30年に一度しか大人になれないのに~愛しい人との逢瀬が遠のく~(白羽の矢編)
長らく暖めていた話です。
異世界ですが、明治時代の日本の宿場町のイメージです。
石畳に下駄と雨の音が響いている。
「はぁ~義人遅いなぁ~」
少し乱れた日本髪を気にもとめず、宿屋の二階から行き交う 蛇の目を眺めている妖艶な女性がいた。
少し着くずした襟元から白い肌が見えている。
ふと女性は向かいの路地に入っていく男女に気がついた、
「あれはこの宿屋の娘のさよさん?」
女性の目が赤く光った
『さよさん私と一瞬に逃げてくれ』
『雅也さん無理よ弟はまだ小さいし体の弱い母を置いて行けないわ』
『私のこと愛してくれてないのか』
『愛しているわ、お願いお父様を説得して』
『何度も言ったさ、聞く耳を持たないんだ父達は』
『もう少し待って、母にはちゃんと言いたいの』
二人は抱き合い唇を重ねた
(あれはこの宿場町にあるもう1つの宿屋の息子じゃない、
ん?犬猿の仲って聞いてたけど)
カンカン!!
けたたましい鐘の音が響いたその音を聞いて二人は路上から出てお互い反対方向に駆け出していった。そして町の四方にある櫓から青白い光が出て町を覆っていった
(・・・・ん?何か変?結界にほころびが・・・)
「失礼します!」
「どうぞ」
襖を開けて中居のすずが部屋に入って来た、鐘の音はまだ続いている。
「妖魔が出ました、庄子を閉めて外には出ないようお願いいたします。」
「しかしお雪さんもこんな時期にこの町に来るなんて...」
と、どっしりと座り込んだ中居であった。
お雪がこの町に来たのが7日ほど前、日本髪を結った芸者風の旅装束でもないお雪を訝しげに見たが、一ヶ月滞在したいとポンと前金で部屋代を払うと喜んで受け入れてくれた。2階の見渡しの良い部屋で広めの部屋を希望した。
「こんな田舎町にお雪さんの様な可憐な方がおひとりでいらっしゃるなんて、白神無月に入って妖魔が出るのに危険ですよ~」
すずは、良いのか?と思うほどおしゃべりだった。旅館同士の仲違いもすずに聞いたのだった。
「ほんとうちの旦那様と向こうの旦那はすこぶる仲悪いいですよ~」
「老舗藤枝亭」と「元祖藤枝亭」
「元は隣町の藤枝旅館ののれん分けで元は2号館と3号館だったらしいですよ~」
お茶を入れながらすずはのんびりと言った
「それと先代はそんなに仲悪くなかたって聞いてます~」
白神無月:各地域に点在する妖魔の主がこの月になると必ず聖域に集合して地域に統べる者が居なくなる時期、これ幸いと下級妖魔が人間をさらったり襲ったりやりたい放題になる時期である.
20年前に田舎だったこの町にも結界の櫓が建ち、それまでこの時期に被害が酷かったものが町の中に居れば安全になった。
それが今回、お雪の見た所結界にほころびが感じ取れていた。
ばたばたば!
「?何事でしょう・・・・見てきます。」
玄関先が騒がしく人の出入りが激しくなっていた。
「・・・・・」
お雪もゆっくりと部屋を出て階段上で様子を窺った。
『どうゆうことだ!』
『結界を通り抜けて飛んできたようです・・・・』
『通り抜けたとはどうゆうことだ!』
この宿の主人が下男に怒鳴り散らしている。
『何故今更こんなものが』
主人の持っているのは文が括ってある、
白い羽の付いた矢だった
恐る恐る文を開く主人、
文を見た主人の手が、
わなわなと手が震えている
『旦那様、何が書いて有るのですか?』
下男が主人をのぞき込む
『生贄だと、さよを!どうして結界が破られたのか』
考え込む主人、文をぐしゃぐしゃに破り捨てて
『何も無かった、何も見なかったいいな!』
周りにいた下男、中居に言含めるように叫んだ
ここ20年来なかった白羽の矢、
若い下男や中居達はその意味を知るものは少なかった。
宿屋の主人は自分に言い聞かせていた
(結界がある、妖魔は入って来れないはずだ、
誰かのイタズラじゃ無いのか?
