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十円玉おじさん

作者: 馬郡 一

<一>


 宝崎市立南小学校の校門から三分ほど南に歩くと、ホームレスのおっさん五人ばかりが棲み処にしている公園だか広場だか判然としないスペースがある。地図を見ると一応公園ということになっているが、遊具の類は一切なく、草がやたらに生い茂っている中に臭いが酷い公衆トイレと、ベンチがいくつか置いてあるだけであり、そのベンチもホームレスが占拠しているから、普通の人間は結局近づくこともない場所だった。

 おれが南小学校に通っていた頃、その公園に十円玉おじさんとあだ名されたホームレスがいた。あだ名の由来なんて単純なもので、児童が登校する頃合になると、「十円玉募金」と大きく書いたティッシュ箱を持って、校門から少し離れたところに立っていたからだ。十円玉おじさんの箱に十円玉を入れてやると、キレッキレの変てこな踊りを踊ってくれるので、おれたちは面白がって十円玉を放りこんでいた。ただ、十円玉以外は頑として受け取らず、おれがたまたま小遣いに余裕があったときに百円玉を放り込んだときは無言で突き返され、それでもおれが渡そうとすると、首根っこを掴まれて無理矢理ポケットに百円玉を突っ込まれた。十円玉おじさんは身なりこそ汚らしかったが、おれたちはそんな十円玉おじさんが好きだった。

 ただ、やっぱりそういう存在は大人たちにとっては好ましくなかったようで、いつだったかPTAの連中が会議をして、交代で校門前に見張りを立てるようになった。十円玉おじさんはそれ以来校門近くに姿は現さなくなってしまった。

 公園のあたりではたまに見かけて、そういうときは十円玉を渡して踊ってもらったものだが、中学に上がるともう公園のほうに行くことはなくなり、おれたちは十円玉おじさんのことをいつの間にか忘れていった。


<二>


 リストラの波に呑まれ、晴れて無職となったおれは東京のアパートを引き払い、宝崎の実家に戻ってきた。オヤジが金属加工か何かの町工場の社長をしていたので、オヤジの会社に世話になろうかとも思ったが、景気が悪いのはどこも変わりないようで、クビになったので実家に帰る旨を電話で報告すると「すまんけど、お前を雇う余裕はないぞ」と先手を打たれてしまった。

 ハローワークへ行けば求人そのものは沢山あったが、大した資格も持っていない上に肉体労働や単純作業を嫌い、しかも三十路をとうとう超えてしまったおれを受け入れてくれる職場は皆無だった。大学を出てサラリーマンでいられた何年かのうちに作った僅かな貯金と雀の涙ほどの退職金を家賃代わりに実家に少しずつ渡しながら、おれはハローワークに行くだけで何の生産性もない日々を過ごしていた。

 酒だけは一丁前に飲むが、タバコはやらない。女も金を払ってまで相手してほしいと思わないし、縁もない。パチンコもやらなければ、競馬、競艇などといったギャンブルの類も一切やらず、趣味と呼べるものは全くと言っていいほどにない。

 おれは仕事という枷を取っ払われてしまって、目の前にある膨大な時間にただただ困惑していた。家では寝転んでテレビを見ているか、そうでなければ酒を飲んでいた。自堕落もいいところだ。


 そんなある日、おれは母親にちょっとした使いを頼まれて、原付で少し離れたホームセンターに行くことになった。まあ使いと言っても大したことはなく、朝刊のチラシを見たらトイレットペーパーが安かったので買ってきてくれと、ただそれだけのことだった。それを買った帰り、別に近道というわけでもないのに、なぜだか引き寄せられるように、例の公園の横を通った。公園はいつの間にかすっかり綺麗になっていたが、相変わらずホームレスが何人か棲み処にしていた。そのうちの一人にふと目が留まって、おれは思わず原付を止めた。

 いたのだ。十円玉おじさんが。髪はすっかり白髪になって、ヒゲももじゃもじゃになっていたので最初はわからなかったが、2、3人の子供がホームレスのおっさんの前でケラケラと笑っているので、何かと思ってよくよく見てみると、あの時と同じ変てこな踊りを踊っていたのだ。おれは懐かしくなったので、公園の横に原付を止めて、十円玉おじさんに歩み寄った。もちろん、手には十円玉を握りしめて。

 やっぱり十円玉募金と書いたティッシュ箱が置いてあったので、十円玉をチャリンと入れてやると、十円玉おじさんと子供たちは目を十円玉みたいにまん丸にして物珍しそうな顔でおれを見た。

「にいちゃん、なんや、暇なんか」

 おれは初めて十円玉おじさんの声を聞いた。酒焼けのした、ハスキーボイスと言えばちょっと格好がよすぎるが、いい具合にしゃがれた、どこかにほのかな寂しさと優しさを感じるような、そんな声だった。

「おっちゃん、昔小学校のとこ来てたやろ。あの頃ガキであの学校通ってたんや。おっちゃん見たら、なんか懐かしなってな」

 十円玉おじさんは、それを聞いてにまぁっと笑った。

「ほうか、ほんだら、踊ったろか」

 十円玉おじさんはあの頃より少しキレの悪い、変てこな踊りを踊った。子供たちはまたケラケラと笑い出した。おれも声こそ出さなかったが、十円玉おじさんの動きがあんまりに面白いので思わず笑ってしまった。

「おっちゃん、昔も思ってたけど、その踊りはなんなん?」

「これか、この、踊りはな、ワシの、おりじなる、や」

 十円玉おじさんは踊りながら、誇らしげに言った。

「おりじなる、かいな」

「そうや、誰にも、教えたらへんぞ」

「いや、別に教えてほしくはないけど」

「さ、さよか」 

 しばらく十円玉おじさんの踊りを見て、おれは「ほなまた来るわ」と言って立ち去った。子供たちはまだ笑っていた。


 それから時々、ハローワークの帰りに公園の横を通るようになった、十円玉おじさんが子供の相手をして踊っているときだけ、おれはその後ろから十円玉を投げた。いつしか顔を覚えられたのか、おれの顔を認めると十円玉おじさんはにまぁっと笑うのだった。


<三>


 このあたりでは何十年か振りという大雪が降った。交通は全て麻痺して、都市としての機能も完全に停止するような異常気象だった。

 おれはというと、とうとう貯金も尽きて、ついに観念して工場で決められた場所に部品をハンダ付けするだけの単純な仕事を始めていた。ベルトコンベアに乗って流れてくる基盤の一箇所に小さな部品をハンダ付けして、次の人に流すという、本当にただ1個の歯車になりきるだけの仕事だった。もう勤め始めて一月ほどになるが初日から既に嫌になっていて、とりあえず最初の給料だけは貰ってすぐに辞めようかな、ぐらいに軽く考えていた。次に仕事が見つかる保証もないのだけれど。

 その仕事も、大雪の煽りを受けて休みになった。通勤の電車も動かなければ、工場に部品を運んでくるトラックも一向に着かないのだから、休みにするより仕方がなかった。


 おれは突然訪れた暇に任せて、酒屋の自動販売機で日本酒のワンカップを2本買って、雪の中をあの公園に向かって歩いていた。原付で走っているときはあまり気にならなかったが、おれが小学校を卒業してからの20年ほどで、当時の通学路はすっかり様変わりしていた。どこの会社のものだったか忘れたが、大きな社宅があったはずの場所には一戸建てが数件並んでいたし、耳の遠い婆さんがやっていた駄菓子屋だった場所はコンビニになっていた。それから、よく友達とサッカーをしていただだっ広い空き地だったところには大手のスーパーができていた。そういえば、実家に戻ってから昔の友達には誰とも会っていない。皆地元を離れて、それぞれの人生を今は歩んでいるのだろう。

 公園に着くと、ホームレスたちの姿は見えなかった。雪の重みのせいか、段ボールとブルーシートでこしらえてある邸宅は、どれも無惨な姿になっていた。ホームレスたちはたぶん、駅の地下道かどこかに避難しているのだろう。おれはなんとなく残念な気持ちになった。ベンチの雪を手でどけて、雪の被害を免れた段ボールを1枚拝借して、それを座布団代わりにベンチに腰かけてワンカップの封を開けた。

