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04月18日「勇者物語」

20XX/04/18(土)

「勇者物語 

 作・奥岡優里奈」


『これは、アルスマグナという、地球とは異なる世界の物語である……。


 火を起こし、言葉で意志を交わし、国家というシステムを作り上げる。

 アルスマグナの人間たちも地球の人間と同じように進化していき、繁栄を極めた。

 

 地球と大きく異なる点は、科学ではなく魔法による技術体系が発展したことだろう。

 アルスマグナには「魔力」が存在し、人々はその魔力を用いて魔法を発現させた。

 それ以外は特に変わらず、人々は地球と同じような歴史を刻んでいった。

 

 だが、突如として歴史は大きな転換期を迎えることになる。


 魔物と呼ばれる、これまでアルスマグナにも地球にも存在しなかった生物たちが現れたのだ。

 

 彼らは魔力を欲した。

 人間が栄養を得るために食べ物を食べるように、魔物達は魔力を吸収するのだった。

 さらに人間と違って取り込む魔力の量に再現がなく、過剰ともいえる魔力を取り入れた後に強力な魔法や、魔法社会でも奇蹟といわれるような現象を起こしてみせたのである。


 思想も、生き方も、概念も違う存在。

 人間は魔物に蹂躙され、尊厳を脅かされ、自然界の頂点からの脱落を余儀された――かのように思えた。


 人間たちは当然抵抗した。

 幾ら強力な生物といえ、人間の結束力には今一歩及ばなかった。また、総数だけでいえば魔物よりも圧倒的に人間の方が多かった。

 やがて幾つかあった国も一丸となり、人間は魔物という脅威に立ち向かった。

 

 一時は魔物達を全滅する一歩手前まで追い込んだようだ。

 だが、魔物達もただやられていたわけじゃない。

 彼らは知恵をつけた。あるいは、知恵のある魔物が誕生したか。

 

 聡明な魔物は無秩序に暴れる魔物達に秩序を与えた。

 やがて、「魔界」という国家が出来上がり、魔物を従えるものは「魔王」と名付けられた。


 こうして、人間と魔王軍の熾烈な戦いが切っておろされた。

 知能を付けた魔物達にかつての戦いよりも苦戦を強いられたことはいうまでもない。


 それでも人間たちは変わらず一丸となって魔王軍に挑んだ。

 しかし、徐々に戦況は押されていき、もう後がないというところまで追い込まれた。

 

 魔物達に屈服するしかない。

 世界が絶望に支配されかけた時だった。

 後に「勇者」と呼ばれることになるアルスマグナの英雄が姿を見せたのだった。


 勇者はどこにでもあるような一見変哲の無い剣を操り、無数の敵を葬った。

 同時に彼の活躍は葬った敵よりも多くの人間の命を救った。

 

 崩壊しかけていた戦場に降り立ち、無双の活躍を見せた。

 囚われた姫や王子を助けた数も両手の指じゃ数え切れない。


 と、このように勇者の伝説は枚挙に暇がない。


 勇者の出現に、人間たちは湧いた。

 彼らは勇者への支援を惜しまず、また勇者も彼らの厚意に報いるように獅子奮迅の活躍を見せた。


 そして、いよいよ勇者は魔王と対峙した。


「勇者よ。よくぞここまで来た。しかし殺すには惜しい存在だ。我が手下とならないか、勇者よ」

「お断りだ。誰かに与えられる世界なんかより、自分で築き上げたハーレムの方が何百倍も尊い!」

「それは残念だ……。なら、始めるとしよう」


 キィン!!(剣がぶつかりあう音) 


 こうして二人の戦闘は開始された。

 

