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マイコ来日(1)

近未来の日本の姿を、現代の状況から考察して、なるべく詳細に描いてみました。

現代人の感覚からは懸け離れているため、批判は多いでしょう。

特に、左翼的な思想をお持ちの方には、お勧めしません。

 時は、『西暦』二一一四年の春。


  空の旅

 マイコは今、生まれて初めて乗った航空機での旅を終えようとしていた。

 目的地の『大阪』へ、間もなく到着するとの機内アナウンスが告げていたのだ。

 生まれて初めてとは言え、狭い機内に三時間も閉じ込められ、咎められない程度には機内を散策し尽くし、飲み放題の各種飲料にもいい加減飽きていたので、丁度良かったのだ。

 元気な子供である彼女にとっては、たったの三時間と言えども、何もしないで大人しくし続けている事など、苦痛以外の何物でもない。

 高々度を超音速で巡行している間が、特に、機内が極めて静かで、何の振動も無かったため、乗り物に乗っている事すら意識できないような状態だった。

 窓外の景色といえば、ひたすら碧いだけの空、小さな雲、そして、海底の地形が丸分かりの海、時折見掛ける小さな島々・・・これだけである。高々度から見たこれらは、まるで模型のようで、衛星地図でも見ているような感覚で、現実感に乏しい。

 彼女は、十歳になる今まで、生まれ育ったロサンヘレス(サウスカリフォルニア州の州都かつ最大都市。英語ではローサンジャラスと言う)を、一度も離れた事が無かったのだが、ただ一人の肉親となってしまったマルシア(時差ボケがどうのこうの言って、搭乗以来ずっと寝ている)の決意により、友達との別れを惜しむ暇さえ与えられずに、見知らぬ外国へと移住することとなった。

 しかも「日本の学校は四月入学だから」との理由で、中途半端な時期に学校を離れるのだ。

 勿論マイコは、幼馴染の友人達と離れたくなかったので、「行きたくない」とは言ってみた。

 しかし、マルシアの決意は強固で、結局は、付いて行くしかなかった。

 取り敢えず、空の旅に関しては、極めて快適だった。

 以前に二度、航空機に乗ったことがあるマルシア曰く、『超音速航行時以外は、動力音や風切音で、かなりうるさかった』とのことだったが、そのどちらも全く感じなかった。

 不思議に思って尋ねてみると、「今回はゆっくり眠れるように、日本製の航空機を選んだ」とのことだった。

 日本製の航空機は、様々な航行発生音を低減させた上で低燃費にも貢献する特殊な加工外壁と、自家用自動車程度の騒音しか出さない高性能な噴流推進動力によって、極めて高い静粛性を獲得している。当然、機体は高価で、整備費用も高くなるのだが、『藻油』等の高価な人工石油しか産出出来ない日本は、輸入依存の危険性を最小限に留める必要性から、『低燃費』が優先される。

 逆に、アメリカは、石油産出大国であり、しかも世界中に石油利権を持っており、常に安定的に安い石油が手に入るので、低燃費や低騒音よりも、『安い機体』と『安い整備費』を優先しており、こんな面倒な装備・技術群は、全く普及していない。

 それよりもマイコは、残念に思っている事がある。

『上等席に座りたかった』

・・・等という、身の程知らずな話ではない。

 そもそも、日本の航空機には、高級な上等席ファーストも安価な節約席エコノミーも存在しない。全てが、中間の実用席ビジネスなのだ。日本にも、金持ちや貧乏人は居ると思うのだが、何故かどちらも需要が無いらしい。

 そうではなく、マイコが残念に思ったのは、座席が全て後ろ向きである事だ。

 後ろ向きである理由は、万が一の墜落事故が起きても、全身が座面に強く押し付けられるだけで済む事が多く、搭乗者の生存率が圧倒的に高いためである。

 離陸の時は風景がよく見えたので、離れていく祖国に眼で別れを告げる事が出来たが、今は、新天地の風景がよく見えないのである。

 仕方がないのでマイコは、座席設置の画面に映し出された、間接的な風景を見ることにした。機体下部に設置された映写機により、自由に全方向の風景を、一応は見渡す事ができるのだ。

 泣く泣く祖国を離れる事となったマイコだが、だからと言って、日本に興味が無いわけではない。むしろ、興味大アリである。

 小さい頃からアニメで見ていたような、未来的で複雑な立体都市は、本当にあるのか?

