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互いの因縁

 『アナタ、人間ね?なんでこんなとこにいるのよ?』

「……」

 慣れたというわけではない。これまで出会った生物は、みな規格外の大きさだった。

しかし、ドでかいカエルをドでかい大蛇が呑み込むという衝撃的場面を見て、もはや声も出なかった。 


『そういえば、アイツの所に人間が現れたって聞いたけど、それあなたの事でしょう?』

「……」譲一は首を縦に振ることしかできなかった。


 アイツというのはあの熊のことだろう。

自分の他にこのおぞましい山に人間がいるとも思えなかった。


『それで?こんな山に何の用?ていうかあんなカエルでビビってたのによく頂上まで行けたわね~』

「違うんだ…気づいたらこの山の頂上にいたんだ…”門“ってのを通ってきたらしいだが…」

『あら、それじゃあなた異世界人?』

「そう…らしい…」

『へぇー…何年ぶりかしらね~異世界人がくるなんて』

 大蛇は随分軽い口調で言った。


 とはいえ、やっとまともに話ができそうな生き物に出会えたのだ

「あと、どれくらい行けばこの山下りれるんだ?」

譲一は訊ねた。


『そうねぇ…まだ結構あるわよ。あなただけじゃ、絶対に無理ね。すぐ他の奴らの胃袋の中よ』

これまたあっさりと言われた。


『だいたい、ここまで下りてこれたのが奇跡ね』

「…なぁ、俺が麓まで下りるのを手伝ってくれねぇか?」

『ん~、そうしてあげたいけど、ここの奴らいつでも腹をすかしてるからね~アタシは全然大丈夫だけど、下山途中であなたを絶対襲ってくるから厳しいわね』

「そうか…」

譲一はがっくりとうなだれた。


 少し考えた後

「じゃあ…取り敢えずまた頂上まで戻るか…」

『それなら、距離も遠くないし乗っけてあげるわよ』

随分と話が分かる蛇だと思った。


「お前は…俺を襲わないんだな」

『別にぃ~人間とか美味しくなさそうだし』

「そうか…それじゃあお願いするよ」


 譲一は蛇の背に乗ろうと蛇の正面から側面に回った。

改めて蛇の全体を見てみると、とてつもなく長く、太かった。

(尻尾が見えねぇ…)

いったいどれぐらいの長さなのだろうか。


普通に飛んだだけでは絶対に乗れないので譲一は助走をつけて飛び乗った。それでも結構ギリギリだった。


『さ、行くわよ。掴まっててね』

そう言うと蛇は地を這い、木々に向かい進んでいく。中々のスピードである。


 しばらくすると、ひらけた所にでた。もはや見慣れた風景である。

中央にはあの熊がおり、なにやら上を見上げていた。


『ハ~イ、なにやってんの?』

蛇はこれまた軽い口調で訊ねた。

『ん。なんだお前か』

熊はこちらを見ると、すぐにまた空を見上げた。


 譲一がつられて空を見上げてみるものの、なにもなく。澄みわたった青空が見えるだけであった。


(なんもねぇじゃねぇか…)

譲一が空から目を外し蛇の方を見ると蛇も空をじっと見つめていた。


『なにか来るわね』

『あぁ…』

「…?来るってなにが」

再び譲一が空を見るもやはりなにもなかった。


 譲一が訳もわからず首をひねっていると、しばらくして何か音が聞こえてきた。およそこの山では聞こえないであろう音だった。


(なんだ…?)

空を見上げる譲一達の目にゆっくりと映ったのは2隻の飛行船のようなものだった。

地面から離れた上空にいるので確実ではないが、そこまで大きなものでもなかった。

 後方にはプロペラが回っており、音の正体はこれだと判った。


 

 飛行船は譲一達の真上で静止した。

少しすると船の後方で扉のようなものが開き、そこから次々と人影が飛び降りた!