 寒さですっかり日本酒は『冷や』になっていたが、一口飲むと胃袋の中でぽっと火が灯った。雪はいつの間にか止んでいた。


「にいちゃん、ええもん、飲んでるな」

 聞き覚えのあるしゃがれ声に驚いて目を向けると、十円玉おじさんが公園の入り口に立っていた。

「なんや、おっちゃん。どこ行ってたん?」

「ワシか。ワシはな、このジャンバー取りに行ってたんや」

 十円玉おじさんは自慢げにふかふかのダウンジャケットを手でぱたぱたさせた。

「なんやそれ、結構ええやつちゃうんか。おっちゃんホームレスちゃうかったん?」

「いやあ、ワシはりっぱなホームレスやぞ」

「ホームレスは立派ちゃうやろ」

「それもそうやな。ほんだら、ふつうの、ホームレスや」

 十円玉おじさんはカッカと笑った。おれもつられて笑ってしまった。十円玉おじさんはおれの隣に同じように段ボールを敷いて座り、遠くに見える山を指さした。

「あすこの、かぶと山、あるやろ」

「かぶと山?ああ、あそこな。かぶと山がどうしたん」

「あすこに、業者が、ゴミ捨てにくるとこが、あるんや。そこ行ったらな、たいがいのもん、あるんや」

「え?あんなとこまで歩いて行ってたんかいな、こっから5、6キロはあるで」

「せやけど、この、雪やで。これなかったら、こごえて、死んでまうがな」

「そらそうやけど…そや、おっちゃん、飲むか?」

 おれは元々そうするつもりだったもう1本のワンカップを十円玉おじさんに渡そうとした。十円玉おじさんは、手で断った。

「いや、ワシは、人からは十円玉以外、受け取らんしゅ、主義なんや」

「美味いで、まあ飲みなはれや」

 無理矢理渡そうとしたが、あの時と同じように、やはり頑として断られた。

「いーや、ワシは、貰った十円玉で、買いにいくのは、ええけど、それは、貰わん!」

 十円玉おじさんは子供のようにツンと横を向いてしまった。

「変なポリシーやな、ほんなら、十円で売ったるわ」

 おれは半分冗談で言ったつもりだったのだが、それを聞いて十円玉おじさんはにまぁっと笑った。

「へへへ、そう言うのを、実は、ねろとったんや」

「せこっ!」

 おれは十円玉おじさんが差し出した十円玉と引き換えにワンカップを渡した。受け取った十円玉は、偶然にもおれの生まれ年のものだった。

「おっちゃんこの十円玉、おれが生まれたときのやつやな」

「ほうか、何年なっとる?」

「昭和55年やな」

「昭和55年、いうたら、ワシ、まだ働いとったな。ホームレス、ちゃうかったな」

「そうなん。おっちゃん何の仕事してたん?」

「なんやったか、こ、工場でな、なんやったかの機械の部品に、ハンダつけるだけの、し、仕事やっとったな」

 おれは口に含んでいた日本酒をプッと吹き出してしまった。

「おれも今、それやってんねん」

「すぐ、あ、飽きてまうやろ、あんな仕事」

「うん…正直辞めようかなと思ってる」

「せやけど、だ、誰かがやらんと、あかんのやろ。じ、時代は進んだかもしらんけど、結局全部は機械では、でけへんのやしな」

「その、やらんとあかん誰かっていうのは、おれのことじゃないとずっと思ってたんや」

「そら、ワシも同じこと、思てたよ。ハンダ付けながら、なんでこないなこと、せんならんのやて、毎日毎日思とったで。でも、ほ、他の仕事なんか、なぁんにも向いてなかったから、そうせんと、しゃあなかったんや」

 おれにはそれに返す言葉は何一つ見つからなかった。


 十円玉おじさんもワンカップをパカッと開けて、一口飲んだ。

「ああ美味いな、久々や、酒、飲むのん」

「そら良かった。じっくり味わって飲んでちょうだい」

「うん、美味い。あ、そうや」

 十円玉おじさんが日本酒を脇に置いて、急に立ち上がった。

「なんやおっちゃん、トイレか?」

「ちゃう、昔の話したら、ちょっと久しぶりにやりたなってな」

「今は踊らんでええで」

「ちゃう、ちゅうねん。ちょっとな、ま、待っとって」

 十円玉おじさんは公衆トイレの裏にある、潰れてしまった段ボール小屋の中から草やら雪やらをかき分けて、何やら手作りらしい大きな木箱を開けてゴソゴソとしている。そしておれの方を向いて、にまぁっと笑った。

 十円玉おじさんが取り出したのは、随分年季の入ったフォークギターだった。

「何やそれ、ギターやん。おっちゃんのやつ?」

「せや、安もんやけどな、自分で、ちゃんと働いて、か、稼いだゼニでこうた、最後のもんや」

 十円玉おじさんは愛おしそうにギターを撫でた。

「最近、げ、弦も替えてないし、チューナーもないさけぇ耳でちゅ、ちゅーにんぐやってるから、音、変かもわからんけど」

 そう言って十円玉おじさんはピックを握って、ギターを弾き始めた。おれは音楽は素人だが、かなりの腕前であることは容易にわかった。

「おっちゃん、めっちゃ上手いやん!踊るよりギター弾いた方が儲かるんちゃうか」

「ワシ、ホームレスやし、こ、乞食も、やっとうけど、ぎ、ギターで物乞いは、しとうないんや。ワシの、最後の、ぷらいど、ちゅうかな」

「おっちゃん、ミュージシャンでも目指してたん?」

「せや、もうハンダ付けなんか嫌や、や、辞めたろ、思て、最後の、きゅ、給料もろて、それでギター、こうて、家も、飛び出してな。ほんで、け、結局、こないなってもうたけど。ま、ちょっと、一曲、酒の礼と思って、聴いてや」

「うん、聴かせて」

 十円玉おじさんはピックをしまって、素手でギターを鳴らし始めた。どこかで聴き覚えのあるような短いイントロの後、しゃがれた声がいい味を出して、十円玉おじさんが歌いはじめた。


"Blackbird singing in the dead of night

Take these broken wings and learn to fly

All your life

You were only waiting for this moment to arise"


 普段のどもり気味な喋り口からは想像もできないほど流暢な英語で、十円玉おじさんは歌った。けれど、間奏を弾いている途中で、ギターを弾くのを止めてしまった。おれは思わず拍手をしていた。

「すごいな、メチャクチャ上手やん。英語もできたんか、おっちゃん」

 十円玉おじさんは悲しそうな顔でこっちを向いて、

「弦、切れてもうた…」

 と呟いた。それから一言、聞こえたか聞こえなかったかぐらいの小さな声で、

「これで最後にしよか…」

 と言った。

「え?なんて?」

 とおれは聞いた。返事はなかった。


 弦の切れたギターを元の場所にしまった十円玉おじさんは日本酒をぐいっと飲み干すと、公園に設えてあるゴミ箱にビンを放り投げた。ビンは見事にゴミ箱に入った。

「にいちゃん、ありがとうな、ワシ、この雪やけ、きょ、今日は駅のほう、行くわ」

「おっちゃんもありがとう、ええもん聴かせてもろたわ」

 十円玉おじさんは少し寂しそうな顔で笑って、駅の方角へ歩いていった。おれも日本酒を飲み干して、ビンをゴミ箱に向かって投げた。ビンはゴミ箱の縁で跳ね返り、地面に落ちて割れてしまった。


<四>


 結局踏ん切りがつかず、工場の仕事を辞められないままズルズルと何ヶ月か経ったある日曜日、おれはふと、本当にふと、十円玉おじさんに会いたくなって家を出た。

 手土産にと、隣町にある楽器店に原付で行ってギターの弦を買うことにした。ギターの弦と一口で言ってもやたらと種類が豊富で、どれを買えばいいのかわからなかったので、店員に

「ビートルズのカバーをやりたいんですけど、弦はどれがいいですかね?」

 と通ぶって聞いてみたところ、やれギターの種類は、エレキかアコースティックか、メーカーは等と細かく聞かれてしまったので、

「いや、入門用の安いやつです。フォークギターの」

 と小声で言った。店員は赤いパッケージの弦を持ってきてくれた。

「ビートルズだったら曲にもよると思いますけど、軽めのがいいと思うんで、これで大丈夫だと思いますよ、試しに弾いてみます?」

「ああいや、それでいいです」

 ギターの弦にこんなに種類があるなんてことすら店に入るまで知らなかったおれが試し弾きなんてとんでもない。これ以上恥をかく前に、店員が薦めてくれたものを素直に買った。もうちょっと高いものだと思っていたが、千円でお釣りが来る程度のものだった。十円玉おじさんでもちょっと貯めれば買えるぐらいの値段だなと思ったが、そういえば十円玉おじさんだって、まさか例の十円玉募金だけで生計を立てている訳ではないだろう。アルミ缶を集めればそこそこの値で買ってくれると聞いたこともあるし、ホームレスなりにやりくりはしているはずで、そう考えるともう新しい弦を張っているかもしれないなと、ぼんやり思った。


 公園に向かう途中、おれはずっとあの曲を鼻歌で歌っていた。あれからおれはすぐ十円玉おじさんが歌ってくれた歌を検索した。そしてそれが、ビートルズの『ブラックバード』であることがわかり、それからスマホに『ブラックバード』をダウンロードしてずっと聴いていた。十円玉おじさんがあの時、数あるであろうレパートリーの中から『ブラックバード』を選んでくれたのは、おれへの応援歌の意味だったんじゃないかという気がしている。歌詞にはいろいろと深い意味が込められているらしいのだが英語に疎いおれには正直よくわからず、インターネットでかじった情報によれば、かいつまんで言うと、とにかく何かやってみろよ、飛び立ってみろよ、というものらしい。とはいえその応援には、未だ応えられていないのだが。


 やたらと赤信号に捕まってしまったが、15分ばかり走ると公園が見えてきた。

 ところが公園には白いフェンスが張られていて、中に入ることができなくなっていた。工事の看板が出ていて、どうやら何か老人ホームのような施設が建つらしかった。ホームレスたちはどこへ行ってしまったのだろう。ここへ来れば会えると思っていたので、アテが外れてしまった気になった。そうなると、なんとなく会いたくなっただけのはずだったのが、無性に十円玉おじさんに会いたくなってしまった。

 しかしホームレスがいそうな駅の地下道、橋の下、宝崎中の公園という公園をしらみつぶしに探してみたが、ついに十円玉おじさんに会うことはできなかった。諦めて家に帰る頃には、もうすっかり暗くなっていた。 