 水と安全は本当にタダなのか?

 学校では『日本は天皇主権の軍事独裁国家』と習ったが、マルシア曰く『アメリカより、ずっと民主的だわ』とのこと。さて、真相はどちらなのか?

 富裕層も貧困層も無く、更には、民族別の居住区すら存在しないというのは本当か?

 財布を落としても、一円も盗まれる事なく返って来るという、有名な伝説は事実か?

『家も自動車も全部、紙で出来ている』という噂の真相も知りたい。

・・・ともかく、興味は尽きないのだ。

 目指す泉州国際空港(通称は何故か関空)は、大阪湾の沖合にある人工島である。海上に存在するため、様々な設備を持つ白い姿が鮮明に浮かび上がって見える。まず、それ自体が新鮮だった。平野が少なく、しかもその狭い平野部に人口が密集する日本では、人工島空港は一般的だ。中でも、海上に三本の長大な滑走路を持つ関空は、近畿州のご自慢である。

 空港島から少し離れた場所の陸地には、既に高層建築物が密集しており、都市部を構成しているのが分かる。

 各々の建物の壁面は、品種改良によって生み出された多種多様な『蔓草』で覆われているため、都市部全体は、『人工物が混在した森林』と表現した方が、見た目の印象を伝え易い。

 日本の都市は、建築物の高層化率が異常で、人口密度も発展途上国の大都市(交通手段が徒歩中心となるため、必然的に人口密度が高くなる)を軽く超える規模なのである。そのため、

・都市高温化現象を緩和

・空気の清浄化を促進

・植物発電により、電力の一部を自給

 という利点がある壁面植生を最大限に利用し、都市を快適に保つため、環境負荷を少しでも減らそうとしているのだ。

 対岸の右手方向は、平野が先細りで、逆に左手へは平野が大きく拡がっている。直近の『臨空町』を含めた街の構成は、駅を中心に高層建築が密集し、周囲を農地が取り囲む形となっている。大都市圏中枢方向である左手には、大阪平野が拡がっているのだが、そちらの遠景には農地が見られず、ほぼ超高層建築で埋め尽くされており、都市規模の巨大さが窺える。何せ、大阪都市圏の規模は、世界第二位(一位は同じく日本の東京)なのである。

 空港を休みなく稼働させるべく、航空機の静粛性を大幅に向上させた理由が、ここにある。

 そして、大阪都市圏を奥深い山脈が大きく取り囲んでいる。こちらは、見える範囲内全てが濃密な緑で覆われており、植生が極めて豊かである事が、すぐに分かる。祖国では見慣れた、『褐色の荒野』は全く見当たらない。

 要するに、この国では、人も植物も圧倒的密度でひしめき合っているという事だ。

 飛行機は、離陸時と同様、極めて円滑に滑走路へ着地した。加減速制御や姿勢制御が行き届いているため、衝撃が最小限に抑えられているのだ。機内の気圧もちゃんと制御されており、極めて緩やかに変化していたので、体調も悪くない。

 いつの間にか機体は停止し、暫く待つと機内に案内放送と柔らかな音楽が流れる。

 案内放送に従い、少しずつ乗客達が席を立ち、出口へと列をなす。

 だがマルシアは起きない。

「さっさと起きなさいよ、マルシア。全く、だらしないわね・・・」

 高飛車な口調で肩を揺するマイコだった。


『皇紀』二七七四年四月、マイコ来日。


  空港にて

 空港棟内へ降り立つと、ここが異国である事が皮膚感覚で分かった。空気の湿度が高く、ほんの微かだが、しかし顕著に、全く馴染みのない土地の匂いがあるのだ。

「日本の匂いだわ・・・」

 マルシアが懐かしげに呟く。彼女は、ほんの二年前までの四年間、ここに留学していたのだ。

 マイコはと言えば、空気の湿度に鬱陶しさを感じつつも、匂いの方はすぐに気にならなくなった。未知の匂いではあったものの、悪臭だとは感じなかったのだ。

(今まで全然意識した事無いけど、帰国したら、『アメリカの匂い』が分かるかも!)

