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悪役令嬢&婚約破棄

婚約破棄しましょうか? お犬様

作者: 赤ポスト

どうも、赤ポストです。

三日連続短編投稿です。

「婚約破棄だー、婚約破棄だー。ブレア伯爵令嬢が婚約破棄された」



「またですか・・・」

「物騒ですわね」

「確か、今週に入って7件目ですわ」

「そうですね。こうまでも学園で婚約破棄が出ますと・・・私も心配になります」

「あなたはまだ婚約していないでしょ」

「そうだけどー。するかもしれないじゃない。それにあなたも一緒じゃない」

「あたしはいいの」




 ミリア男爵令嬢は、学園の椅子に座りながら騒ぐ生徒達を見つめていた。



 7件目の婚約破棄かぁ・・・

 先週も確か二桁ほどあったから。

 この分だと今週も二桁に届きそうね。



 今、私が通っている学園は婚約破棄の嵐に見舞われていた。

 きっかけは王様の一言だった。




『―――愛無き結婚は認めない!―――』




 流行中の政略結婚に危機感を抱いたのか。

 はたまた倫理的な問題なのか。

 理由は分からない。


 しかし王様の宣伝を受けて国は動きだした。

 宮廷魔術師達が英知を結集し、とある魔法具を作成したのだ。


 その名も。



『龍の庇護』

※別名、愛情鑑定器。

※龍は子供を愛情深く育てるため、そこから名前が付けられた。



 二人の間の愛情を測定する機器。

 0~100の間の数値で、愛情の度合いを示してくれる。


 結婚する際は一定値以上の値を出していなければ認められない。

 法律で決められているわけではないが。

 王様の宣言である以上、誰もがそのルールを守った。


 その結果が婚約破棄の嵐である。

 貴族は一定値以上の愛情度を示せなかった場合、婚約破棄を告げる。

 二人の相性の問題もあるが・・・


 原因はもう一つ。


 例え基準値を超えていたとしても、婚約者よりも数値が良い相手が見つかった場合。

 そちらを優先するのだ。


 誰の心の中にもある僅かな疑念。

 他の人と結婚した方が良いのではないか?

 運命の人は今の婚約者ではなく、他にいるのではないか?

 

 その迷いを数値が後押して拡大させる。


 その結果か、学園では一人の女性に婚約者が殺到することになった。

 学園のアイドルであり、守ってあげたくなるような小動物系女子に人気が集中。

 親しみやすい彼女は、何故か多くの男性と高い数値を叩きだしているようだ。

 

 これまでは憧れているだけであった者も。

 自分と彼女の愛情度に勇気を貰ったためか、実際にプロローズし始めた。

 

 これらから見るに。

 愛情を与えやすい、受けやすい人間が物理的に存在することは確かであった。

 だがそれは、同時に大勢の敗北者を生むことになる。


 


 婚約破棄された女性達はショックで学園を休んだ。

 表向きの欠席理由は風邪となっている。

 だが、婚約破棄が原因なのは誰の目から見ても明らかだった。

 きっと皆の前に顔を出せなかったんだと思う。


 明確な数値で、容姿だけでなく内面(愛情)によって。

 自分は他の女に比べて劣っていると示されたのだから。


 残る女子生徒達は、空席が目だっていく教室に恐怖した。




 今学園では、誰と誰の数値が高いかが話題になっている。

 数値が高ければ人気を集め、低ければ日陰者になる。


 私が耳にしたところ、女子生徒達は数値でランク付けされているらしい。

 男性達が秘密裏に測定し、S>A>B>Cの四段階に分けられていると。

 自分が一体どこに属しているのか気にしながらも、私は考えないようにした。



 なぜなら、私には既に婚約者がいるのだから。



「まーた婚約破棄ね」

「最近は多いからな。君なら理由は分かるだろ?」


「そうだけど、一度約束した事を簡単に破るなんて、信じられないわ」

「でも・・・きっと何か・・・彼らにも理由があるんじゃないかな・・・」


「理由って何?」

「やむ終えない事とか・・・想像できないけど。多分あるんだと思う」


 今、私の前でやや微妙な受け答えをしているのは、私の婚約者のパブロ。

 伯爵である彼は端正な顔をしており、柔らかそうな金髪がふわっと浮いていた。

 