 ベッドで横になりながら、おれは小さい頃何になりたかったか考えていた。

 幼稚園の頃まで記憶を遡れば、おれは飛行機のパイロットになりたいと言っていたと思う。ただなんとなく、かっこいい職業というイメージでそう言っていたような覚えがある。けれど、もうちょっと具体的に将来のことを考え始める頃には、変に大人びたところがある子供だったおれはもう、とりあえずそこそこの大学に入って、そこそこの会社に入るところまで人生を決めつけていたかもしれない。

 実際、そこそこの大学に入って、クビになったとはいえそこそこの会社に入ることはできた。ただ、そこがもう、おれにとっては人生のゴール地点だったのだろう。

 おれが極端に無趣味なのも、そういう性格を引きずっているからだろう。本当はもっといろんなことができたはずだった。もっといろんなことをしていればよかった。いや、やろうと思えば今からでもできるのだろう。おれはやろうとしていないだけだ。おれはただ諾々と、長いものに巻かれていたいだけなのだ。十円玉おじさんは、そこから飛び立った。ブラックバードのように。結果的に今はホームレスになって変てこな踊りを踊っているけれど、彼の人生は羨ましくもあった。


 おれも何かしよう。手遅れにならないうちに、人生に彩りを添えるために。でも何をしよう。

 考えにならない考えが浮かんでは消え、消えては浮かびしているうちにおれはいつの間にか眠ってしまった。


<五>


 何かしよう、何かしようと思い始めたはいいものの、その何かというのはやっぱり、キッカケがないと中々見つからないものだなと思う。

 おれはすっかりハンダ付けの仕事に慣れてしまい、作業中は脳が思考を拒否する程度には機械的になっていた。休憩時間、先輩はそんなおれを見て「君もついにこの領域まで来たなぁ」と満足そうに言っていたが、全然ありがたくはなかった。

 終業後、普段は挨拶程度しか交わさない事務員のおばさんに突然呼び止められて

「次の日曜日、宝崎の駅前広場でフリーマーケットあるんやけど、うちらも店出すんよ。よかったら来てね~!」

 と言われた。

 別に用事も予定も当たり前のように無かったので、二つ返事で承諾した。しかしフリーマーケットと言っても無趣味なおれには別に欲しいものもなかったし、いくら洗濯しているとはいえ、他人が長く着た後の服に袖を通すのはなんとなく気が引けたので古着というものにも興味はなかった。まあ、暇つぶしぐらいにはなるだろうといった程度のものだ。


 いざ日曜日、駅前へ行ってみると、思っていたよりも大規模なフリーマーケットが開催されていた。駅前広場はテントでいっぱいになっていて、ガラガラの抽選会やら、売れない芸人の漫才やらが行われていた。

 駅前広場からエスカレーターで上がったところにある空中公園には、ブルーシートを敷いた模擬店が所狭しと並んでいた。おれはとりあえず、職場のおばさんに挨拶しに行くことにした。おばさんはすぐに見つかった。おばさん達は手作りのアクセサリーやぬいぐるみ等の雑貨を売っていた、手にとってみると結構出来がよく、意外な手先の器用さに感心した。誘ってくれたおばさんとは軽く挨拶して天気の話なんかをしただけで、付き合いと思ってビーズで作られた携帯のストラップだけ買って、おれはすぐにおばさんの店を後にした。

 ぶらぶらと見回っていると、案外いろんなものが売ってあるなと思った。何に使うのかわからないようなマニアックな工具や、昨日までホコリまみれだったことが明らかな百科事典、動くのか疑わしいほど錆びてしまったオモチャ、どうやって着るのかわからないほどビロンビロンに伸びてしまったTシャツなんてものまであった、あれはさすがに雑巾になって捨てられるのが関の山だ。まあなんでも売ればいいというものではないのだろうけど、ここはそういう場所なんだろう。ぐるりと空中公園を回り終えると、結構時間が経っていた。けれど正直なところ、思ったよりも時間を潰せて良かったな、ぐらいの感想しかなかった。


 目ぼしいものもやはりというか結局なかったことだし、さて帰るかとエスカレーターを降りようとしたとき、この空中公園の中ではあまり目立たない一角にあった骨董品を扱っているような店が目に付いた。別にツボや絵画に興味があるわけではない。スペースの隅の隅、売っているのかどうか疑わしいほど控えめな位置に、弦が1本切れているボロっちいフォークギターが置いてあったのだ。それは間違いなく、十円玉おじさんのギターだった。おれは店に駆け寄ってすぐ店主に聞いた。

「すいません、このギターなんですけど…売ってるんですか?」

「ああ、一応売り物やけど、こんなボロじゃ誰も買わへんから、隅っこに置いてあるんよ」

「いや、もしかしたら僕の知り合いが持ってたギターかなと思って」

「そうなん?これな、汚い身なりのホームレスのおっさんが売りに来たんやけど、こんなボロじゃ値段なんかつけられへんて断ったんよ。せやけどもう使わんから、千円でええから買うてくれとしつこく言われてね。千円でも図々しいぐらいやけど、まああしらって追い返すのも面倒やし、このフリーマーケットで捌けたらええかなと思って千円で買い取ったんよ。キミ、これ欲しいの?どうせ置いてても売れそうにないし、千円でええよ」

 そう言われた瞬間、もうおれは千円札を財布から出して店主に渡し、ひったくるようにギターを持ち去った。切れた弦はあの日のままだった。ギターはもう使わないということは、おれは十円玉おじさんの最後の歌を聴いたことになる。このギターはおれが持つべきだ、と思った。何だかよくわからないが、何か確信めいたものをおれは感じていた。


 帰ってからおれはすぐ自室にこもり、インターネットで初心者のためのギター講座のようなサイトを見てみたが、イマイチ理解できなかった。なのでとりあえずギターを綺麗にしようと思ったが、サイトを見て存在を知ったオイルやワックスといったものが今手元にあるはずもなく、そういえば十円玉おじさんに渡そうと思って買った弦があったなと思い弦を張り替えようとしたがそれもよくわからず、明日の仕事帰りに楽器店に寄ってあれこれ聞いて揃えようということにして、とりあえずギターは部屋の隅に置いた。

 部屋の明かりに照らされたギターはよく見ると思ったほどボロではなく、確かに経年劣化のようなものがあったり、所々傷ついていたり、塗装が剥げていたりはしていたが、全体的に程よい光沢を保っていて、金属部品の大きなサビなどもなく、おれはいい買い物をしたなと思った。それから、十円玉おじさんはけっこうこのギターを大事にしていたのだなと思い、なんだか嬉しくなったと同時に、あのしゃがれた声を思い出して少し寂しくなった。なんでギターを辞めてしまったのだろう、今、どこで何をしているのだろう。この宝崎のどこかで、十円玉募金をして、やっぱり変てこな踊りを踊っているのだろうか、おれは十円玉おじさんのことが気になって仕方がなかった。


<六>


 腹積もりの通り、仕事帰りに楽器店へ寄った。とりあえず買うものをメモしておいたので、備え付けの小さなカゴにその通りに入れていくと、

「ギターですか?もし、店に持ってきてもらえたら、うちでメンテナンスとかもできますけど」

 客もおらず暇だったのか、店員らしき男性が話しかけてきた。この前の店員とは違う人で、ヒゲ面に短く刈り上げた髪が印象的で、優しい感じの笑顔をする人だった。名札を見ると店長と書いてあった。十円玉おじさんがいくら大事に取り扱っていただろうとはいえ、とりあえず1回ちゃんとメンテナンスしてもらうのもいいかもしれないと思って、おれは一旦家に帰ってギターを持ってくる旨を伝えた。もうそれなりに長く勤めてしまった今の仕事のおかげで、多少貯金もできていたので、この際ある程度までなら金に糸目はつけないつもりになった。ボロっちい安もんのギターでも、おれにとってはとても大切なもののような気がしていたからだ。


 一旦家に帰ってギターを手に取り、再び出て行く前にオヤジに声を掛けられた。

「何やお前、ギターなんか始めたんか」

「うん、ちょっとな。なんもないのも寂しいかなと思って」

「よかったら教えたるぞ、おれも昔、ちょっとやってたから」

「マジで?」

「おう。簡単なコードぐらいはまだ、できると思う」

「ちょっと楽器店行ってくるから、帰ったらまた教えて」

 オヤジがギターをやっていたとは意外だったが、身近なところにコーチができてよかったなと思った。正直こういうものは、教則本なんかを買って独学でやろうとしても、実際にやって見せてくれる人がいるのといないのとでは大違いだと思う。

 原付の足元に乗っけて行くのはなんだか気が引けたので、オヤジの車を借りた。ラジオをつけると、奇しくもビートルズの曲が流れていた。残念ながら『ブラックバード』ではなかったが、有名な曲なのだろう、名前はパッと出てこなかったが、聴いたことのある曲だった。


 楽器店に着くと、相変わらず人のいない店内で店長がギターを弾いていた。こちらに気付くと、手を止めて歩み寄ってきた。

「やっぱり上手ですね」

 偽らざるおれの感想を伝えた。店長はいやいやまだまだです、と謙遜した。

「ギターは最近始められたんですか?」

「いや、実はまだ触ってもなくて、これ、安もんらしいですけど、知り合いに譲ってもらって…」

 事実とは異なるが、そういうことにしておこうと思った。嘘も方便というし。

「確かにこれは……ちょっと見せてもらいますね」

 店長はギターを受け取ると、カウンターの裏に持って行って、椅子に座って各部分をチェックしていた。

「あの、ちょっとこれ、結構いいギターですよ」

「え?」

「マーチンっていうメーカーの、これだいぶ古いですけど、当時の値段でも30万以上したと思いますよ」

「え?さ、30万!?」

 十円玉おじさんの話から推察するに、ギターを買ったのは昭和の終わりごろだろう。当時で30万と言うと、結構な金額だったろうと思う。

「ええ、でもメーカーのロゴとか、なんでか削り取られてますね。もったいないなあ。かなり傷んでるところもあるし、応急処置でも1週間ぐらい預けてもらったほうがいいですね、ちゃんとやっときますし。もし完璧に修理しようと思うなら、3ヶ月ぐらいかかるかもしれないですけど」