外から矢が飛んで来た?そんな訳が無い、
我が宿屋は街の中心近くにあるんだし期限は2週間後
それを過ぎれば主が帰還されるそれまでだ)
脳内で逃げ口実を繰り広げる主人だった
口止めしても噂は広がるものである、
「さよさんに連絡がつかないと思ったらそういう訳か、本当なら一大事だぞ、何をしてるんださよの親父さんは!」
さよは家から一歩も出してもらえなくなっていた。
雅也が白羽の矢の話を聞いた時もう街中の噂になっていた
警備隊や軍隊も動き出している
「旦那様はどうなさるおつもりでしょうかね?」
相変わらずでん!と座り込んで、
お雪の部屋でお茶を入れながら言うすず、
きっと噂はこの中居が広めたのだと確信しているお雪だった。
「結界があるから安心してる見たいだけど、大丈夫かしらねぇ」
「白羽の矢の話を父から聞いたことあります、
森の主の祠の奥に毎年矢の放たれた家の若い娘を生贄に捧げていたとか、怖いわ~
妖魔って人を食うって言いますもんね」
「期限は明日だったかしら?」
「どうなりますかねぇ」
あまり非痛感の無いすずだった
次の日、外に出かけていたお雪、
街が騒がしいなぁと思いながら宿に戻ってきた
すると宿屋の前に人だかりが
野次馬の中にすずを見つけた
「何かあったの?」
「あっお雪さん、あれ?髪結直されました?、その簪すてきです~お綺麗ですね~」
ぽっと顔を赤らめたすず、
お雪はこの騒ぎで本当にすずは冷静だなぁと関心していた
「「元祖藤枝亭」の若旦那が押しかけて来たらしいですよ、ちょっと用事で外に出てる間に面白いことが、失敗しました~」
(何を想っているのか?この仲居は・・・)
呆れるお雪だった・・・
「私の愛しい人が今日来る予定なのに困ったわね」
「え?待っていらした方がやっといらっしゃっるんですね~是非お目にかかりたいわ~」
ぎゃあああああああああぐおぉおおおおおおおおおおおおおおおお
カーンカーンカーンカンカンカン!
不気味な声と櫓の鐘の音がいきなり鳴り響いた
『妖魔が出たぞ!結界を越えて来たぞ!皆非難しろー』
わああー!と野次馬は散らばって逃げて行く
その中すずとお雪はゆっくりと「老舗藤枝亭」に入っていく
もうその時、お雪はすずが只者でないことに気が付いた
どーんバキバキとものすごい音がした
空を見ると半分が人間に近く半身は鳥の妖魔から巨大なトカゲが多数降ってくる
「老舗藤枝亭」の玄関を壊して他のトカゲよりさらに大きなトカゲが
《祠に連れてこないとはふざけたことをしおって!直接花嫁を迎えに来てやったぞ、娘を出せ》
不気味な声で睨みつけるトカゲ、
宿屋の主人も押しかけて来ていた若旦那も震えていた
トカゲの手下らしき奴が地下から娘を捕まえてきた
さよさんは歯を鳴らして震えている
その様子を見た若旦那は持っていた小刀で手下を切りつけた
しかし魔力を付与してない刀など妖魔に効くはずもないのだった
妖魔を切ることが出来るのは魔力付与を施された武器のみ
警備隊でも全員が持っているわけもない貴重なものだ、
一般の商売人が持って利るはずもない
「さよさん!今助ける!」
効かないと分かっていても無我夢中の若旦那の雅也だった
「うぐっ」
下っ端に蹴りを入れられその場に倒れこむ雅也
「雅也さん!雅也さん!」
《娘こいつが大事か・・・未練を断ち切ってくれよう!》
大トカゲは大きなナタを持っていたそれを大きく振りかざした
「なーんだただのトカゲか、どんな凄い妖魔が来たかと思ったら、は~つまんないねぇ」
そう言ったのはお雪だった
振りかざした手を止めてお雪を見る大トカゲ、
《女!生娘でないものは何処か行け!お前には関係ない!》
「え?さよさんまだ生娘だったの?てっきり若旦那と熱烈接吻してたからもうそんな仲かと思ってたわ」
ぎょっと大トカゲはさよを見る