 私は揺れる髪をついつい目で追いながらも。

 心無しか、今日の彼はやや表情が固い気が・・・と思っていた。


 何故かソワソワしている彼だけど、私は彼の事が好きだ。

 

 元々は政略結婚の相手としてお父様から引き合わされた相手。

 でも、一目会った時から惚れていた。

 ゆくゆくは彼の子供(女の子と男の子一人づつ)を生み、一緒に生活すると思っていた。

 

 一緒に買い物に行くところや、子供と遊ぶところ。 

 犬に餌を上げる場面が、時折自然と頭に浮かんできた。

 派手ではないけれど、地味でゆっくりとした生活を彼と送りたかった。


 でも、一つだけ心配事があった。

 婚約者がいる者なら誰でも怯える事だ。


 愛情鑑定器・・・

 私達はまだ使用していない。

 

 何度も使用しようと思ったけど、怖くて使えないのだ。

 もしとんでもなく低い数字が出たらと思うと・・・・夜も眠れない。

 彼と私の関係に自信がないわけじゃないけど、踏ん切りがつかなかった。



 今私は、昼食であるふかし芋と木の実を食べている。

 学園の昼食は何種類かのコースから選ぶ事ができ、私が選んだのが森コース。

 自然豊かな料理。


 このコースを選んだのは、他のコースに嫌いなじゃが芋や牛乳があった事も理由だけど。

 一番の決め手は木の実。

 私のマイブームは木の実食べ。

 口の中で木の実を噛み、ガリガリ砕く事が最近の密かな楽しみ。


「ミリア、相変わら健康な歯をしているね」


 パブロが戸惑ったような目で私を見つめている。

 私はコップの水をゴクゴクと飲む。


「それに、そんなに水を飲んで大丈夫かい?」


「パブロ。心配しないで。

 知ってるでしょ。私は水が好きなの。それに木の実も。

 良い木の実の砕き方教えてあげましょうか。

 私、コツを見つけちゃったの」


「今度にしとくよ。今はやめとく」

「そう・・・とっても楽しいのに」


 若干がっかりしながら、私は水をゴクゴクと飲む。


 お腹一杯になってきたためか、なんだか眠くなってきた。

 まぶたが5倍ぐらい重くなってきた気がする。


 ウトウトと船を漕ぎ出すと。


「ミリア、実は聞いて欲しい話があるんだ」


 「おっ!」、私はその声で眠気が吹き飛ぶ。


 さっきまでそわそわしていたパブロが、いつになく真剣な雰囲気。

 よっぽど私に何か言いたい事があるのかもしれない。


 でも、私は自然とあくびが出てしまう。

 不安な気持ちになると反射的にでてしまう事がある。


 彼が微妙な顔をするので。

 すぐに両手で口を押さえて笑顔をつくる。


「何?」


 パブロはすぐには答えない。

 目線を下げて、数秒を間をおいてから。

 




「婚約破棄しれくないか?」




「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・」


 

 え・・・・・

 私は言葉が出なかった。 

 まさか・・・私が婚約破棄されるなんて・・・

 

 そんな事思ってもみなかった。


「大丈夫か?ミリア。聞こえてるか?起きてるか?寝てないか?」


「ええ、大丈夫。その・・・びっくりしちゃた。

 でも、なんで急にそんな事いうのかしら?」


「実は・・・愛情鑑定器を使用したんだ。

 だから・・・その・・・分かるだろ。僕達は無理だよ」


 パブロは答えをぼかしたけど。

 私は悟った。

 きっと数値が思わしくなかったんだと思う。


 でも、私は彼が勝手に鑑定器を使用した事が許せなかった。

 なぜなら。


「えっ、あれは一人では使わないって約束でしょ? 