 誰もが加勢に入れぬほどの激しい戦闘は三日三晩続いたという。

 戦いの末、最後まで地に足を付けていたのは……勇者だった。


 勇者の勝利は瞬く間に世界に広がり、人間たちは歓喜の雄叫びを上げた。

 逆に、大将を失った魔物達のほとんどはアルスマグナから姿を消した。


 世界の英雄となった勇者はその後、数多の美人を妻にし、己の血を後世に残した。

 また、生まれの村から魔王を倒すその瞬間まで共に歩んだ聖剣・エクスカリバーを分解し、その一部を組み込んだ六つの武器を世界の各地に散りばめた。


 勇者は語る。


「いずれまた、魔王は軍勢を率いてアルスマグナに行軍してくるだろう。その時、我が血を引く者が世に分かたれた六つのエクスカリバーを手に取り、世界に光明をもたらさん」



 ――それから何百年かの時が過ぎた。


 かつての勇者の予言通り、魔王は再び世に現れた。

 世界の危機を救うため、予言に記された六人の勇者が今、立ち上がる。


 勇者たちの戦いはこれからだ!


 ~END~(奥岡先生の次回作にご期待下さい!)』

 


◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 三十ページにも及ぶ漫画を読み終えた郁也は原稿をそっと机に置いた。


「ゆり姉、質問があるんだけど」


「どんな問いでも答えるぞ」


「……どうして、漫画?」


 その問いに優里奈はしかめっ面で答えた。


「やはり絵が多少できる程度で漫画を書くのは無謀に過ぎたか……?」


「いや、別にそういうことを言ってるわけじゃなくて」


 ちなみに一度だけ、優里奈が美術の授業で描いた風景を模写した絵を見せてもらったことがあったが、写真で撮ったんじゃないかと本気で悩んだほどに彼女の絵は上手かった。


「所々すんなり受けいれられない部分があるからじゃないかな。勇者と魔王が戦いを始めたところの擬音は随分話し合ったわけだし」


「有馬先生の言うとおり、もっとリアリティがあったほうが良かったか……。漫画的表現なら、ガキィンよりもキィんの方がいいと思ったんだが」


「……いや、そこでもなくて」


 というか、わざわざ擬音一つ決めるのに話し合いまでしたのか。


「異世界の歴史を伝える手段として、何故漫画を選んだのかって聞いてるんだけど」


「ああ、なんだ、そういうことか。口頭だとほら、小難しい話だし眠くなってしまうだろう? 漫画だったらイメージも付きやすいし、取っ付き易いからいいと判断して漫画風にしてみたんだ」


 漫画で歴史を書いてる作品は色々あるし、それにあやかってみたんだ、と優里奈は補足する。


「確かにイメージがあるお陰で分かりやすかったし、長すぎず短すぎずで上手くまとまってたし、最後の方はエクスカリバー六つに分けちゃうんだ!とか意外性があって面白かった。けど、けど……」


「おお、やはり郁也は分かってくれるか! 読みやすいように週刊誌の読み切りぐらいのページ数に抑えて、かつ続きが気になるようにしてみたんだ」


「残念ながら……続きは気にならなかった……!」


「何? どこが駄目だった?」


「過去の話に終始し過ぎて……主役となるであろう六人の勇者が全く活躍してない点だ!」


「くっ……しかし、奥岡先生の次回作に期待って書いてあるから、連載になったら活躍する場面も」


「何度も同じ作品を流用できるほど、漫画界は甘くない!」


「そ、そんな……」


「流石にいい加減、話をすすめて欲しいんだけど」


 郁也と優里奈のコントを見守っていた有馬が痺れを切らして言った。


「そうだったそうだった。それで俺が文句を言いたいのは漫画の内容じゃなくて、歴史を伝える媒介がおかしいって言いたいんだ!」


「漫画では不満だったか?」


「俺的には嬉しいけど、何か……何か違う気がするんだ」


 例えば、見開きページに美しい風景が描かれたとしよう。

 読者は視覚的に綺麗と感じるし、登場人物の「凄い……」なんて感嘆な一言があれば事足りるだろう。

 だが、


「水面に朝日の光が反射して幻想的な光景を生み出している」


 なんて語られたら逆に興ざめだ。

 どうしてかは分からないが、使う手段とタイミングを間違えたような違和感を感じているのだった。


「まあ、あんまり漫画にばっか焦点を当てても意味ないし、現実に戻ろうか。えっと、漫画の内容が確かなら魔王を討伐するための勇者は六人いるって事でいいんだよな?」


 確認を取ると、優里奈と有馬は頷いた。


「で、その内の二人は今目の前にいる二人、と」


 一人は「剛気の勇者」こと奥岡優里奈。

 彼女が勇者であることは、郁也がこの教会に来る前に教えられた。

 