「私たちはまだそんな、かっ関係じゃ・・・」
真っ赤になって雅也を見る
「さて愛しい人も来たみたいだし、邪魔だから退いてくれる三下妖魔さん!」
宿の外に着流しの綺麗な男性がお雪をじっと見ている
《なんだと!大妖魔の俺に立て着くとは・・・・》
言い切る前に大トカゲの胸に刺さる日本刀
玄関のショーケースに飾ってあったこの店の物だ
《なぜ・・・・魔力・・・魔法使いの気配など・・・》
日本刀に煙の様にまとう魔力
「身の程を知らずに主に恥をかかせた報いね」
そう言ったの玄関の柱に寄りかかっていたすずが言った
《妖狐さま・・・な・ぜ・・ここに》
「主の玄武様からの指示でね、神が来てるからアンタを見張れって」
お雪は大トカゲを掴むと刀を刺したままけりを加えた、
着物の裾が乱れ白い足があらわに成る
そして宙を舞う大トカゲ、
(あんたのせいで)
さらに落ちてきたトカゲにさらにけりを加える、
(義人との逢瀬が)
蹴鞠のように宙を舞い続けるトカゲ、
(出来なくなったじゃないの!)
最後後ろ回し蹴りで外に蹴りり出されたトカゲ、
白目を剥いて見るも無残な大トカゲ
それと同時に一帯に大きな風が巻き起こり収まった時にはお雪も着流しの男も消えていた
そこにはお雪が着ていた黒い芸者風の着物が残っていた
「お騒がせした、我は妖狐、玄武の右腕
神の采配により罰は下された、
若旦那の勇気感銘した良い跡継ぎを得たなご主人よ、
もう二度と白羽の矢は打たれないであろう、
神の心のままに・・・」
そういうと何処からか狐があらわれトカゲの者たちを連れて主の山に帰って行った
妖魔が消えた後、刀はその場に魔力を持ったまま横たわっていた
その着物のと刀は旅館の玄関に飾られ、「神の采配」と命名されいつまでも大事に飾られた
二つの旅館は合併し、さよと雅也、さよの弟夫婦と仲よく店を切り盛りしていくのであった。
さよと雅也は自分たちの子供に雪子と雪雄と名ずけた
結界の不良品魔石も交換され平和な町になって行った
町の郊外ぬかるんだ湿地帯の中を着流しの男と、
男の腕に乗るように抱かれている
7歳くらいの綺麗な赤い着物の女の子達が歩いていた
「ごめんね義人、力使っちゃったら戻っちゃった・・・」
「仕方ないよ、また今度があるさ」
「30年だよ大人になれるの・・・あぁ久しぶりに義人とあんなことやこんなこと出来ると思ったのに~」
「俺が一人で墓参りに行きたいなんか言ってゴメンな」
「ううん、210年ぶりだもんまたいつこの世界に来れるか分らないし・・・」
「時間は一杯あるんだろう?また気長に待つよ」
「あんなことやこんなことしたのって210年で2回しかないんだよ、浮気しないでね義人」
「あーうんそうだね・・・」
歯切れの悪い返事の義人、
二人の姿はすっと跡形もなくその場から消えて行った
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「義人は元気そうだったか?」
「はい玄武様、お雪様と仲睦まじく去って行かれました。」
「200年以上経ったか・・・・」
「そうですね、私はまだただの狐でした。」
「義人と雪、あー本当の名はウイリースノウ・ホワイトだったか?
彼らが白神無月の習慣を作ったんだったな我らが争わないように」
「300年による主たちの争いで国は疲弊し人間は減り滅亡寸前だったこの国に現れた神」
「彼女が義人様に惚れてくれなければこの平和は無かったと思って要ります」
「そうだな義人の故郷を守るため我らの前に立った幼女、あの時は暫く大人になってたな」
「30年に1月しか大人で居られない、魔力を使えばまた瞬く間に幼女に逆戻りなんて・・・」
魔境で宿屋に飾られてる刀と着物を見る玄武だった
読んでいただきありがとうございます。