 時が来るまで、二人で待とうって約束したでしょ」


 私はパブロと約束していた。

 数値が良かったら嬉しいけど、悪かった場合の事を考えると使えなかったから。

 「大丈夫。問題無し」って確信できてから使おうと、一緒に約束しあったのに。


 彼はその約束を破った。


「どうしても気になったんだ。

 ミリアと僕の現状が知りたかったんだ」


 彼はすまなさそうな顔をする。


「でも、どうやったの?

 あれを使うには私の一部が必要でしょ」


 そう。あの装置は鑑定する者の髪の毛や血などが必要になってくる。

 ただ名前を呟けばいいわけではない。


「悪いと思ったけど、こっそりミリアの髪の毛を使わせてもらった。

 ほら、数日前。

 僕が君の頭や耳の下を撫でていた時、君、寝ちゃっただろ。

 その時に数本髪の毛をとったんだ」


 え!あの心地よい昼に・・・そんな事を。

 確か、私は眠らないように注意していたのに。

 ついつい撫でられのが気持ちよくて、ぐーすかと眠ってしまったのだ。


 あの天国の時間に悪魔の様な事をしていたなんて・・・


「勝手に・・・ひどい!」


 彼が隠れてこそこそ動いていたと思うと、深く落胆してしまう。


「ごめんよ」


 申し訳なさそうに頭を下げる彼。

 でも私は、一つの疑問が浮かんだ。

 彼が私と婚約破棄したくなった数値とは、一体どれ程だったのか?

 

「パブロ。教えて。数値はいくらだったの?」


 彼はあからさまに目を泳がせてから。


「えっと・・・あまりよくなかったかな」


 それだけ答えた。


 彼が数値を言いたくないのが伝わってくる。

 でも、私はどうしても知りたかった。

 数値が婚約破棄の理由なら、私には知る権利があるはず。


「教えて、それぐらいいいでしょ。

 パブロ、婚約破棄したんだよ。私に」


「君が悪いわけじゃないんだよ。

 でも、知らない方が良い事もあるよ」


 彼の言葉で胸がしめつけられる。

 そんなに悪い数字だったの?私に言えない程に。


「分かってるわ。でも教えて。 

 どんな数値でも受け入れるから」



「えっと・・・」

「うん」



「その・・・」

「うん」



 パブロは私の視線を受けてか、白状するように「ふぅー」とため息をついてから。





「3%だった」





 そう告げた。


「・・・うそ!」


 え!私の愛情、低すぎ・・・


 嘘でしょ!

 だって確か、数値の目安はこんな感じだったはず。



―◇愛情度◇―――――――

  5% 昆虫

 10% 野良犬

 30% 知人

 50% 親しい人

 80% 結婚許可ライン

100% ベストパートナー☆

――――――――――――


 私の愛情って、そこいらを歩いているフリーのお犬さん以下。

 しかも飛び回ってる虫より低いなんて・・・

 ブーンブーン飛び回るハエにも劣る。


 あまりの低数値に思考が停止する。

 同じ言葉だけが頭の中でループする。



 3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%

 3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%

 3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%  3%



 お犬さん以下 虫以下 お犬さん以下 虫以下 お犬さん以下 虫以下

 ワンワン以下 虫以下  ワンワン以下 虫以下  ワンワン以下 虫以下

 お犬さん以下 虫以下  ワンワン以下 虫以下  ワンワン以下 虫以下



 ワンワン。


 ワンワン。


 ワンワン。



 犬の声が頭の中を駆け巡り、精神が揺れる。

 寂しいためか遠吠えの様な声まで聞こえる。



 ワォーン。


 ワォーン。


 ワォーン。



 魂が飛びかけている私の頭を、パブロは犬でも撫でるようにポンポンと叩く。

 「よし、よーし。良い子だ」と、呟いてもおかしくはない手つき。

 パブロは犬好きなのだ。


 おまけに私が触れられるのが好き場所。

 耳の下と顎の下を「ほらほら」といって撫でてくる。

 

 彼にそうされると元気が出てくる。

 とっても悲しいのに・・・。


「そういう事だから・・・ミリアも元気出せよ!

