エピローグ
色々と未来は不穏であるものの、結局は都度どうにかしていくしかない。
三者はそのような結論にいたり、つかの間の平穏な日常へ戻ることにした。
郁也と葉花は恋人らしく共に帰路に着いていた。
「はあ~、とんだ災難だった」
「元はと言えばフミ君が原因ですけどね」
と言われても、こちらも世界を救うために必死だった故の行動だ。
内申愚痴りながらも口には出さないでおいた。
「まあ、これはこれでありかなあって思ってるよ」
「どうしてです?」
「そりゃあまあ、可愛い彼女が一年間傍にいてくれることが確定したもんだしな」
「か、かわっ……!?」
相変わらず直球の言葉に弱いらしい。
顔に出すと何をされるか分かったものじゃないので心の中だけでニヤニヤする。
「調子乗りすぎです。言っておくけど、私が愛想を尽かしたらそこまでですからね。停戦期間が終了したら瞬殺ですから」
「容赦ないな」
「仮にも魔王ですから」
「まあな。けど魔王であると同時に女の子だ」
「はあ、全く。女の子に対してそういう態度を取るあたり手馴れてますね」
「ゆり姉に女の子の扱いを色々指南されたからなあ……って」
葉花が凄い形相でこちらを睨んでいた。
「彼女と話している時に他の女性の話をしないでください。しかもよりによってあの女の話題とは余計に腹が立ちます」
「個人的には二人はもっと仲良くなってほしいところなんだけどな」
「同性としてだけではなく、一応敵なんですからね」
「いや分かってるけどさ。これから一年間同じ学校に通うわけだし」
郁也の身を守るためにもなるべく葉花が傍にいられる環境がいい。
よって葉花は高校生のまま地球に残ることを決めたのだった。
「これから一年間大変だと思うんだけどさ。同時にちょっと楽しみな気持ちがあるのも否定できないんだ。今みたいな状況にしちゃったのも、葉花と過ごす時間が楽しいからって理由もあったし。それに色んな約束というか……望みも叶えてないから悔しいというか。もっと端的に言うとだな」
郁也の言葉を葉花は俯きながら聞いていた。
どんな表情を浮かべているのか、郁也には分からない。
そして気がつくと郁也は己の運命を選択した夢見坂の前に立っていた。
「俺にはまだやらないといけないことがあるんだ」
かつて人々に夢を与えたとされる夢見坂で、郁也は夢を願った。
そして今、郁也はその坂のふもとで彼女と並んでいた。
「フミ君、競走しましょう」
「え?」
戸惑っている間に彼女はとっとと坂を登り始めてしまう。
「ほら、フミ君、早く早く」
中間地点まで上ったところで彼女は足を止め、こちらを振り向いた。
するとフワリとスカートがなびいた。
艶めかしい太ももがチラつくが、その奥までは見えなかった。
「……下からパンツを見ようと考えてるなら諦めたほうがいいですよ」
ば、バレテーラ。
笑顔から一転、ジト目になった彼女の視線から逃れるように目をそらした。
「それに、まだ見せるわけにはいきませんから」
手を後ろに組んで彼女はフフッと微笑する。
はあ、全く。
郁也は困ったように頭を掻きながら苦笑した。
四月は怒涛の一ヶ月だった。
転入生の意外な正体。
幼馴染の秘密。
世界の真実。
そして……終焉に向かう世界の運命。
ただの男子高校生だったのに、彼女のせいでとんでもないことを知ったものだ。
けれど、知っただけ。
あくまで日常の延長線上として非日常に触れ、その結果、郁也は夢を願ったのだ。
いつか、彼女のパンツを見てやると。
「まだって言ったな。いずれ絶対、ぜーったいに見てやるからな!」
「その異常なまでのパンツへの執着心は何なんですか……」
アホなやり取りをしながら、郁也は坂を一歩踏み出す。
――世界の命運をかけたラブコメが、始まる。