 そして、もうひとりは。


「そういえばまだ名乗ってなかったね。『誠実』の勇者だ。普段は徳原高校の国語教諭をしているけど、こちらは仮の姿で本業が勇者さ」


 と、生徒から黄色い声を浴びることに定評のある有馬忠志が爽やかに言った。


「はあ、先生がここにいるのを見た時凄い驚いたけど、同時にこの前の警告の意味が理解できましたよ」


 魔王――笛月葉花が創造した徳原高校もどきから救出された郁也は、優里奈と共に古びた教会へと降り立った。

 どうやらここに星光軍(せいこうぐん)――魔王軍に対抗する人間達が結集した連合軍のことをいうらしい――の主要メンバーが少数ながらいるらしかった。

 

 非日常に突如放り込まれた郁也は緊張の中、教会から出てきた人物を見た。

 するとなんとまあ、その相手が見知った相手なのだから驚かざるをえないわけで。


 そんな郁也にはお構いなしに有馬は教会の中を案内した。

 付いていった先は小さな部屋で、椅子に座ると同時に三十枚ほどの紙を突然渡された。

 そして、何を聞くにはまずこの漫画を読んでからにしてほしいと言われ、読んだわけだが……。


「勇者たる偉大な人物が身近な人物だと、あんまり凄みは感じないな……」


「恐らくだけど、それ僕に向けての言葉だよね? 期待を裏切るようで悪いけど、少なくとも僕は奥岡さんよりは強いよ。これでも勇者として先輩だからね」


 勇者に先輩もへったくれもあるのだろうか。


「ゆり姉はいつ勇者に選ばれたんだ?」


「素質があると判明したのは中三の始めだったな。なるべく表には影響を出すまいと努力はしたんだが、やはり浮ついてた部分があったんだろう」


 徳原高校は進学校ではあるが、県内随一といわれたらそうでもない。

 優里奈の実力なら県内随一の高校も狙えたはずだ。

 なのに徳原高校にランクを落したのは勇者に選ばれたから。

 ここではこう言いたいんだろう、と郁也は判断した。


「あの時期は魔王軍がアルスマグナでの動きが特に活発的だったからね。奥岡さんには迷惑をかけた。今でも予断を許さない状況だけど、ギリギリまで普通の人生を楽しんで欲しいと思ってる」


 しみじみと語ったのは有馬だ。


「先生は?」


「僕は……まあ、奥岡さんより前に選ばれたってことで。語ると長くなっちゃうから。そんなことより、大事なのはどうして僕たちがここにいるのか、だ」


 その言葉に郁也はハッとする。


「そ、そうだ。ゆり姉はともかく、有馬先生はどうして高校の教師なんかやってたんですか。笛月さんが現れたから?」


「笛月さんが転校してきたのはついこの間だろ? 時系列が合わない」


 有馬はあっさりと言う。


「元々僕は地球で教師生活をしていた。勇者候補を見つけるためにね。で、奥岡さんという適合者を見つけた。ある程度育ったとはいえ、奥岡さんは勇者としてまだまだ未熟だ。それに学生の身分があるから、動こうにも動けない。そこで徳原高校へ転任して奥岡さんの面倒を見てたってわけ」


 勇者といわれても、学生が足かせになってたり、教員免許を持ってるからなんて理由で有馬が選ばれたりと、妙に世間的だなと思った。


「じゃあ、笛月さんがうちの学校に転校してきたのは……」


「ああ、偶然だよ。……いや、僕たちがいることを承知の上であえて徳原高校に来たのかもしれない」


 今まで余裕綽々だった有馬の顔に初めて翳りが浮かんだ。


「そうだね、戸田君から不満も上がったし、二回目の勇者伝説は図と口で説明しようか」


「……漫画で説明しようと言ったのは先生なのを忘れないでください」


 優里奈が苦い顔で言う。

 当の有馬は聞こえてない風に説明の準備を進めた。


「前の戦いから数百年が経過して、少しずつ魔物達の動きが活発的になっていった。……あ、ここでいう魔物は姿を消さなかった現地残留組だ。星光軍は彼らの動きを警戒して、勇者の選定を急いだんだ」