 3%でもきっと良い事あるさ!前向きにな!それじゃ!

 何があってもくじけるなよ!」

 

 彼は私を励まして去っていった。








 魂が抜けたように呆然としていると。

 近くで私達の会話を聞いていた者がいたのか、男子生徒の叫ぶ声が聞こえた。

 恒例の伝令生徒だ。ラッパとか似合いそう。


 「婚約破棄だー、婚約破棄だー。

  ミリア男爵令嬢が婚約破棄されたー」


 又、婚約破棄されたのか・・・

 これで今週8人目。

 ミリア男爵令嬢か・・誰かは知らないけど可哀相だな。


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」



 って、それ私じゃん!

 私の事だよ!

 そうだ、たったいまパブロに婚約破棄されたんだ!


 激しくつっこんでなんとか正気を取り戻すが。 

 いつもとは違う妙な圧力を感じて周りを見ると。



「聞いた?ミリア男爵令嬢の愛情、3%だったらしいよ」

「え?過去最低じゃん」

「よくそんな数値で婚約なんてしたわね」

「きっと、伯爵の金と爵位だけが目当てだったのでしょ。

 上手くたらしこんだわね。結局失敗だけど」


「彼女、心の中では一体何を考えているのでしょうね?」 

「そもそも、男爵令嬢のクセに、伯爵と結婚なんておこがましいのよ。

 何様だと思ってるの。いい気味だわ」

「いつも薄着で男を誘ってるとしか思えないしね」

「野蛮な遊びをして、下品に水を飲んでいますからね」

「見た目だけで、女らしさは皆無でしょうに」



 疑惑と嘲笑がこもった視線を感じると、私は泣きそうになった。

 

 そんな事ないよ。

 薄着なのは、人より基本体温が高いからだし。

 野蛮?なのは、運動が好きなだけ。

 それに水は生物にとって一番大事なの。

 喉がよく乾くだけなんだから。


 ちゃんとパブロの事は好きだし。

 いいえ、愛していたのに。

 なんで、そんな事・・・

 

 それに私の愛は絶対に虫以下じゃない。

 そうに決まってる。

 私の愛は本物なんだから!


 でもどうして・・・どうして・・・どうしてこんな事になってるの?

 おかしいよ。  

 絶対におかしい。



 私は溢れ出しそうになる涙をこらえ、走って家に帰った。










 学園から家までは結構な距離があるんだけど、気づくと家についていた。

 私は子供の頃から体力があって長距離を走るのが得意だけど。

 久しぶりにこんな距離を走った。


 家に入ると、いきなり火山が噴火したみたいにドッカーンと怒鳴られた。

 お父様は頭に血管を浮き出し、史上最高に激怒していた。


「ミリア。私の顔に泥を塗りおって!

 お前、パブロ伯爵に婚約破棄されたようだな!

 この・・・出来損ないが!」


「お、お父様・・・」


「なんのためにお前を引き取って育てたと思っておる。

 全ては政略結婚の駒として使うためなのだぞ!」


「で、ですが。お父様。

 まだ、なんとかなります。きっと、きっと」


「馬鹿を言うな!

 3%のお前が婚約などできるわけがなかろう。

 その数字を聞いたとき、どれだけ私が恥をかいたと思っておる。

 周りの貴族は皆、声を上げて笑っておったわ」


「お父様・・・お願いです。怒りをお静め下さい。

 パブロがダメでも、他の殿方であれば」


「無理だ。

 誰が虫以下の愛情しか示せない者を選ぶか!

 この出来損ないが!