 おれはもう呆気にとられてしまっていた。どこが安もんなものか。大体あの骨董店の店主も目がないなと思った。けれど、最終的に千円でおれの手に渡ってきたのは、十円玉おじさんとおれの、何かの奇妙な縁のような気がした。

「あの、それで、値段のほうは…」

「ああ、えーっと応急処置で多分1万円ちょっとぐらいですね。今からちゃんと見積もりしますけど。完璧に修理するなら10万円ぐらい見といてもらったほうがいいです」

「じゃあ、とりあえず応急処置で…あと、ここで買った弦があるんですけど、やり方わからなかったんで、これもお願いしていいですか」

 店長は笑って、わかりました、とだけ言った。嫌味のない笑顔だった。

 店長の言うとおり、見積もりは1万円ちょっとになった。気持ちよく支払って、弦を渡して、お願いしますと言って店を出た。


 家に帰るとまたオヤジに話し掛けられた。

「あれ?ギターは?」

「ああなんか傷んでるからちょっと修理してもらおうと思って、始めるんは来週からになったわ」

「なぁんや、そうかいな」

 オヤジは少し残念そうだったが、来週から頼むわと言うとまんざらでもなさそうだった。


 今から一週間後が楽しみになったが、一週間という時間が何故か妙に長く感じられた。

 それにしても30万のギターとは…初心者には不相応ではあるけれども、十円玉おじさんに恥ずかしくないように練習しようと思う。


<七>


 それから仕事も大して手に付かず待ち望んだ日。ギターを受け取れる日がついに来た。ハンダ付けの仕事をしながら、ギターを受け取ることばかりを考えて少しミスをした。こないだお褒めの言葉を頂いた先輩から「うーん、まだまだやったかあ」と言われてしまった。この人は何故飽きもせず思考を停止してこの仕事ができるのか少し興味を持ったが、すぐにどうでもいいかと思い直した。

 ともかく、今日仕事が終わったら大急ぎで家に帰ってオヤジの車を借りてギターを迎えに行こうと思った。


 終業時間が妙に遅く感じたが、いつもの通りきっかり17時に終わり、10分後には工場を出ていた。原付を飛ばして家に帰り、オヤジに車を借りる旨を伝えて家を飛び出した。

「いよいよ受け取りか~待ってるで~」

 後ろからオヤジの声が追いかけてきた。


 店に着いたら、もう店長がギターを用意して待ってくれていた。

「そろそろ来るころかなと思いまして、まだちょっと傷んでる部分もあるんですけど、とりあえず応急処置なのでこれぐらいにしかならないですね。申し訳ないです。ギターこちらになります。あとケース1個買ってもらったほうがいいと思うんですけど、ハードケースで1万円ぐらいなんですけど、どうします?」

「買います、オススメのやつでお願いします」

「はい、じゃあこれにしましょうか。小物も結構入るんで、あと今回弦張りなおしたときにチューニングは一応しときましたけど、チューナーとかどうします?ウチに持って来てくれたらチューニングはしますけど、毎回持ってくるのも面倒だと思いますし、もし続けられるのならやり方覚えといたほうがいいと思いますよ」

「じゃあ、それも買います」

 それも、これもと結局3万円ぐらいの出費をした。少し痛かったが、これからしっかり練習して上手くなるための投資だと思えば安いものだと思った。そもそもこのギターは本来30万以上する代物なのだから。

 支払いが終わった後、店長が

「ちょっと弾いてみますか?」

 と言うので、一刻も早くギターに触れてみたかったおれは内心で喜んだ。

「じゃあ、ちょっとだけ…まだ全然コードとかわかんないんですけど…」

「肩にストラップをかけて…そう、ネックは左手でこう握ってください。右手はブリッジにそっと添えて、そう、そんな感じです。これが基本の持ち方」

 鏡を見ると、結構さまになっている気がした。

「で、一番基本になるCのコードが、左手をこう持って…細いほうのこっちから数えて1弦、2弦…で今だと一番上が6弦です。人差し指で2弦を、そう…これですね、で中指で4弦、そう、で薬指でここの5弦を…」

「け、結構指きついですね」

「弦はしっかり押さえてくださいね。ちゃんと鳴らないんで、まあやってるうちに慣れてきますよ、お客さんなら指結構長いし、ギター向いてると思いますよ!」

「そうですかね…」

 なんだかおれはその気になっていた。まだ、たった今ギターを触り始めたばかりだというのに、まったく商売上手な店長である。

「で、右手でピックを握って、そう、軽く挟む感じで…で、一番太い6弦以外をジャラーンと弾いてみてください」

 おれは言われるがままにピックを滑らせた。ギターは見事にそれっぽい音を奏でてくれた。

「そうそう、それがCのコードです。指の形ってそれが基本中の基本なんで、とにかくCのコードをその指の形で自然に押さえられるようになりましょう」

「はい、なんとかやってみます」

「あとTAB譜の読み方だけ教えておきますね。ギター用の楽譜にはTAB譜っていうのがついてて、まずこれの上から1弦から順番に6弦までです。で0ってなってるのはどの指でも押さえないで鳴らす弦、1っていうのはフレットっていって、1フレットはこの先っちょに一番近いこの線までを押さえるんですね、でその次の線までが2フレット、その次が3…と続いていきます。指の形は基本のいくつかを覚えてしまえば押さえる弦とフレットが違うだけなんで、まあこれは練習して覚えていくしかないですね」

「何も書いてない弦は?」

「それは鳴らさない弦ですね」

「はあ、結構覚えること多いんですね……、がんばってみます…」

「またわからないことがあったらいつでも来てください」

 店長の笑顔に見送られておれは店を出た。


 家に帰るとオヤジが今か今かと帰りを待っていた。

「おお、これかあ!ええギターやんか!」

「わかるん?」

「わかるよ、これは絶対ええやつや」

 オヤジがどこまで見る目を持っているのかイマイチ信用ならなかったが、オヤジは店で店長が教えてくれたようなことをもう一度教えてくれた。基本的なコードもいくつかやって見せてくれて、おれもなんとなくギターという楽器を理解した。

 しばらくコードの練習をして、最終的には十円玉おじさんがやってくれたような指弾きで『ブラックバード』を弾き語りできるようになりたいと思う。


 その日は結構夜遅くまで、オヤジが付き合ってくれた。思えばオヤジとゆっくり語らったことは今までそんなになかったと思う。焼酎の水割りをチビチビ飲みながら、オヤジはサイモン&ガーファンクルの『コンドルは飛んでいく』を指弾きで演奏してくれた。手つきは随分怪しかったし、リズムもバラバラ、コードが合ってるのかどうかもわからないような酷い演奏だったが、ちゃんとそれっぽく聴こえたのだった。

 おれも焼酎を飲みながら、オヤジの演奏を黙って聴いていた。


<八>


 それからまた何週間か経った日曜日、毎日練習していた成果もあって、基本的なコードなら手元を見ないでも押さえられる程度に上達したおれは、とりあえず何か一曲演奏してみたいなという気になり、ビートルズでも初心者向けとされていた『Let it be』をやってみようと思い立った。おれでも聴いたことのある曲だし、ネットでTAB譜をダウンロードできたのでそれを紙に印刷して、とりあえずヘタクソでも他人の迷惑にならないであろう川べりの公園で試しに弾き始めると、意外と指がスラスラと動いくれた。一音一音、コードと弦を確かめるように弾いていたのでその曲だとは誰もわからないようなリズムだっただろうが、おれの中では下手なりにちゃんと弾けていることが嬉しかった。

 スマホで動画サイトを見ると、丁寧に弾き方を解説している動画もあり、TAB譜と動画を交互に見ながら、少しずつ少しずつ弾けるようになっていった。

 三十路を過ぎて、やっとというか、とうとう趣味と呼べるものを手に入れたおれだが、ここまでのめり込むとは考えてもみなかった。人生わからないものだ。さすがに十円玉おじさんのように、全部投げ出してミュージシャンになりたいとは思わないけれど。

 何回か出だしの部分ばかり練習していると、自然と手が動くようになってきた。店長の言う通り、おれはギターに向いている手をしているのだろうか。それとも、今まで自分が気付かなかっただけで、自分には何の才能もないと思いこみ、とにかく普通であろうとしてきたから、音楽の才能があったことに、今の今まで気付かなかったのだろうか。

 まあ、音楽の才能と言うのを今どうこうと言うのは自惚れに過ぎないだろうが、おれは今ギターを弾くのが最高に楽しかった。まだギターというもののほんの入り口に立ったにすぎないのだろうけれど。