 魔王が現れてから勇者を探すのでは、勇者が揃う前に人類は敗北してしまう。

 それを防ぐためにも勇者の選定は常に行われていたという。


「星光軍の予想は当たった。再び魔王が現れたんだ。それも、前回の侵攻よりも遥かに多く魔物を従えて。言うまでもなく星光軍と魔王軍はぶつかった。そんな中でも特にでかい戦闘が二年前――奥岡さんが勇者になった時にあったんだ」


 ちなみに、優里奈は元の素質が良かったらしく、勇者になって早いのに戦場では目覚ましい活躍を見せたらしい。


「結果からいうと僕たち星光軍が勝利した。幹部の首は一つも取れなかったけど、大きな打撃を与えたのは間違いない。彼らは撤退していった。……撤退しただけで、彼らの侵攻は終わったわけじゃない。でもそれから大きな戦いは仕掛けてこず、小競り合いのような形が続いた」


 ただ、どれも小規模の戦闘でわざわざ勇者が出向くほどではなかった。

 お陰で勇者も休む余裕が出てきたと有馬は語る。


「けど、つい最近になって、彼らの行軍が精力的になってきた。他の二人の勇者がそれぞれ戦場に赴いて今も戦ってる。僕たちはギリギリまで待機していることになっていた。そんな時、魔王がやって来たんだ。徳原高校の転校生として」


 その時の有馬の顔は苦悩に歪んでいた。


「異世界じゃないにもかかわらず、僕は思わず武器を取り出して彼女に攻撃を仕掛けるところだった。寸前に彼女が止めたんだ。こう言ってね」


『今ここで争うつもりはありません。あなたもここでの生活を壊したくないですよね。抑えてください。それに……』


 この場でやり合ってもあなたでは私に勝てない。

 恐らくこう続くだろう言葉を、あえて葉花は紡がなかった。

 有馬の後悔と諦観を交えた表情がそれを物語っていた。


「悔しいけど彼女の言うとおりだった。一人じゃ僕は魔王に勝てない。せめてもの意地として、生徒に手を出したらただじゃおかない、とは言っておいた。けど、次に彼女はこう言ったんだ」


 ――ここで何かをしでかすつもりはありませんので、ご安心を。


「そんなこと言われても信じられるわけないんだけどね。結果的に戸田君にちょっかいを出したわけだし。ただ、そんなことをわざわざ言うなんて何を考えているんだ、と思ったのも確かだ」


「その疑問を追求したりはしなかったんですか?」


「第一にする余裕がなかった。魔王が地球に現れる少し前から魔王軍の動きに変化があったんだよ。徐々にだけど、魔王軍が退き始めたんだ」


 それも現在の第一線の戦場だけでなく、星光軍がまともに攻め込めていない土地でも彼らは後退を始めた。

 手薄になればすぐに土地を奪い返されてしまうと分かっているはずなのに……。


「奇妙に感じた星光軍は何が起きてるか調べた。結果、魔王軍の大半が彼らの居城である魔王城に集まり始めているのが判明した。その意図までは掴めていないけど、魔王軍はここらで大きく攻めてくるんじゃないかってもっぱらの噂だ」


 星光軍は疑心暗鬼を感じつつも、可能な限り兵を撤退させた。

 魔王軍が何を仕掛けてきてもいいように軍を編成するためだ。


「私達ももしやとは思っていたが、魔王の狙いはアルスマグナではなく、地球に向けたのだろう。良いか悪いかはともかく、郁也のお陰で彼女の思惑は判明した」


「全く厄介なことになったよ。こっちでなら全力で動けるんだけど、地球が戦場となるとねえ……。だから近いうちに星光軍も大部隊を率いて魔王軍を食い止めるつもりだ。今はまあ、時機を見計らってる最中だね」