 やはり娼婦の娘にまともな心などなかったか!」


「なっ・・・」


「出て行け!野良犬同然のお前を拾った私が馬鹿だった!

 今日から勘当だ!二度と顔を見せるな!」


「お、お父様・・・お願いです」


「ええい、うるさい!」


 お父様は机の上にコップを手に取ると、私目がけて投げてくる。

 反射的にヒョイっとよける。

 私は動体視力も、反射神経も人並み以上に優れているから。


 直後。


 ガシャーン。


 後ろに控えていたメイドの頭にコップが当たる。

 彼女の全身には紅茶がふりかかっていた。


 甘糖のお父様のためか、砂糖がべとべとついて気持ち悪そう。

 おでこにコップがあたってすごく痛いそう。


 お父様は、私にコップが当たらなかったためか。

 ますます怒りをあらわにする。


「出て行け!ほら、この女を連れ出せ!

 私の視界にいれるな!」


 私は紅茶まみれになったメイド達に部屋を追い出された。

 まるで罪人の様にツンケンドンな態度をとられる。

 

 メイドは、紅茶をかけられた事に対して怒っているのかもしれない。

 私ではなくお父様が投げたのに。





 自分の部屋に戻ると、荷造りをするように言われた。

 

 私が荷物を詰めていると。

 廊下を母が通り過ぎる。


「お母様!」


「あら、まだいたのですか?

 早く出て行って下さりませんか。

 金目の物を持ち出さないようにお願いしますよ」


「お母様・・・」


「私はあなたを産んではいませんよ。

 あなたの母は男に体を売る娼婦でしょう。

 一緒にしないで下さいまし」


 それだけ言うと、お母様は去っていった。

 私はメイドたちに追い立てられるように屋敷の出口へ。

 


 すると、妹のシャーロットに出会う。

 彼女は養女である私と違い、お母様の実の子だ。

 

 私はお父様の愛人が産んだ子。

 中々子供ができないお母様のために私が引き取られたのだ。

 だがその直後にお母様は妊娠し、私の立場は末席に追いやられた。


「お姉さま。聞きましたよ。

 3%なんですってね。そのような数値、初めて聞きました。

 メス犬以下の人が私のお姉様だなんて、まだ信じられません。

 すみません、お犬さんに失礼でしたね」


「あなた・・・」


「お姉さまは元々野蛮でしたからね。

 そこら中を走り周ったり、木の実を食べたり。

 まるで動物のようでしたから」


「・・・・」


「私、秘密でパブロ様との数値を計ったのですよ。 

 お姉さまの数倍高いんです。

 パブロ様とはお姉さまの代わりに私が結婚します。

 安心して出て行ってもらって結構ですよ。お姉さま」


「あなたねー!」


 気づくと歯軋りをして妹を睨んでいた。


「あら、怖い怖い。そんな顔で睨まないで下さい。お姉さま」


 気づくと私は、妹に向って飛び掛っていた。

 ガブッと首筋に噛み付くと。


「ぎゃああああああああああああああ。

 誰か、誰か!お姉さまに食べられるー!」


 涙を流しながら妹が叫ぶと、私はメイド達に拘束された。

 

 首筋に私の歯型がばっちりできた妹はメイド達につめよっている。


「これ、直るんでしょうね?ねぇ、ねぇ。

 こんな傷が殿方に見つかれば・・・誤解されてしまいますわ」


 妹は唾をつけて傷の回復を図っていたが、効果はないようだった。




 その後、私は家を追い出された。












 でも、行くところなどない。

 私はとりあえず、とある木の下に向う。

 木の根元に、もしもの時のためのお金を隠していたのだ。

 これで当分の生活は大丈夫。


 しかし私の不安は消えない。

 婚約者に捨てられ、家族からも追い出されてしまった。

 一人ぼっちの私。

 気分が下がってきたためか、耳まで垂れてきた気がする。


 