 十円玉おじさんに聴いてほしいと思ったけれど、あれからもうずっと十円玉おじさんには会えていなかった。仕事帰りにホームレスのいるような場所を覗いてみたりもした、が、やっぱりどこにも十円玉おじさんはいなかった。どこかで生きてはいるのだろうと思う、いや思いたいのだけれど、この宝崎の街のどこにも、もうあの寂しさと優しさ、物悲しさを漂わせた、変てこな踊りを踊るブラックバードの匂いは、すっかり綺麗になくなっていたのだった。

 おれは十円玉おじさんのことを思いながら、川べりを撫でる冷たい風に吹かれながら、ギターの練習を夢中になってただひたすらに繰り返していた。

 

 どれぐらい練習しただろう、結構時間も経っていたと思う。1フレーズ目までなら、たどたどしくも弾けるようになってきた。嬉しくなっておれはずっとギターを鳴らしていた。そこに、急に後ろから声がした。

「なあ、にいちゃん、もしかしてそれ変な踊りで十円玉集めてたオッサンのギターか?よう似てるけど」

 ギターを夢中で弾いていたところに突然声をかけられたものだから、おれは大変に驚いた。後ろを振り返ると、十円玉おじさんよりは多少マシな身なりをしたホームレスのおっさんがいた。おれはギターを弾くのを止めて、おっさんのほうに向きなおった。よく見たら、あの公園で何度か見かけたホームレスだった。向こうもおれが十円玉おじさんの前に何度かいたことをなんとなく覚えていたのかもしれない。

「知ってんの?あのおっちゃんのこと」

「知ってるも何も、今朝ここに来たんやで」

「えっそうなん…」

「あの公園がなくなってから、俺らみんな散り散りに色んなとこ行ったんやけど、あの十円玉のおっさんだけめっきり見かけんようになってもうたんや」

「うん、おれも探してたんやけど」

「ホームレス探すなんか、中々にいちゃんも酔狂なやっちゃな」

 おっさんはそれでもバカにしたような様子はなく、ただ笑った。

「ちょっと、世話なったから」

「にいちゃんもあのおっさんのギター聴いたんか?びっくりするよな、普段ヨレヨレやのに、ギター持ったら別人みたいになるもんな」

「聴いたことあんの?」

「ああ、あの公園で一緒やったころ、一時期まではよく弾いてたよ、急になんか弾くのやめてもうたけどな。それより今朝や」

「あのおっちゃんどっか行ったん?」

「なんや知らんけど、えらいきれいな身なりしててな、最初はあのおっさんやとは誰もわからんかったんや、せやけど、急に話しかけてきてな、あのどもりで、ああ、とわかったんやけど」

「きれいな身なり?あのおっちゃんが?」

「せや、髪も切って、ヒゲも剃っててな、安もんやろうけど、ちゃんとしたズボンにワイシャツも着てたわ」

「どこにそんな金あったんやあのおっちゃん」

「知らんかったんか?あのおっちゃん、人にもろた十円玉は全部銀行に入れてたんやで。毎日毎日雀の涙みたいな金額やけどな」

「え、じゃあどうやってメシ食うてたん?」

「そら俺らホームレスなんか結構どうにでもなるよ、空き缶売れば金になるし、そうでなかったらかぶと山のゴミ捨て場からまだ使えそうなガラクタ拾ってきて売りに行ったりな。支援団体とかいうようわからん連中がパンやらおにぎりやら配ったりしてるし」

「へえ、やっぱりホームレスでもうまいことやってるんやな」

「それでよ、あのおっさん、今朝ふらーっと来てな、ニッタァって笑って『ワシ、い、イギリス、行ってくるんや』って言いだすねん。とうとう頭おかしなったんかなと思ったら、小さいカバンからほんまに飛行機のチケット取り出してな」

「イギリスゥ!?」

 おれは思いもよらない単語に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「いきなり大きい声出すなや、びっくりするやんけ」

「す、すいません…せやけどどこにそんな金あったんや、そもそも家もないのにパスポートとか取られへんやろうに……」

「どうもあの十円玉募金が何十万にもなってたらしいわ。何十年も飽きんと毎日毎日やってたからなあ。チリも積もれば貯まるもんやなと思ったよ。まぁ俺らにも住所はないけど戸籍はあるし、パスポートはさっき言うた支援団体の連中か誰かが身元引き受けてくれたら取れるんちゃう?ようわからんけど」

 おれはもう何がなんだかわからなくなってしまっていた。おれの想像のはるか上に、十円玉おじさんはいたのだ。

「いつ…いつ出発言うてました?」

「今日の夕方や言うてたな、宝崎の駅から関空までバス出てるらしいからそれで行くんやろ」

「ありがとう!」

 ギターをケースに入れて、おれは肩に担いで走り出した。

「おい、まさか追いかけるつもりちゃうやろな、おーい」

 ホームレスのおっさんの声は、もう遥か後ろだった。


<九>


 家に帰ってオヤジに途中まで練習した『Let it be』を披露したところ、結構なお褒めの言葉を頂戴した。それはそれで嬉しかったのだが、実はおれは今それどころではないのだ。

「なあオヤジ、聞きたいことあんねんけど」

「なんや急に」

「ビートルズのこと、わかる?」

「そりゃ俺らの青春時代やからなビートルズは、なんでも聞いてくれ」

「イギリスで、ビートルズのファンが行くであろう名所ってどこや?」

「そらまずアビィ・ロードやろ。あの有名な横断歩道渡ってるジャケット写真の場所や。ビートルズが使ってたアビィ・ロード・スタジオちゅうのももあるし、ビートルズファンなら一度は行きたい場所やな」

「そうか、わかった、ありがとう!」

「おい、なんや唐突やな」

 自分の部屋に行ってパスポートの残り期限が十分にあることに安心すると、それをポケットに突っ込んでおれはまた家を飛び出していた。


 銀行で貯金を全額引き出すと、20万ちょっとあった。日曜日でも引き出せるというのはありがたいのかもしれないが、衝動にブレーキがかからないのは考え物かなと少し考えて、忘れた。そのままその足で旅行代理店へ向かった。

「今日、今日じゃなかったら明日の朝一番にでもイギリスに行きたいんですけど、なるべく安いやつで」

「少々お待ちください…急なので空席があるかどうか確認しますね。宿の手配は不要でしょうか?」

「はい、自分でなんとかします」

「かしこまりました」

 応対してくれた女性がしばらくパソコンに何かを打ち込んで待っていた。

「今から一番早い便ですと明日の朝9時半関空発になりますね。到着は現地の17時から17時半ぐらいです。航空会社は中韓航空になりますけど、よろしいですか?」

「なんでもいいです、それでお願いします」

「かしこまりました、確認ですが、観光目的ということでよろしいでしょうか?」

「はい、そうです」

「お帰りはいつのご予定ですか?」

「2日間ぐらい現地に滞在と考えてます」

 あまりに短い日程だからか、女性は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに元の調子に戻った。

「そうしましたら、お帰りは水曜日の現地19時半にロンドン発、木曜日の夕方17時ごろ関空着になりますが、よろしいでしょうか?」

「わかりました」

「滞在は6ヵ月までビザは不要ですので、パスポートのほうをご提示頂けますか」

 おれはパスポートを渡した。女性はまた何かをパソコンに打ち込んで、コピーか何かを取って、パスポートを戻した。

「ではチケットのほうがオイルサーチャージ等も含めまして往復で11万8千円になります」

 おれは財布から12万円を抜き出して女性に渡した。

 旅行承諾書等諸々の書類にサインをして、旅行保険の一番安いやつに加入して、店を出た。宿もメシも、現地でなんとかなるだろうと思っていた。最悪、2日間ぐらい野宿でも構わないと思った。

 それも全て十円玉おじさんに現地で、アビィ・ロードで会えるという前提によるものなのだが、何の根拠もない確信があったのだ。


 家に帰って最低限の荷物だけを小さなボストンバッグに詰め込んだ。

 待ちきれないおれはインターネットでロンドン・ヒースロー空港からアビィ・ロードへの行き方をすっかり頭にインプットして、地図を見て、ビートルズの曲を聴いて、結局一睡もしないまま朝を迎えた。

 工場へは家を出る前に電話をいれた。留守電だったので

「すいません。急用で金曜日まで休みます!」

 と入れておいた。これでクビになったら、まあしょうがないだろう。


 ギターと小さなボストンバッグだけを持って、空港までのバスに乗り込んだ。ギターは持って入れないと言われたが、なんとか頼み込んで隣の席に置かせてもらった。


 空港までは1時間ほどで着いて、フライトまではまだ2時間ほどの余裕があった。

 とりあえず面倒な搭乗手続きをさっさと済ませて、荷物を預けるところで

「すいません、これ大事なギターなんですけど…」

 と相談してみたところ、

「わかりました、それでは貴重品としてお預かりしますので、ご安心ください」

 誰のものかわからないトランクと同じところに乱暴に詰め込まれるのかと内心不安に思っていたが、『楽器』というような札をつけて、『取扱い注意』と恐らく英語で書いてあるのであろう札をつけて、別口で預かってくれたので安心した。現地ではトランクなどと一緒に流さずに、窓口で渡してくれるとのことだった。


 金属探知機を通り、出国審査も無事終えたおれは空港のカフェでコーヒーを飲みながら、何も考えずここまで来たことに若干の後悔と不安を覚えていた。頭が冷静さを取り戻してくると、たかだかギターが上手いだけのホームレスのおっさんにここまで入れ込んでしまっている自分もよくわからなくなってしまっていた。