 剛気と誠実の勇者はそれぞれ真剣な声音で言った。


「とまあ、これが現状兼戸田君の疑問への回答かな」


「第一にって言ってましたけど、第二の理由があるんですか?」


「単純だよ。魔王がやってきたのは九割九分気まぐれだからだ。現に手のひら返して戸田君を襲ったわけだしね。全くもって信用ならない」


 勇者の側からしてみれば信用ならないというのも頷ける。

 しかし、一般の男子高校生である郁也は、彼女が気まぐれで動いているというのは同意できなかった。

 

 郁也を手下にしようとしたところまでは気まぐれの結果といわれても納得できる。

 けど、断った後の反応はどうも気まぐれによる誘いには見えなかったのだ。


「以上が第二の理由。そして第三の理由だけど、ある意味これが一番大きい理由かも」


 有馬はため息をつくと、さも面倒くさそうに答えた。


「追求して、その理由を特定できたところで意味はないんだ。魔王の意志も動きも関係ない。星光軍と魔王軍は争い続ける。個人の意志でどうにもならないほどに、両者の溝は深いんだ。これはもう、どうしようもない」


 本人たちはどう思おうと、歴史という背景は無視できない。

 現に過去の因縁が今の国際関係を築き上げている国家も地球上にたくさんある。

 勿論日本だって例外じゃない。


「戸田君に語れるのはこれぐらいかな。異世界や勇者の存在、現在の切羽詰まった状況は分かってもらえたかい?」


「あまり切羽詰まったようには見えませんけど……」


 けどそれは、今まで知らなかったからこそ思えるだけで、事態を把握していたなら深刻に思えたのかもしれない。


「とにかくまあ、事態は呑み込めました。それで俺はこれからどうすればいいんですか」


「今まで通りで構わない」


「え?」


 素っ頓狂な声をあげる。

 有馬はそんな郁也を見て笑った。


「確かに今回は危なかったけど、魔王がまた君を襲うとは思えない。今日の一件で僕たちに目を付けられたから、容易に手を出しにくくなったはずだ。それに準備が整ってない今、公然の場所でまた何かを起こすつもりはないと考えてる」


 それに、と有馬は続ける。


「こういう言い方はあれだけど、戸田君の存在が今後魔王軍と星光軍の動きに関わってくることはまずないと思うからね。魔王にとって戸田君は……玩具か何かぐらいにしか思ってないだろうから」


 彼女の「手下」という響きには、玩具扱いをするような感じではなかった。

 しかし郁也は魔王の真意を読み取ったわけではない。

 ここは何も言わず黙っていた。


「でも用心に越したことはない。暫くは奥岡さんに戸田君を守ってもらおうと思う」


「ゆり姉が俺のボディーガードをするってことか」


「ああ。大船に乗った気持ちでいろ」


 得意げに優里奈は胸を張った。

 溢れ出るボリューミーな二つの果実が揺れ、しばし郁也は視線を奪われる。


「何もなければこれで終わろうと思うけど、質問はある?」


 問われて、郁也は話の最中に一つだけ浮かんだ疑問をぶつける。


「確か聖剣は六つに分かれたんですよね? ゆり姉と有馬先生で二人。で、もう二人は別の場所で戦ってる。となると後の二人は?」


 有馬は一瞬、しまったという顔をしてから優里奈を見た。

 優里奈はというと、有馬に頷き返して郁也に一歩近寄った。


「あまり心配させたくないから、一般には伏せていることだ。けれど私は郁也に隠し事をしたくない。だからありのままの事実を告げる。勇者はな、まだ四人しかいないんだ。残り二人はまだ適合者が見つかっていない」


「そうなのか。でも、勇者の予言が確かなら、その六人の勇者が世界を救うはずじゃ……」


「郁也の言うとおりだ。けど現実はこうだ。実感は湧きにくいけど、星光軍はかなり追い詰められてる」


 郁也を不安がらせないためだったのか、優里奈は淡々と告げた。


「ハッキリ言って――星光軍が魔王軍に勝つ未来は絶望的なんだ」




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