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04月27日「七人目の勇者≠男子高校生」

20XX/04/27(月)

 翌日。学校に葉花は登校してこなかった。

 休んだ理由を有馬に尋ねると、彼女は理由は特に言わず休んだことが判明した。

 

「その様子だと、昨日彼女と何かあったようだね。放課後、後で僕が指定した場所に来てくれるかい?」


 はてには、有馬に気落ちしているのを看過される始末だ。


 放課後になると郁也は有馬に指定された場所に向かった。

 以前、有馬達から異世界の事情と魔王の正体を聞いた場所だった。


 二人に昨日の出来事を話す。

 といっても、アルスマグナの企みを明らかにするわけにもいかないので、三十日に攻め込もうとしている、という情報をあくまで強調した。


「――なるほど。魔王軍が仕掛けてくるのは数日後か。ありがとう、戸田君。有益な情報だ。すぐに報告しないと」


 先生が報告しようとしている相手は、あなた達を利用してるんですよ。

 心ではそう思っても、当然口にはできなかった。


 有馬は建物を出ていき、中には郁也と優里奈の二人だけが残された。


「なあ、ゆり姉、星光軍は魔王軍に勝てるんだよな」


 俯かせていた顔を上げ、優里奈を見る。

 彼女は微笑んでいたが、決して晴れ晴れとしたものではなかった。


「勝てる、と言えたら良かったんだけどな。この場には私達だけだから口にするが……恐らく、現状の星光軍では魔王軍に勝つことはできない。以前も言ったようにな」


「ゆり姉や有馬先生がいてもか?」


「私たちは一兵士より強いだけで、魔王軍全てを圧倒できるほどの力はない。初代の勇者のように一対一で戦えるなら可能性はないが……軍同士の争いとなると、私達も一つの駒でしかなくなるんだ」


 優里奈達を待ち受けている戦いはゲームではない。

 RPGのように少人数のパーティで世界は救えない。

 

 それに例え、奇跡が起きて星光軍が魔王軍に打ち勝ったとしても、地球の危機がなくなるわけじゃない。

 勢いづいた星光軍……いや、アルスマグナが地球を侵略せんと攻めて来る。

 真に世界の平和を求めるなら、星光軍と魔王軍の両方を攻略する必要がある。


 ここで優里奈に全てを話して知恵を貸してもらう手もある。

 有馬は郁也達の味方なのか、アルスマグナ側の人間なのか分からないから何とも言えない。

 例え仲間になってくれたとしても、三人で両軍を抑え込むことはまず不可能だ。


 では、地球のお偉方に事情を話して対策を練ってもらうとか?

 馬鹿馬鹿しい。それこそ荒唐無稽だ。

 三人の人間が異世界人が攻めて来るだの、異形の生物が攻めてくるだの喚いたところでまともに話を聞いてくれるとは思えない。


 まさに八方塞がり。

 たかが普通の男子高校生がどうにかできるものではない。


「郁也。この前の事だが……すまなかった」


「え?」


 知らぬ間にまた俯いてしまってたみたいだ。

 それを見咎めたように優里奈はこちらに顔を向けた。


「笛月葉花とみっともなく張り合ってしまった日のことだ。私にとって笛月葉花は敵という認識しかなくてな。敵が郁也に絡んでいるのを見てたら、不安になって……。いや、それだけじゃない無性に頭が来たんだ。それで思わず嫉妬を丸出しにしてしまった。自分が恥ずかしいよ」


「あれはゆり姉が悪いんじゃなくて、強く言えなかった俺が悪いんだよ。だから謝らなくていいって」


「いいや、謝らせてくれ。犯した罪を見つめ返し、反省できるのは人間だけだ。なのに欲深いことを享受して、罪から目を背けようとするのは、それこそ傲慢で怠惰だと思ってる」


「…………」


 呆けたように優里奈の瞳を見返した。

 彼女にはアホ面のように映っているだろう。

 けど、優里奈はあくまで真剣な表情で郁也を見つめていた。


「……一つゆり姉に聞きたいことがあるんだ」


「ああ。私が答えられるものならなんでも答えよう」


「訳わかんない質問だと思うんだ。だから詮索せずに思ったことを言ってほしい」


「了解した」


 優里奈は何も言わず、郁也の言葉を待つ。

 郁也は言った。


「例えば第三次世界大戦が起きたとする。で、ある人物から近々核が近くに落ちるって情報を教えてもらった。続けてその人物は、自分も含めた大事な人達を核シェルターに入れる権利をやると言う。ただ、その人物は親の敵だった。……この場合、ゆり姉は親の敵になんて答える?」