 しかしまあ、ここまで来たら行くしかないだろう。

 後は飛行機に乗り込むだけだ。

 いこうじゃないか、ブラックバード。


<十>


 飛行機は途中一旦韓国のソウルに寄った後、再び飛び立った。機内では始めは映画をボケーっと観ていたが、段々眠気が勝っていって、機内食が出てくる時間以外はほとんど寝ていた。機体がガクン、と下がり、シートベルト着用のランプが点くのを合図に、おれは目を覚ました。アナウンスは英語でよく聞き取れなかったが、どうやらもうすぐロンドン・ヒースロー空港に着陸するらしかった。おれはシートベルトを締めて、案外早く着くものだな、と思った。実際には15時間以上機内にいたはずだが、昨日一睡もしていないのが案外と功を奏したのかもしれない。外を見ると、もう日が傾いていて、機内の時計は17時過ぎを示していた。


 空港に着くと、入国審査の行列がうんざりするほど長かった。おれはなるべく短い列を選んで並んだが、それでも列は中々前へ進まず、歯噛みした。

 なんだか飛行機に乗っている間より長いように感じられた時間の後、おれはやっと入国審査を抜けることができた。航空会社の窓口で、無事にギターは受け取ることができた。おれはたどたどしい英語でThank youとお礼を言って、ゲートを出た。当たり前だが、日本人の姿はほとんど見えなかった。空港にあった両替店でとりあえず3万円ほどポンドに両替しておいた。

 ヒースロー空港からは高速鉄道か地下鉄かバスでロンドン中心部まで出ることができるが、とりあえず急いで行きたかったおれは少々値段は張ったが高速鉄道を選んだ。それにしてもイギリスは物価が高い。500mlぐらいのペットボトルのミネラルウォーターが1ポンド、約150円だ。日本ならコンビニで買っても100円は超えないだろう。サンドウィッチは3ポンドもした。450円だ。まあそこをぶつくさ言ってもしょうがない。高速鉄道に乗ってロンドン市街へ向かうと、あっという間にロンドン中心部の駅に着いた。

 おれは地下鉄の駅を探して散々彷徨い歩いたが英語の案内板が全くわからず、駅員に尋ねるのもなんだか気が引けたので、結局タクシーに乗ることにした。

 イギリスに来てこの短時間で思ったのは、学生時代に覚えた英語なんてほとんど役に立たないこと、わかる単語だけ並べてカタコトのように喋るほうがよっぽど通じるということだ。というわけで、おれはドライバーに

「アー…アビィ・ロード…あー…っと…ア・フェイマス・ポイント・オブ・ビートルズ…」

 ともう合ってるのか合ってないのかそれすら定かでないような言い方で行先を伝えると、

「Oh,I see. OK Let's go!」

 と陽気そうなドライバーはどうやら理解してくれたようだった。

 車内でドライバーがやたらと話しかけてきたので応対に難儀した。

「Japanese?」

「イエス」

「You play beetles?」

 とおれのギターを指さして聞いてきたので、

「あー…イエス、バット・ア・リルゥ」

 と答えると、ドライバーのテンションが物凄く上がってしまって、

「Oh that's good, I like beetles very very much. Especially, "Yesterday","Let it be","Hey Jude", etcetera etcetera...」

 とビートルズ談義を始めてしまった。英語自体はあまり得意ではなかったが、幸いリスニングに限っては人並みよりも点を取れたので、ドライバーが何を言っているのかは大体わかった。

「アイ・ライク・ブラックバード・ベリーマッチ」

 と言うと、ドライバーは満足そうに頷いてくれたので、おれは少し嬉しかった。


 10分もしないぐらい走るともう着いたようで、ドライバーは車を止めた。日本ならばワンメーターを少し超える程度の距離だったと思うが、10ポンド、1500円ほどもかかってしまった。

「Thank you, have a nice trip」

「Thank you」

 と挨拶を交わして、おれはタクシーを降りた。周りを見ると日本とは随分景色が違っていて、そこかしこに緑が植えてあった。辺りはもう薄暗く、すっかり日も落ちていた。


 少し歩くと、かの有名な横断歩道があった。この時間でも観光客が大勢いて写真を撮りまくっていたのですぐにわかった。向こう側にある白い建物が、ビートルズが使っていたというアビィ・ロード・スタジオだろう。おれはその人混みの中から十円玉おじさんを探したが、見つからなかった。今日はもう遅いので、どこかの公園で野宿でもしているのかと思い、そのへんをブラブラと歩いてみた。当然アテもなく歩いたところで見つかるはずもなかったが、30分ほど歩き回ったところで、おれは小さな森に囲まれた静かな公園を見つけた。引き込まれるように、おれはその中へ歩みを進めた。少し歩くと池の周りにベンチが並んだ場所があった。段々と闇が優勢になってきた夜の公園に人影はなく、おれはベンチに腰掛けてギターを取り出した。

 つい昨日の出来事を思い出すように、『Let it be』を弾き始めた。手元も覚束ないその様子は、本場の人が聴いたらとても聴くに堪えられたものではないのかもしれないけれど、おれは一生懸命また練習するように、それを弾いていた。

 『Let it be』、「なるがままに」という意味だ。なるがままに、ロンドンで明日一日と明後日の出発前まで、十円玉おじさんを探して、見つからなかったら帰ろう。そう、なるがままに。


 気が付けば夜も更けていた、食事をすることも、宿を探すことも忘れてギターを弾いていたおれはギターをケースにしまって、バッグを枕にしてベンチに寝転がった。警備員か誰かに見つかったら摘みだされるかもしれないが、そのときはそのときで、またブラブラ歩けばいい、きっと十円玉おじさんはそうしているはずだから。

 そういえば駅でサンドイッチを買ったのを今更ながら思い出して、それを夕餉とした。それからギターをしっかりと抱いて、物思いに耽っていると、おれはいつの間にか眠っていた。


<十一>


 随分早い時間に目が覚めた。ロンドン時間で朝の5時半ぐらいだった。辺りはまだ真っ暗だったが、幸い警備員に摘みだされることもなく、荷物を盗まれることもなく、朝を迎えることができたようだ。飛行機でずっと寝ていたからか、時差ボケのようなものはなかった。

 公衆トイレで顔を洗って、ギターとバッグを持ってぶらぶらと道を歩くことにした。


 日が高く昇る頃まで、おれはアビィ・ロード・スタジオの前に居た。まばらだった観光客の数も次第に増え、車が行き交う中をなんとかあのアルバムのジャケットと同じ写真を撮ろうと、道路に飛び出して写真を撮るマナーの悪いのも中にはいた。ギターを抱えた様子が人目に付くようになってきたので、おれは近くの交差点の隅っこに移動した。スタジオの前の横断歩道を伺いながら、写真を撮ってみたり、ちょっと歩いてみたりしながら、闇雲に時間を浪費していた。腹が減ったのも忘れて、ただただ主人を待つハチ公のごとく、そこに十円玉おじさんが現れることだけを信じて待っていたのだ。


 しかしついにこの日も太陽が見えなくなるまで、十円玉おじさんは現れなかった。野宿のせいか身体の節々が痛かったので、今日はさすがに宿を探そうと思い、人混みに紛れてロンドンの中心部へ地下鉄で向かった。途中、日本にもあるハンバーガー屋で食事をした。イギリスのメシはおれたちにとって決して美味いものではないと話には聞いていたが、味は日本のものと大して変わりはなかった。

 しかしロンドンの中心部にあるホテルはどこも高く、一泊で何万円もするようなところばかりだった。そこでおれはスマホを取り出して、日本にいるときと同じように使える公衆WiFiに感謝しつつ、安宿を探すことにした。

 調べたところ、幸いバックパッカーなんかが使う相部屋の宿が近くにあるらしかったので、おれはそこに向かって歩くことにした。スマホに地図を表示させて、GPS機能を使って案内の通りに歩けば辿りつくのだから、電波さえ通じるなら地球のどこでだって迷子になったりしない。本当に凄い時代になったと思う。


 15分か20分ほど歩くと、目指していた宿が見つかった。おれはフロントで寝床は空いているか尋ねると、スカスカだからどこでも好きなところで寝ていいというようなことを言われた。宿泊費は1泊だけなら前払いで、日本円にして3500円程度、朝食もついているということだった。

 入口から一番近い部屋に入ると、相部屋の男性が2人いた。一人は白人の大男で、もう一人は日本人のようだった。白人の男は、

「Good day, nice to meet you!」

 と気さくに話かけてきてくれた。握手を交わしたあと、白人の男はまたベッドに転がって本を読み始めた。おれは日本人らしき男性に、

「日本の方ですか?」

 と聞いてみると、男はとても驚いた様子で

「はい、そうです。今週いっぱいここでお世話になろうかと思って」

「そうなんですか、僕は明日で帰っちゃうんで、今日だけなんですけど」

「そうなんですね、ギター、持ってますけど、もしかして演奏とかされるんですか?」

「ああ、いや、僕はまだ全然初心者で…ただなんとなく持ってきたくて持ってきただけなんですけど…」

「もし良かったら記念に何か弾いてください」

 一体何の記念なのか。男の申し出におれは少したじろいだ。

「いや、まだ一曲しかレパートリーが…それもまだ練習し始めたばっかりで…」

「いいですよ、なんでも」

 と男は笑って答えた。白人の男も興味深そうにこちらを窺っている。仕方ない、やけくそだとおれはギターを取り出して、覚えたての『Let it be』を披露した。おれは何とか1番を弾ききることができた。