 ささやかな楽しみを抱くマイコ。

 案内表示に従い、入国審査窓口へ向かう二人。

 沢山ある窓口は、大きく『日本人』と『外国人』の二種類に分かれていた。

 日本人側の案内表示は日本語のみ。

 一方の外国人側は、多数の言語が併記されていたが、奇異な点があった。支那語に見えた文字の横には台湾国の国旗が表示されており、よく見ると、支那と韓半島諸国の国旗表示が、どこにも見当たらない。

 どちらも無視してよい規模の民族言語では無いし、ましてや日本にとって、最も近い地域の外国言語である。

 日本語を幼い頃から勉強し、基本的な周辺地理を理解していたマイコは、それを鋭く発見したのだが、二地域に対する知識は残念ながら乏しい。

 アメリカにも彼らは沢山住んでいるが、無警戒で愛想の良い日本人達と違って、彼らは、自分達の民族集団の外へ殆ど出ないし、珍しく見かけても、警戒心が強く、極めて無愛想なので、実際に話した事もなく、推測も困難である。

 何となくの印象だと、まず支那人は、『金持ち』である。共産党政府が崩壊した際、彼の地域で特権階級に属していた人々だけが、資産を密かに母国から持ち出し、何の躊躇いもなく国を捨てて、さっさと国外逃亡したので、受け入れ側の国民からは、そんな印象を持たれているのだ。

 最大の逃亡先であったアメリカ合衆国においても、その経済力と民族的団結力で、政治・経済に強い影響力を持っており、しかも彼らは、頭が良くて非常に狡猾である事から、他民族からは大いに警戒されている。

 アメリカ人の持つ印象は以上だが、隣国である日本人は全く違う認識をしている。

 共産党政府崩壊の混乱期、支那にはおよそ十万人の日本人が滞在していたが、その内、半数近くもの人々が、無差別に惨殺された。

 そして、沿海地域では、俗に『漢冦』と呼ばれる武装難民の海賊集団が跋扈し、沖縄を主とした周辺地域が何度も襲撃を受けて甚大な被害を被り、その際にも、かなり残酷な方法で、多くの日本人が虐殺された。

 だから日本人は、支那人を『野蛮な無法者』と認識しており、特に人的・物的被害が酷かった沖縄の人々は、彼らを非常に嫌悪し、今でも圧倒的多数が対支那強硬派で、「内戦状態だったので、彼らが生きて行くためには、仕方がなかった」などと発言し、ほんの僅かに支那人を擁護したと思われただけでも、親の敵であるかの如く、激しい糾弾に晒され、沖縄に住めなくなってしまう。

 一方の韓人と言えば、アメリカでも、他民族からハッキリと煙たがられている。特に彼らは、差別感情が強烈なため、黒人との関係は最悪で、流血の惨事も時折発生する。

 そして不思議な事に、どの民族からも好感を持たれている日本人に対し、唯一、韓人だけは敵意を向けている。

 彼らの居住地区にある、二人組の銅像は有名だ。韓人『売春婦』の前に『紅の傭兵』という日本人が土下座しているという、意味不明な像で、有名ではあるが、彼らの文化に関わり合いたくない他のアメリカ人達は、やはり無視している。

 マイコには、そんな大雑把な知識しかないので、ごく素朴な推論に至るしかなかった。

(きっと、支那人も韓人も、みんな日本語を読めるから、彼らの言語表記は必要無いのね)

 別に突飛な推理でもない。マイコの周囲にも、母語ではない英語を読み書き出来る人々は多い。

 実際に日本は、すぐ間近な支那・韓諸国よりも、桁違いに裕福な国である。自然の成り行きとして、日本語を習得する事も一般的であろうと思われたのだ。

・・・残念ながら、完全なる誤答なのだが・・・。

 因みに、マイコ達の母語であるスペイン語は、国連公用語なので、ちゃんとあった。

 とは言え、マイコはこの程度の案内文なら、日本語でも充分に読めた。

 幼少の頃から、姉であるマルシアの教育方針で、何故か英語ではなく日本語を習っていたのだ。しかも、実際に育ててくれた両親ではなく、勉強以外は全く何もしない姉のマルシアが、マイコの教育方針を独断で決めていた。当時はそれが奇妙に思えたのだが、実はちゃんと理由があったのだ。