「ふむ、そうだな」


 優里奈は腕組みをして首を傾ける。

 少しの思案の後、口を開いた。


「私ならまず、その親の敵をぶん殴る」


「……は?」


「だってそいつ、親の敵なんだろう? なら憎いはずだ。殺さないだけありがたいと思うぞ」


「随分過激だね、ゆり姉……」


 まさか優里奈の口から殺すだの憎いだのといった単語が聞けるとは思っていなかった。


「昔のことを詫て、罪を償うためにきたというなら、まあ、もう少し話を聞いてやろう。しかしそうでなかったら話は別だ。殴って、追い返してそれで終わりだ」


「でも、それじゃあ自分たちの安全は……」


「ああ。確保できないだろうな。でも嫌じゃないか。親を殺され、人生を狭まれた上に、同じやつに道を提示されて……まるで操り人形じゃないか。そんなのゴメンだ」


「じゃあゆり姉は生き残るのを諦めるのか?」


「そんなことは一言も言っていない。核シュルターに入れる権利を得るのがどんなに大変であろうと、親の敵に与えられるぐらいなら、自分で掴み取る。足掻いてみせる。それこそ命が尽きるその瞬間までな」


「ゆり姉の言ってることは立派だ。けど理想論でしかないじゃないか」


 理想論だったら誰でも言える。

 しかし優里奈はひるまない。


「理想論で結構。理想でものを語れない人間がどうやって未来を夢見るんだ」


「…………」


「少々話はズレてしまうが……。現実だけを見つめて、夢を諦めてしまう人間と同じだよ。絵を描くのが好きなら画家になりたい。書きたい物語があるから作家になりたい。そういった夢を見なければ、叶うものも叶わない。荒唐無稽でもいい。理想論でもいい。馬鹿みたいに甘い夢でもいい。未来を形にするには、それを表に出さないと始まらないんだ」


 高校生にもなると、段々現実が見えてくる。

 

 大半の人間が中学生の頃には抱いていた夢を「あり得ない」からとバッサリと切り捨てる。

 そして、いつしか少数派となった夢を抱く人間を現実を見ろ、とあたかも悟ったかのように言い捨てる。

 

 彼らからそんな言葉が出てくるのは当然だ。

 夢を見てない人間はどうやったって夢を叶えられるわけがないのだから。


「それに問題はこの先だ。理想を掲げても、行動するのはその何十倍も大変な行為だからな。有言実行なんて言葉があるが、実はかなり凄いことなんだぞ。何せ行動には大抵責任が付きまとうからな。難しいものだよ」


 と、優里奈は肩をすくめて笑った。


「話が逸れたな。とにかく私は親の敵を殴って追い返して、それから自分の力で核シェルターに入れる権利を掴み取る努力をする」


「何だか、今のゆり姉みたいだな」


「どういうことだ?」


「だって、魔王軍に勝てるはずがないって分かってるのに、ゆり姉は勝てると信じて戦いに出るんだろ?」


「もちろん」


 優里奈は力強さを感じさせる頷きをしてみせた。

 そんな優里奈を見て、盛大に息をついた。

 どんなに成長したところでゆり姉には勝てそうにない。その背中に付いていくだけで精一杯だ。


「酷いな。ため息をつくにも気づかれないようにしてくれればいいものを」


「自分の浅慮さを思い知ったところで、ゆり姉ほどの立派さを見せつけられちゃ、ため息もつきたくなるよ。けど、助かった」


 優里奈の言葉で、ようやく目が覚めた。

 まだ諦めるには早い。

 自分が非力なのはわかってる。それでも足掻く。足掻き続ける。

 学と教室で馬鹿な話を咲かすことができるように。

 優里奈や有馬と学校で話せるように。

 そして――葉花と一緒に昼休みを過ごせるように。

 

 何故なら、俺は昨日心の底から願ったのだ。

 いつまでも葉花と楽しい時間を過ごしたいと。


 ならば、そのために出来ることを考えよう。

 星光軍がどうかとか、魔王軍がどうとかは関係ない。

 

 俺には、俺だけが知る笛月葉花がいる。

 彼女が笑ったり、驚いたり、恥ずかしがったり、意外と初心で乙女チックな思考を持つ少女であることを知っている。


 俺だけが知ることがあるなら、俺だけが思いつくような考え方だってあるはずはずだ。

 二人で共に日々を歩んでいくためのピースは、日常にこそ転がっている。


 ここ二週間の出来事を回想し――そして、郁也は一つの答えを得た。


「なあ、ゆり姉。成功する確立が低い……どころか現実離れした案なんだけど、万が一どうにかできそうな作戦が思い立ったって言ったら、ゆり姉は協力してくれるか?」


「どうしてオドオドと聞くんだ。郁也が思いついた作戦だというなら、一もなく二もなく頷くぞ」


「嬉しいけど、ゆり姉のその自信は一体どこからくるんだ」


「何であれ、行動しないと始まらない。そしてさっき、行動には責任が伴うと言っただろ? 責任を持つには勇気がいる。つまり、だ」


 背筋をピンと伸ばして。

 剛勇の勇者は勇敢に笑った。


「行動することこそ、勇気だからだよ、郁也」




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