 冷たい夜風が身にしみる。

 鼻をクンクンさせると、街の一角から良い匂いがする。


 そういえばお腹減ったな。ぺこぺこ。

 喉も渇いてきたし、とりあえずご飯食べに行こう。

 お腹一杯になったら元気も出るかもしれない。 


 匂いの方向は治安がよくないって聞く場所だけど。

 もう、どうでもいいもんねー。 

 

 行ってやる。

 こうなったら危険なところにも行ってやる。


 私は一人ぼっちなんだから。

 ロンリー野良ガールとして生き抜いてやるんだから。


 私はざわざわした夜の街に向かった。







 よく知らない店で慣れないお酒を飲みぐでんぐでんに酔っ払う。

 不安な感情を消すために飲みまくる。

 飲んで飲んで飲みまくる事にした。

 

 私だって誰かに愛されるはずだし、愛せるはずだ。

 例え野良犬以下の愛情だとしても。

 それは間違いないんだから。 


 もう、誰でもいいから私を求めて欲しかった。

 人でなく、犬でもいいから。

 飼い犬でなく、フリーの犬でもいいから。


 


 夜道をフラフラ歩いていると。


 その願いが叶ったのか。

 一人の男が寄ってくる。


「おお、上玉がいるじゃねーか。

 こんなとこにいるってことは、あんた娼婦だろ。

 で、いくらだ?」


 脂ぎった髪をした、酔った男が声をかけてくる。

 普段なら相手にしないようなゴミのような男。

 でも今なら、私を求めてくれるなら誰でも良かった。


「3%です」

「あん?なんだそりゃ。どういう意味だ。

 通常料金に3%上乗せすればいいのか?」


 戸惑っている男。

 口から出る息が酒臭い。


「3%です」

「なんだ。酔っ払ってるのか?」



「3%です」

「頭がいってるらしいな。良い事教えてやるよ。

 記憶を思い出すには、そん時と同じ事すりゃーいいんだよ。

 そもそも思い出せないなら意味ないがな・・がははは」


 自分で言って自分で笑っている男。

 酒臭い息が「ふぁー」っと私の顔にかけられる。

 鼻が曲がるほど臭い・・・


「・・・」 


「まぁいいや。ほら、こっちにこいや。

 3%でも、倍の6%でもかまわねー」

「きゃっ。離して」


 バシッっと男を突き飛ばすと。


「おいおい譲ちゃん。いてーじゃねーか。

 俺はよー、血を見るのが大好きなんだけど、付き合ってくれるのかな?」



 男が懐からナイフを取り出す。

 私を命の危険を感じてその場を離れようとするが。

 酔っていたため、足元がふらつき、柱に頭をぶつけてしまう。

 

 体が倒れながら、意識が薄れていった。













 意識を取り戻すと・・・背中に暖かい感触。

 振り返ってみると。


「ミリア。君は何をやってるんだ!」

「ぱ、パブロ・・・」


 寝起きで怒鳴れ、頭に響く声。

 でもその分すぐに状況を確認できた。


 私はベッドに寝ており、パブロはベッドに腰掛けていた。

 暖かい感触はパブロだったようだ。


「ミリア。もっと自分を大切にするんだ」

「なんであなたが・・・それにここは?」


 私が辺りを確認すると、見覚えのある部屋だった。


「僕の屋敷に君を連れてきたんだ。

 野蛮な男に襲われそうになっていたからね」


 そういえば、確か私は酔っ払って・・・

 ナイフを持った男がいて・・・


「ミリア、ミリア、聞いているのか?

 私を心配させないで欲しい。

 なんて愚かな行動をとったんだ。君って人は」


 私はその言葉にカチンと来た。

 そもそも、私がこんな目に会ったのはパブロのせいだ。

 彼のせいで家を追い出されたのだから。

 

 なのに・・・なんていいぐさ!


「ほっといてください!