 窓口へ進むと、職員が笑顔で「こんにちは」と挨拶してきたので、マイコも「こんにちは」と正確な発音で応じる。日本語は、使用文字や語彙が非常に膨大で、表現方法も極めて複雑だが、発音だけは驚くほど単純なので、喋るのは楽である。

 外国で現地言語の挨拶を交わす事が出来て、少し鼻が高い。

 窓口で通行証を渡すと、中身を一瞥されて、一瞬で返された。

 どう見ても真面目に確認などしておらず、極めて形式的だ。

 何も咎められる理由など無いのだが、あまりにも手続きが簡素だったので、少し戸惑う。

 この国は、世界で最も入国が困難だと聞いていたためだ。

(但し、法制度上では、アメリカの方がずっと厳しい。日本は、世界最長の継続年数を誇る国家なので、社会通念や判例の蓄積も世界最大で、慣習法をも含めた法制度の実効性が、極めて高いのだ)

 実のところ日本には、世界一を誇る高度な非破壊検査技術があり、手荷物や身辺の検査は、この時点で自動的に済まされていたという。しかも電子頭脳や自動化機械の普及率も世界一であるため、それらの働きにより、ほぼ自動的に二人の入国適正(個人情報の詳細に至るまで!)も事前に分かっていたのだ。

 無警戒な外観印象とは全く裏腹なのである。

 一部の日本人は、これらをもって、『我が国は閉鎖的で排他的』と考え、偉そうに批判している人もいるが、正直、間の抜けた考え違いだ。そんな風に、他民族の善良性を無条件で信じているのは、世界広しと言えども、日本人だけなのである。

 実際のところ、世界中の多民族国家の国民達は、『単一民族国家が最良の国家形態だ』という厳然たる事実を、身に染みて理解している。

 一方で、『我が国は多民族国家だ』と異様に強調する日本人もいるが、日本皇国の実態は、国家規模の割に民族の統一度が極めて高い。だからそんな主張は、外国人から見れば、別の意図を疑わせる詭弁として映っている。

 勿論マイコも、『単一民族国家 日本』を、非常に羨ましく思っていた。彼女が住んでいた街は、勿論、ヒスパニック専用の居住区だったが、近隣に、黒人や中国人や白人等の、他民族の居住区が無ければ、もっと住み易い筈だと、マイコだけでなく、知り合いの誰もが認識していた。

 拍子抜けするくらいに簡単に窓口を後にすると、入国門上部に、『ようこそ近畿州へ』との大きな看板。

 入国門をくぐると、国際便到着広間に出た。

 日本のアニメはアメリカでもごく一般的で、その登場人物達の髪や眼の色は極めて多彩なので、本物の日本人の群れが殆ど黒髪黒目である事に、少し違和感を覚えたマイコだったが、彼らはモンゴロイド系なので、実態はこうなのだと、改めて認識する。

 そして彼らは、意外な程に背が高く、肥満体の人が殆ど見当たらず、そして全般に、白人を除く他の全ての民族よりも、明らかに色白だ。顔立ちを除くなら、ヒスパニックよりも日本人の方が、白人に近い印象すら受ける。

 彼らが極めて健康で、直射日光を殆ど受けない生活をしている事が、一目瞭然である。

 それはそうと、マルシアの学友が迎えに来ている筈なのだが、人が多く、広間の面積もかなり広いので、どう落ち合えば良いのか、マイコには見当がつかなかった。

 だが、その心配は杞憂だった。

「マルシア!」

 一人の日本人女性が笑顔で駆け寄って来た。

 広間には巨大画面があり、入国通路に設置された撮影機からの映像が映し出されているので、誰がいつ門をくぐって出て来るか、即時で分かるようになっていたのだ。

「紗季!」

 マルシアが両腕を広げて応じ、二人は抱擁を交わす。

 マイコは、姉が帰国後も交流を続けていた『サキ』が、典型的な日本人である事を、少し意外に思った。

 外国へ出た留学生や移民は、同郷人同士で親交を深めて集団を形成するものだからだ。実際、マイコの家族も周囲の人々も、ヒスパニック系以外の民族とは、なるべく関わらない。

