってきた。それはこの試合までにシオが見せてきた動きを遥かに超える速さだ。

フェルシスは忠告通り刀を抜き、切りかかってくるシオに微かに笑みを漏らしながらも腰から剣を抜き片方の腕だけで迎撃した。

驚いたのはシオだ。こうも簡単に弾き返されるとは思っていなかったのか追撃されないようにすぐに距離をとろうとする。

しかし、それをフェルシスは許さない。即座にシオに切迫し剣を振り下ろした。

「くっーーー」

予想していた以上に速く強い打ち込みだったのかシオが思わず苦しげな声をもらす。

ーーが、その苦しげな声が発された口元が不適に笑った。

「ーーっ!!」

次の瞬間フェルシスは振り下ろしていた剣を下からの物凄い力に押し上げられ、抑えきれずに剣を頭の上まで弾かれる。

そして、隙ができた腹部にシオの強烈な蹴りが放たれた。

「むっ……」

ギリギリの所で体を後ろに引きダメージを軽減しながら後ろに飛ぶフェルシス。しかし、ただ受けているだけではなかった。

勢いを殺したとみるやいなやフェルシスは自らの周囲にエリスが使っていたのと同じ風芯を一気に数本作り出しシオに向けて放つ。

風芯は元々フェルシスの家であるパドロ家で代々使われている風の基礎魔法だ。

パドロ家はこの国サルディニアの大貴族。現八騎士程の武功はないが、過去には八騎士にまで上り詰めた当主もいて風の魔法に関してはこの国随一と目される一族でもある。

風芯をエリスに教えたのはフェルシスだが、本家であるフェルシスのとエリスのでは威力も数も雲泥の差がある。

その魔法を見て物見席にいる生徒達は息をのんだ。

一年のシオにはあれだけの外渉魔法を防ぐ手だてはないように思われたためだ。

しかし、その予想はすぐに裏切られることになった。

ーー炎珠ーー

シオはフェルシスの外渉魔法を見るやいなや同力、同数の炎珠を顕現させ即座に放ってみせたのだ。

空中で風と火の魔法がぶつかり合う。五連の爆音が響いた。

ドゴンッ!!

衝突地点を中心に煙が舞台に広がる。フェルシスはその煙幕の一部が急に揺らぐのを見た。それは煙の中から高速で接近して来るシオの姿だ。

「甘いですよっ!!」

不意に現れたシオに反応しきれず振り下ろされた刀を正面から受ける。

「ぐっ……」

肩から袈裟切りに胴体を切られ、激痛が走った。思わず右膝を地面につけてしまう。

フェルシスと対等以上に渡り合う程肉体強化されているシオの攻撃だ。並大抵の威力ではない。

だが、おかしい…。

思っていた程のダメージがないのだ…。

本来なら今の一撃で勝負が決まっていてもおかしくないはずなのに…。

「貴様……」

少なすぎるダメージの理由に思い当たりフェルシスは愕然とする。

「貴様どういうことだ………」

怒りを無理やり抑え込むように静かに呟く。

「何故…、何故その刀に魔力を通わせない…。

俺如きには丁度いいハンデだとでも言いたいのかっ!!」

フェルシスは憤怒の形相で叫ぶ。

そう、シオは刀に一切の魔力を込めることをしていなかったのだ。それは自ら攻撃を放棄するに等しい行為。

社会の最下層である平民のハーフが自分を…、学院の副会長であり、パドロ家の次期当主でもある自分を侮っている。

何よりも慣習や自らの家の誇りを大事にするフェルシスにとってそれは許すことの出来ない行為だった。

「いいだろう…。貴様がその気ならば無理やりにでも本気を出さしてやる」

「………………」

フェルシスは怒りを内に秘め、冷静さを取り戻しながらも沈黙を保ったままのシオに言う。

フェルシスは体に魔力を走らせる。更にそれに上乗せするように全身に外渉魔法を使った。

体に風の力を付与させる魔法。エリスは攻撃の一瞬に体の一部にしか風の魔法を使うことが出来ないが、本来この魔法は内渉魔法に加えさらに体の速度と攻撃の威力を上昇させるために常時風の鎧を全身に纏うものだ。

フェルシスの魔力によって加工された体外魔力が体を蛇のように這い回る。

シオは警戒するように刀を構え直した。

「ではーーー、いくぞっ!!」

フェルシスの姿がかき消える。

急激に上がった速度にシオが反応出来ないのだ。

フェルシスは自分の速度に反応仕切れないシオに高速で背後から切りかかった。

「はぁっ」

シオは僅かな気配を感じ取ったのか振り返り寸前の所で刀を使い直撃を避ける。

しかし、一撃目の直後にはフェルシスは既に背後に回り込み剣撃を放っていた。

「ぐっ……」

またもギリギリの所でシオは避ける。

しかしフェルシスはその後を追うように何度も襲いかかった。

その攻撃をシオは苦しげながらもなんとか捌き続ける。だが、それも時が経つにつれ限界が来た。

最初は何とか捌いていた攻撃が当たり始める。

シオはこの状況を回避するため右手に魔力を集中する。そして、フェルシスの攻撃の合間に炎珠を足下の地面に叩きつけた。

爆炎と共に砂煙が舞い上がる。

「くそっ」

一瞬シオを見失いフェルシスは悪態をつく、その場の邪魔な煙を一掃するために体を回転させる。風をまとった体はそれだけで周囲の煙を吹き飛ばした。

煙が晴れていく。

フェルシスは先程より少し離れた場所にシオの姿を見つけた。

刀を鞘に納めエリスとの試合の時に見せたような構えで顔を俯かせている。

「すみません、副会長…」

身じろぎもせずシオは語り出す。

「決してあなたを侮っていたわけではありません。ただ自信がなかった…。それだけなんです」

「自信、だと……?」

「はい…、でも副会長は僕の予想より遥かに強かった…。だから、少し本気を出します」

シオが顔を上げる。その両目は、普段の青と黒のオッドアイでも、ハーフが魔力を使用する時になる両眼が青になっている状態でもなく、ただ気品と神秘を感じさせる紫紺の色をしていた。

シオは真剣な表情で告げる。

「どうか、死なないでください…」

そして、シオの魔力を込めた一撃が放たれた………。

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