 元はといえば、あなたが婚約破棄するから。

 あなたが・・・あなたが私の全てを奪ったんです」


「違う。誤解するな。僕はミリアを・・・」

「聞きたくありません!」


「ミリア、聞いてくれ」

「聞きたくありません!」


「ミリア・・・」

「私はどうせ3%の女なのです。

 野良犬さんとでも話したらどうですか?

 彼女は10%なのでしょう」


 私はプイッと顔を背ける。

 今は彼の顔を見たくありません。


「ふふふ、ははは、ふはああああああ。

 野良犬か・・・そういえばミリアは犬が好きだったな」


 んん?


 彼が不気味に笑ったかと思うと、私の後頭部にわさわさした毛並みの感触が。 

 首には小さなふさふさの感触。

 

 ぎゃああああああ。

 何?何?

 何なわけ?このモフモフは?


 何かふさふさして暖かいものが頭に載せられた。

 げっ、「はぁー、はぁー」って生暖かい息までする。

 私の前髪がヒューヒュー動いてる。


「な、何をしたの?」

「ミリア、犬だ!」


「?」


 両手を頭の上にのっけると、気持ちの良い毛並み。

 なるほど。

 確かに犬だ。


「ワンワン!ワンワン!」


 頭の上から犬の鳴き声。


 え?私の頭の上に犬?

 犬が私の頭に抱きついて、わちゃわちゃ吼えてる。


 よく見ると首元にはプニプニの肉球が見えるし。

 何故かポリポリと肉球で私の首筋撫でている。

 

 肉球から爪とか出てきたら私の首の血管が切れちゃうかも。

 私、ピーンチ。

 あれ?でも爪が出るのってネコだっけ。 


「ワンワン!ワンワン!」


 元気な鳴き声だけど、とってもうるさい。

 頭の上で叫ばれると耳に響いてガンガンする。

 昨日お酒飲んで二日酔いなのに・・・


「パブロ。何するの?頭の犬とってよ」

「知ってるだろ。僕は犬を飼うのが趣味で生きがいなんだ。

 この子の名前はポチだ」


 犬の名前なんてどうでもいい。

 犬がわちゃわちゃ頭の上で暴れて髪が乱れる。

 

 ぎゃああああ!犬の唾液が額に垂れてきた。

 なんとかしてよ、もう。お願いだから。


「ミリア、よく聞け。少しは落ち着いたか?」

「いきなり頭の上に犬を乗っけられて落ち着くわけないでしょ」


「そうだな。ポチも腹がへっているようだ。

 ほーら、ポチ、こっちにえさあるぞ。

 ほら、とりにいけー!」


 何かを投げる音がすると、ポチが私の頭を踏み台にして飛んでいった。

 その際に、ポチの踏み込んだ前足が私の目にめり込みそうになった。

 でもなんとか目を閉じて防御成功。


 危なかったー。

 セーフ。

 失明しちゃうところだった。

 

 視界の隅では、楽しそうにボールのような何かを追っているポチ。

 しっぽが盛大に揺れている。

 ちょっと楽しそうだ。


 でも、なんだか頭がチリチリする。

 私の頭にお犬さんの毛がたくさんついたためか・・・

 じわじわかゆい。


「ミリア、ポチには感謝しろよ。

 君の命を救ってくれたのはポチなんだから」

「え?」


「あいつが君の匂いを辿って見つけなかったら、今頃君は死んでいたよ。

 相手の男は連続殺人鬼だったからね」

「・・・」


 私は言葉が出なかった。

 まさか、そんな危険な事になっていたなんて。

 確かにあの男はナイフを持って、記憶がどうこう言っていたけど・・・


 しっぽを愉快にふっているポチを見る目が変わる。

 私を助けてくれた小さな英雄だ。


「それとミリア、よく話を聞いて欲しい」

「何?」


 私はお犬さんの毛を頭から払いながら、パブロの話を適当に聞く。





「君の元家族は、直に牢獄行きだ!」






「え?」


 思わず犬毛を取る指を止めてしまう。


 パブロ、今なんていった? 