 しかし、少し考えてふと思い出した。自分達の町に、少々風変わりな日本人が、まるで自分もヒスパニックであるかのように、平然と居住し、地域に溶け込んでいる事を。

 彼ら日本人は、民族に関する『知識』については、間違いなく豊富なのだが、日常生活の感覚では、全く理解していないようなのだ。

・・・まあ、だからこそ、好かれているのだろうが。

「やっぱり、帰って来たね」

 心底、嬉しそうな紗季。

「オオサかワ、ヤメラぁ~レマヘンでェ~」

 コテコテ濃厚な大阪弁を、スペイン語発音で下手くそに喋り、戯けるマルシア。

 本当は、日本語の発音も流暢なのだ。

「「キャハハハハ!」」

 楽しそうに笑い合う二人。

 そして笑顔のまま、マイコに顔を向ける紗季。

 少し緊張するマイコ。

「あなたが、娘さんのマイコね?」

 そんな紗季の言葉に、心臓が飛び跳ねたように驚くマイコ。

 目を剥いてマルシアの顔を覗き込んでみると、「大丈夫」と言わんばかりに頷いている。

 どうやらマルシアは、家族以外は誰も知らない真実(知る人も知らない振りをしてくれている)を、この日本人には話していたらしい。

 マルシアとマイコは、たった十四歳しか離れていない、実の母娘なのだ。そして、マイコの本当の父親は死んだと聞かされており、詳しい話は厳禁だ。きっと、深刻な事情があるのだろう。

 マルシアの両親は、マイコを次女として育てる事にした。

 マルシアは稀に見る秀才で、何としても高学歴を取らせたかったし、将来ちゃんと結婚する上でも、子連れでは、深刻な不都合も多いためだ。マイコにとっても、どんな人物が現れるか分からない、未来の継父よりも、間違いなく血縁のある祖父母に育てられる方が、幸福だと判断されたのだ。

 勿論、戸籍上も姉妹であり、マイコ自身ですら、つい最近まで、それら一連の事実を知らなかった。むしろ、紗季の方が先に知った可能性もありそうだ。

「これから、色々とお世話になるんだから、ちゃんと挨拶しなさい」

 平然と告げるマルシア。他人の前では決して見せないような、安堵の表情すら浮かべている。

「こんにちは!」

 一応は気を取り直し、紗季へ日本式のお辞儀をするマイコ。

「初めまして、宜しくね。・・・可愛いのね、マイコって」

 褒める紗季。典型的な関西方言だったが、何とか意味だけは分かった。

 ちょっと嬉しくなるマイコだったが、持ち前の個性を発揮して切り返す。

「みんな、そう言うのよね。・・・まあ、正直なのは、良いことよ」

 そして、少し偉そうに肩を竦めてみせる。

「まあ! 日本語で冗談も言えるのねぇ、賢いわぁ・・・」

 面白がって大らかに笑う紗季。

 笑いながら、マルシアの方へ向き直って促す。

「じゃあ、行こうか」

 頷き合って歩き出す二人。

 一方でマイコは、やはり納得出来ずに考えこみ、立ち尽くしてしまう。実は母娘だという事実を、知られていた件だ。

(家族の最重要機密だったのに・・・マルシアは何で平気なの?)

「マイコ?」

 不思議そうな表情で振り返り、手を差し伸べるマルシア。マイコと手を繋ごうという意図だ。

 少し不愉快だったマイコは苦笑し、首を横に振って断る。

「いつまでも子供扱いしないでよね、ミ・マドレ」

 わざわざ『私の』を付けたのは、全くの皮肉で母と呼んだからである。

(そういえば、マルシアをお母さんって呼んだのは、生まれて初めてかも・・・)

お読み頂き、ありがとうございます。

お一人でも興味を持って頂けたなら、続きを投稿させて頂きます。

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