「まだ、ここまでしか」

 と頭を掻きながらおれは言ったが、二人の男は同時に拍手をしてくれた。

「まだ始めたばっかりでそれって、凄いじゃないですか」

 と日本人が言うと、

「You good, good playing, thank you」

 と白人も言ってくれた。社交辞令だとしても嬉しかった。

 おれは日本人の男が寝ている二段ベッドの上に上がり、荷物を置いて、とりあえずシャワーを浴びることにした。シャワーの勢いは物足りなかったが、二日ぶりに浴びるシャワーはとても気持ちがよかった。


 着替えて部屋に戻ると日本人の男がロンドンであった話をいろいろとしてくれた。ぺちゃくちゃとよくしゃべる人だなと思ったが、思わぬところで巡り合った同郷の人間にテンションが上がる気持ちはわからないでもない。人様に披露できるような話題もないおれは黙って聞いていたが、

「週末になると大道芸人みたいな人や、楽器を演奏したい人…とにかく一発芸を披露したい人みたいなのが集まるような、コヴェントガーデンっていうところがあるんですけど、昨日は日本人のパフォーマーとかもいて面白かったですよ。さすがに平日はそんなに何人も見かけないですけど、今日聞いた話だと日本人のお年寄りらしい人が変な踊りを踊って喝采を浴びてたとか」

 おれは口に含んでいたミネラルウォーターをプッと吐き出してしまった。

「す、すいません」

「どうしたんですか急に」

「それ多分、僕の知り合いです」

「それすごい偶然じゃないですか!」

「まさかここでそんな話を聞くとは思ってなかったんで…つい…」

「絶対会いに行ったほうがいいですよ!」

「そうします」

 やっぱりおれは十円玉おじさんに縁がある。確信した。どこにいるかも検討つかず、思っていたアテも外れて、実際のところおれは半ば諦めていた。

 おれは会話もそこそこに、ベッドに寝転がった。タイムリミットは明日の夕方までだ。朝からコヴェントガーデンとやらに張り込んでいよう。それがラストチャンスだろう。


<十二>


 朝はおれが一番最初に起きたらしく、寝息が2つ、下から聞こえていた。おれは二人を起こさないように注意深く食堂へと向かった。食堂にはシリアルとドライフルーツ、それとミルクと器とスプーンがいくつか乱暴に置かれていた。

 太ったおばさんがおれに気付いたのか、

「Good morning」

 と声を掛けてきたので、おれも同じように返事をした。

 おれが器にシリアルを開けて、ドライフルーツを少し乗せ、ミルクを掛けると、またおばさんが

「Would you like fresh orange juice?」

 と聞いてきたので適当にイエスと答えた。

 シリアルとドライフルーツを一気に食べきって、おばさんが持ってきたグラスになみなみと注がれたオレンジジュースをグイっと一気に飲んで、おれはすぐ部屋に戻った。朝食の味がどんなだったか、おれはすぐに忘れてしまった。

 ギターとカバンを持って、おれは宿をチェックアウトした。時間は8時ごろだったと思う。


 コヴェントガーデンまで、歩いてもさほど時間はかからなかった。有名なアニメ映画のショップなんかもある広場のような、ショッピングモールのような場所だった。まだ朝早いせいか人通りも少なく、おれはとりあえず開いているカフェに入って時間を潰した。

 ある程度日が高くなってくると、平日とはいえ観光客なんかで結構な人出があった。人が増えるのに合わせて、広いスペースの一部に陣取り、一人で5つも楽器を弾いている人や、石像のフリをして、子供が近づくとわっと驚かせる人、中国人のような服装で、中国のものであるらしい楽器を演奏している一団…そんな風に芸を披露する人達が何人か現れた。人々はそういった人の前で足を止め、気に入ったものにはコインをおひねりとして渡していたり、置いてある箱に投げ込んだりしていた。

 おれは彼らに少し興味があったので、十円玉おじさんを探しながらも、芸を眺めながら広場をブラブラと歩いてみた。なるほど、週末になれば大道芸で賑わうというのも頷ける。平日でさえ結構やっていたし、人通りも多く、彼らを目当てにやってくる人も多いのだろう。ふと見るとバトンでジャグリングをしていた人が失敗して顔面を自分が投げたバトンでしたたかに打って、失笑を買っていた。その人もバツが悪そうに笑っていた。ここはそういう場所だった。

 ここには自由があった。何ものにも縛られず、自分を表現できる自由が。

 おれのギターを、「日本人が何を弾くのか」というような目で興味深そうに見ている人もいたが、しかし残念ながらこんな場所で披露できるようなものは持っていなかった。ただ、いつかはこういう場所で喝采を浴びるのも悪くないのかもしれないとぼんやり思った。そこまで上達できれば、だが。

 また目についたカフェで少し休憩することにした。気付けば時間は昼に近かった。すっかりコヴェントガーデン巡りに夢中になっていたが、本格的に十円玉おじさんを探さないとな、と思い直した。結構狭い道もあり、芸を見ながら適当に歩いていれば見つかるかもしれないという淡い期待もあったが、それは甘かったようだ。


<十三>


 それからまた夕方まで、おれは十円玉おじさんを探し回った。しかし十円玉おじさんはとうとう見つからず、おれは時計をみて途方に暮れた。遅くとも出発の1時間半前ぐらいまでには空港に着いておかないと、フライトに間に合わないかもしれない。悪いことにコヴェントガーデンは、空港へ向かう高速鉄道の駅から、泊まったホテルを挟んで反対側なのだ、地下鉄を使わずタクシーを使えば15分ほどで着くだろうが。しかしいずれにしてもそこまで時間的余裕がないのは明白だった。残された猶予は1時間、長く見積もってもせいぜいがプラス15分、ギリギリまで粘ってプラス30分…といったところか。


 もうおれは十円玉おじさんには会えないのかと諦めかけて大通りへ戻ろうとすると、どこからともなく指笛が聞こえてきた。どうせどっちの方向から大通りに出ても大して変わらないので、おれは何となく、そっちへ向かって歩いてみた。

 人々はスマホやらコンパクトカメラで何やら撮影している、それが何かしらの芸であることは雰囲気から汲み取ることができた。

 さほど遠くもない距離から、彼らの中心で行われている芸を目で見ることができた。次の瞬間、おれはギターを抱えて走りだしていた。

 おれは無我夢中で、気付いたときにはもう踊っている最中の十円玉おじさんに抱きついていた。周囲の観客からは何が起こったのかというざわつきやブーイングが飛び交っていた。

「な、なんや、に、にいちゃんかいな。こ、こんなとこまで、何しにきたんや」

「会いに来たんや。おっちゃんに」

「わ、ワシにかい。へ、変なやっちゃなあ」

 周囲の観客も十円玉おじさんとおれが知り合いであることを察してくれたらしく、次第に散り散りとなっていった。


 おれと十円玉おじさんは手頃なところに腰掛けた。

「おっちゃん、このギター」

 おれはギターケースを開いてギターを取り出した。

「こ、これワシのやないか。ど、どないしたんや、これ」

「なんの因果か、おれが買うて、修理出したんや。まあ、ちょっと聴いて」

 そしておれは覚えたての、たどたどしい『Let it be』を、今までで一番上手に弾いた。1番だけだけれど。十円玉おじさんはそれを聴いて、

「れ、練習したんか、せやけど、ま、まだまだ、やな」

 そう言ってにまぁっと笑った。

「おっちゃん、弾いてよ。『ブラックバード』。おれあんとき途中までしか聴けてないやろ」

「あんときて、どのときや」

 おれはちょっとガクッとして、

「雪の日、一緒に酒飲んで、弾いてくれたやんか!」

 と訴えた。

「ああ、そ、そんなこともあったな。せやけど、ワシ、ギ、ギターは辞めたんや」

「なんでやおっちゃん。好きやったやろ、ホームレスやのに、ギターだけは大事にしとったやろ」

 おれはもう半分泣きそうな顔で言っていたと思う。十円玉おじさんは困った顔をしたが、

「ワシ、芸がやりとうなって、ろ、ロンドン来たんや。ギ、ギターに未練、残すんは、い、嫌やったから」

「なんで今さら?しかもこんなとこまで来て…」

「なんでて、に、にいちゃんらが、ワシなんかのこと見て、わ、わろてくれたからや」

 そう言っていつものように、にまぁっと笑った。おれは一瞬何かが込み上げてくる気がしたが、それをぐいっと飲みこんだ。十円玉おじさんは続けた。

「げ、芸を披露するんやったら、ひ、人伝に、ここがええて、聞いてな」

「わざわざロンドンまで来んでも、日本でもできたやろ」

「に、日本では、みんなわろてくれた。けど、ワシの、おりじなるの、お、踊りが、どっか、とおーくで、つ、通用するんか、どうかな」

「悲しいことに通用してるみたいやな」

 おれはわざとぶっきらぼうに言った。

「まあ、いまだけで、すぐ、あ、飽きられるやろ。そしたら、ワシは野垂れて死ぬか、捕まってきょ、強制送還、されるわな」

「野垂れ死ぬのは知らんけど、観光ならビザ無しでも半年までは大丈夫みたいやで」

「ほ、ほうなんか、そんなん、聞くんも、わ、忘れてたな」

 ちょっと冷えてきたなと言って、十円玉おじさんはあの日かぶと山から拾ってきたダウンジャケットを羽織った。

「どうやって暮らすつもりなん、まさかイギリスでホームレスなんかできへんやろ」

「ま、まだ金はあるんや。安宿、泊まっとってな、もうちょっとは、な、なんとかなるわ」

「その金が無くなったらどうすんねんな」

「これやがなあ」

 十円玉おじさんはにまぁっと笑って小さな箱を取り出した。

 箱には、『10 pence coin only』と書いてあった。金が尽きたなら、イギリスでは十ペンスおじさんになるわけだ。その瞬間、おれはもう、この人の後を追うようなことは二度とするまいと心に誓った。この人はどこまでも自由に、自分の人生を謳歌するつもりなのだろう。根無し草のように、風に吹かれればそれに従い、吹かれた先で、どこまでも自由に。