 私の家族が牢獄ってどういうこと?


「彼らはこれまでの不正がばれたんだよ。

 騎士団が明日にでも突っ込んで終わりさ。

 その前に、僕は君をあの家族から救いたかったんだ」


「え、ちょっと待って、どういう事?」


「全部君のためにやったんだ。

 あの家族から君を勘当されたかったんだ。そのために婚約破棄したんだ」


「え、え、え、ええええ!」


「こうでもしないと、あの家から離すのは難しいと思っていたんだ」


「そんな、え、え」


 頭が混乱して彼が何をいっているのか理解できない。

 彼が婚約破棄したのは、愛情器の数値が悪かったからじゃないの?


「僕は君を愛しているし、救いたかったんだ」


「でも、愛情器では3%なのに・・・」


「いいや、あれは嘘だよ。君と僕の数値じゃない」


「え?」


 じゃあ、私はお犬さん以下でも虫以下でもないの。

 3%は嘘なんだ。

 あーよかった。すっきり。


「よく考えてみてくれ。

 僕と君の愛情が犬以下、虫以下なんてあるわけないだろ」


「・・・・」


 そうですよねー(汗汗)


「3%は君と家族の間に出た数値だ。

 愛情鑑定器は何も恋人だけを計るものじゃないんだ。

 その値を見て、僕は一刻も早く君を救おうと決心した」


「パブロ・・・」


 私を助けてくれたんだ。

 嬉しい。


「ほら、ミリア」

「?」


 パブロは私の手を取ると、『龍の庇護』(愛情鑑定器)に導く。


「一緒に計測してみよう。今がその時だよ。

 僕達の愛情を確かめようじゃないか」


「ええ」


 彼の手と私の手が重ねられる。

 すると。






『―――100%―――』







 機器の表面に数字が表示される。



「ほら、僕達はベストパートナーさ。愛しているよ」


「ワンワン」


 後ろでポチが尻尾を振りながらも。

 私のふくらはぎを、わちゃわちゃ犬パンチしていた。


 プニプニ感触が心地よかった。










 次の日。 

 パブロの言うとおり、私の元家族は捕らえれ牢獄に繋がれた。

 なんでも人身売買、麻薬販売など複数の悪事に手を染めていたようだ。

 本当に危機一髪だったみたい。



 その後、私はパブロと結婚しました。

 ポチも一緒に生活しています。

 

 因みに、ポチ(メス)とパブロの相性をこそっと愛情鑑定器で測定すると。

 なんと90%だった。

 私は身近なライバルにちょっと焦った。


 









 でも、ある日私は思い出した。

 ポチに腕を噛まれて思い出したのだ。


 私は前世ポチだったと。

 あの夜、ナイフ男に襲われそうになった自分を救ったのだ。

 思えば、私には犬の特徴が前世から引き継がれているようだった。



 ・高い基礎体温

 ・常人離れした体力に嗅覚

 ・動くものを捕らえる動体視力

 ・強靭な歯と水への欲求、などなど



 思い出すだけ、犬の特徴がたくさんあった。


 

 



 二週目で私は人としてパブロと結ばれた。



 ワンワン。


 幸せだワン。

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連載始めました。よろしくお願いします。↓
ビューティフルざまぁ~公爵令嬢、悪役令嬢への道を歩む~
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがツボりました。 愛情測定器と婚約破棄を結びつけるのが新鮮でした。 [一言] 下の方も言ってるようにコメディジャンルの方が作品に合っている気がします。
[良い点] す、すごい、 強引設定詰め込み過ぎのハイパーご都合主義! 大笑いさせて頂きました。 [気になる点] ツッコミが追いつかない。
[一言] 測定器設定は面白かったです。 ただ、婚約者の魅力が全くわかりませんでした。 恋愛ジャンルとして読むともやもやする部分が多いので、コメディジャンルの方が良かったかもしれません。
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