プロローグ
かつて人々に夢を与えたとされる夢見坂で、郁也は夢を願った。
そして今、郁也はその坂のふもとで彼女と並んでいた。
「フミ君、競走しましょう」
「え?」
戸惑っている間に彼女はとっとと坂を登り始めてしまう。
「ほら、フミ君、早く早く」
中間地点まで上ったところで彼女は足を止め、こちらを振り向いた。
するとフワリとスカートがなびいた。
艶めかしい太ももがチラつくが、その奥までは見えなかった。
「……下からパンツを見ようと考えてるなら諦めたほうがいいですよ」
ば、バレテーラ。
笑顔から一転、ジト目になった彼女の視線から逃れるように目をそらした。
「それに、まだ見せるわけにはいきませんから」
手を後ろに組んで彼女はフフッと微笑する。
はあ、全く。
郁也は困ったように頭を掻きながら苦笑した。
四月は怒涛の一ヶ月だった。
転入生の意外な正体。
幼馴染の秘密。
世界の真実。
そして……終焉に向かう世界の運命。
ただの男子高校生だったのに、彼女のせいでとんでもないことを知ったものだ。
けれど、知っただけ。
あくまで日常の延長線上として非日常に触れ、その結果、郁也は夢を願ったのだ。
いつか、彼女のパンツを見てやると。
「まだって言ったな。いずれ絶対、ぜーったいに見てやるからな!」
「その異常なまでのパンツへの執着心は何なんですか……」
アホなやり取りをしながら、郁也は坂を一歩踏み出す。
――世界の命運をかけたラブコメが、始まる。