 おれは時計を見た、そろそろ行かなければならない。もう別れは惜しくなかった。きっとまたどこかでこの人とは会うことになるんだろう。それまでにこの人が野垂れ死んでいなければ。

「ほなおれ、そろそろ日本帰るから」

「ほうか、た、達者でな」

 立ち上がって、早足で大通りへ向かった。

 後ろのほうから、しゃがれた声で

「おおーい、ぎ、ギター、忘れとるぞぉー」

 と言う声が聴こえた。

 おれは聴こえないフリをして、タクシーに乗り込んだ。


<十四>


 日本に帰ってから、おれはまたハンダ付けの仕事をしていた。家に帰った時はどこに行っていたのか仕事はどうしたのか根掘り葉掘り聞かれて誤魔化すのに苦労したが、会社では急な欠勤について驚くほど何も言われず、引き続き勤めることができた。どこへ行っていたのか、何の用だったのか等一切聞かれなかった。

 逆にこっちから説明しようと思うほど、職場は寛容だった。まあ説明したところで、間違っても本当のことは言わないだろうけれど。

 思うに、嫌になって逃げたはいいが勤め先がなくて戻ってくるケースが多いのかもしれない。仮におれがそうだったとしたら、深く追及されたら今度こそ本当に嫌になってしまうだろう。


 イギリスに行って帰ってきてまだ少し余っていたお金で、おれはあの楽器店で初心者向けのギターセットを2万円ほどで購入した。店長にあのギターはどうしたのかと聞かれたが、貰った知人に返したと言ったらそれ以上は追及されなかった、まあ店長にとってはどうでもいいことではあったのだが。ただ、おれがどこまで上達したのかは興味があったらしく、またちょっと弾いてみてくれと言われたので、『Let it be』を披露した。

「いやあ、短期間でここまで上手くなる人中々いないですよ」

 感嘆したように店長は拍手をしてくれた。

「そ、そうですか」

「そうですよ、これからも頑張ってください」

 やはり社交辞令だとしても、褒められるのは悪くないなと思った。


 家に帰ってから、ギターを弾きながら十円玉おじさんのことを考えていた。ここに至ってやっと、おれは十円玉おじさんとおれとの決定的な違いを痛いほど理解した。十円玉おじさんは孤独と自由を腹の底から愛していて、自分が『なるがままに』生きる道を行きたいように生きる人なのだと。そんな無茶苦茶な人に憧れたところで、安心がほしいから、普通でありたいから、長いものに巻かれて自ら不自由になろうとしてきたおれが真似できるわけなど始めからなかったのだ。

 あのしゃがれ声のような寂しさを、優しさを、仄かな物悲しさをこの身に纏うことは、残念ながらおれには一生ないだろう。

 ただ、衝動的にイギリスに行ったことだけは、おれの心の中でひっそりと額縁に飾っておこうと思う。


<十五>


 それから何年か、相も変わらずおれはハンダ付けの仕事をしながらギターの練習をしていた。もうギターを弾くのもすっかりさまになり、レパートリーも増え、ビートルズはもちろん、邦楽の好きな歌手やバンドの歌の弾き語りができるまでになっていた。時々ホームレスがいるような地下道で路上ライブの真似事みたいなのをやったりしていて、そういうとき、周りにそこそこ人が集まって聴いてくれている時間が、おれには生き甲斐のように感じていた。


 ある日、そんな風に地下道でギターを弾いていると、レコード会社のスカウトと名乗る男がやってきて、おれに名刺を渡してきた。名刺を見ると、そんなに大きくはないが名前ぐらいは知っているレーベルの担当者だった。こういう手合いの詐欺師も多いと聞くのでおれは半ば疑いながらも話を聞いていると、どうやら本物らしかった。曰く、所属しているバンドのサブメンバーや歌手のバックバンドとして、ツアーなんかに帯同してほしいから一度スタジオで弾くところが見たいということだった。しかしおれが返事を渋って保留したので、月末にもう一度会うことになった。

 確かに足を止めておれの演奏を聴いてくれる人はありがたいことに何人もいたし、その中でもよく聴きに来てくれて、ファンと呼んでいいのかどうかはわからないが顔なじみになったような人もいるにはいる。けれど自分が思うには、サブメンバーとはいえプロでやっていけるような、そこまでの腕前があるとは到底思えなかった、所詮三十路を過ぎてからの手習いなのだし、若いころから活動しているような人達に勝っている部分などあるはずもない。少なくとも自分ではそう思っていたし、そう確信していた。


 その夜、逡巡しながらおれはボーっと動画サイトを見ていた。日々たくさんのギタリストが『○○を弾いてみた』なる動画をアップロードしている。その動画を開いて聴くにつけ、おれはますます自信を無くしていくのだった。

 その時だ。『A Japanese oldman plays beetles at Covent garden』という動画を見つけたのは。

 ある予感を感じて動画を開くと、やはり間違いなく十円玉おじさんが、おれが押し付けて帰ってきたギターを抱えて演奏していた。曲目は『ブラックバード』だった。動画は十円玉おじさんが最後まで演奏して、聴衆から大喝采を受けたところで、終わった。そのさまは、さしずめ和製ポール・マッカートニーといったところか、いや、さすがにそれは褒め過ぎだ。そんないいものではない。十円玉おじさんはどこまでいっても十円玉おじさんなのだから。


 十円玉おじさんがついに最後まで弾いてくれた『ブラックバード』の余韻と共に、おれは動画サイトを閉じた。

 どうやって滞在しているのかはおれが知る由もないが、十円玉おじさんは未だにロンドンでうまく暮らしているらしい。道を行きたいように行ったら、そこに上手く収まることもあるのだと十円玉おじさんが身をもって教えてくれた気がした。

 おれはレコード会社の担当者の名刺を財布から引っ張り出し、時間も考えずに勢いだけで携帯に電話して、是非やらせてほしいと伝えた。


 十円玉おじさんに背中を押されて、長いものに巻かれたままじっと待っていただけのブラックバードも、やっと飛び立てそうな気がしていた。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 作中キーになっていくブラックバードという曲は、ポール・マッカートニーがアメリカの黒人女性の人権運動を支持するために書いた曲だと言われています。

ですが、僕は何か事を起こすのを躊躇う人間の背中を押してくれる力強い曲だとも思っています。

 以下に、ブラックバードの歌詞の原文を引用し、筆者なりの意訳を添えました。

---


『Blackbird』/The beetles

作詞・作曲/John Lennon & Paul McCartney


"Blackbird singing in the dead of night

Take these broken wings and learn to fly

All your life

You were only waiting for this moment to arise


Blackbird singing in the dead of night

Take these sunken eyes and learn to see

All your life

You were only waiting for this moment to be free


Blackbird fly, blackbird fly

Into the light of the dark black night


Blackbird fly, blackbird fly

Into the light of the dark black night


Blackbird singing in the dead of night

Take these broken wings and learn to fly

All your life

You were only waiting for this moment to arise

You were only waiting for this moment to arise

You were only waiting for this moment to arise"


以下、筆者による和訳(意訳)


"死んだような夜に、ブラックバードが鳴いている

折れてしまっているけれど、その翼を広げて飛び方を覚えろよ

お前の人生はずっと

何かやらかせる時を待っているだけだったんだろう


死んだような夜に、ブラックバードが鳴いている

すっかりくぼんでしまっているけれど、その眼で世界を見てみろよ

お前の人生はずっと

自由になれる時を待っているだけだったんだろう


さあ飛ぶがいい、ブラックバード

漆黒の夜の中を、光めがけて


さあ飛ぶがいい、ブラックバード

漆黒の夜の中を、光めがけて


死んだような夜に、ブラックバードが鳴いている

折れてしまっているけれど、その翼を広げて飛び方を探してみろよ

お前の人生はずっと

何かやらかせる時を待っているだけだったんだろう

何かやらかせる時を待っているだけだったんだろう

何かやらかせる時を待っているだけだったんだろう"


---


 やらかすというのは得てしてネガティブなイメージを想起するものですが、何かデカいことをやらかすという風に言うと、ポジティブに聞こえます。ご存じかどうかはわかりませんが、GOING STEADYもしくは銀杏BOYZの「青春時代」という曲にも「僕は何かやらかしてみたい そんなひと時を 青春時代と呼ぶのだろう」という一節があります。そんなことを思いながら、この小説を書きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが読みたいと思う作品だったにゃ。 [一言] 今の自分と重なり合う部分にドキっとさせられたにゃ。 主人公はギター、にゃんたろうは小説。 にゃんたろうも飛び立つ日が来るにゃかにゃ……。
2016/06/12 22:58 退会済み
管理
[一言] どこか物憂げなはじまりから、だんだんと心が動く疾走感、そして勢いよく飛び立つ躍動感に夢中になって読みました。 とてもすてきな作品ですね! おもしろかったです。
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