「なっ!?」

飛行船から譲一達のいるところまでかなりの高さがある。そんな高さからロープもなしに重力に従い物凄い早さで落ちてきた。


 地面に激突するっ!と、譲一は思ったがそうはならなかった。

地面から数十センチ上の場所で、フワッとスピードが緩みそのままゆっくり着地した。


(もう驚かん…もう驚かないぞ…)

こんなので毎回驚いてたら疲れると思った譲一は気を取り直して、下りてきた奴らを見渡した。

なにやら国旗のマークのような物があしらわれているマントを羽織っていた。

 その中で見知った顔を見つけた。

譲一の元の世界で女の子を連れ去ろうとした二人だった。


「あいつら…!」

『あら、知り合い?』

蛇が訊ねた。

「俺がいた世界で俺をボコボコにした奴らだ」

『ボコボコねぇ…』



 集団の先頭に立ち譲一たちを見据えているのは青く長い髪が特徴の女だった。

鋭き眼光に思わず畏縮してしまいそうだった。


「バソー、アイツで間違いないのだな?」

「あぁ」

女の問いに隣に立つバソーは答えた。


「…お前の言うとおりなにも感じんな」

「アイツは俺に任せてもらうぞ」

「フンッ 今度は不覚をとるなよ」

「チッ…分かってる!」

 女が嫌味を言っているのが腹にたったバソーは吐き捨てるように言った。


 少し離れた場所にいる自分に赤っ恥をかかせた男を見据えたバソーは

「あの熊と蛇は頼むぞ」

そう言うと、一気に譲一へと迫った!


 譲一の腹部にすさまじい衝撃がきた。

「カハッ…!」

あの男が自分の懐に瞬時に入り腹を殴られたことが分かった。


「よく生きていたものだ。たが、もう加減はせん」

たまらず譲一は気を失った。

 

 譲一を乱暴に抱えたバソーは次のことを考えた。ここまではほとんど時間をかけずに行えることだ。


 問題はあの化物級の生物達である。

各国が関与することを禁止としている区域の内の一つである場所の生物が今、自分達の目の前にいる。しかも一体はその山の主である。


 ただで済むとは思ってない。ここにいる者達はそれなりの覚悟をもってこの場所にいる。

しかし、遠目でも何人かは臆しているのが分かった。


(無理もない…今、自分たちは殺される確立がとてつもなく高い状況にあるのだ)


 しかしそんな中で悠々とその生物を見据えている者がいた。


 ジェラル王国直属騎兵隊一番隊隊長

レイフィア・コーディナーである。


 18の歳で騎兵隊へ入隊。女でありながら群を抜いた強さで、21歳になるころには一番隊隊長へと就任した。


 結んだ長い青い髪が特徴的でスラリと背が高く、強さと美貌を兼ね備えており、憧れている者も多いという。


 レイフィアは熊を前にして一歩も引かない姿勢を見せた。


『……』

『あの娘凄いわねアンタ見ても全然怯んでない』

『勝手にワシの縄張りに入ってきてその上睨みをきかすとはな』

『あの子が来てから大変ね』

クスクスと蛇が笑っているのを横目に熊は一歩進んだ。


 どこの国の奴らかは知らないが自分の縄張りへと入ったということだ。

『出ていって貰うか、それとも…』


 明らかに熊の雰囲気が変わったのが分かった。レイフィアは自分の部下をチラリと見ると、全員がその変化を感じ取っており、呑まれている者もいた。


 レイフィアはスゥと息を吸い込むと


「ハァッッ!!!!!」気合いを入れた。

ビリビリと周りの空気が震えた。

 怯えていた兵士の震えが止まり、改めて目の前の生物達に向かい構えた。


「臆するな!今回は討伐ではない!」

凛とした声が、兵士達に響く。


「本来の目的を忘れず、各自 己の身を守ることを忘れるな! ……死にたがりは私の部隊にはいらん!」


 レイフィアの激励がまるで開始の合図のように熊が高々とあげた右足を降り下ろした!


 レイフィアは軽々と後方へ避け、懐から素早く何かを取り出した。

 拳銃のようなものだった。銀色がベースの色に黄金のラインが入っており。太陽の光りに反射して輝いて見えた。


 銃口を熊へと向けトリガーへと指をかけいつでも撃てる状態をとった。


「始まったか…」

 離れた場所から見ていたバソーはレイフィアが気を引き付けているのを見て、飛行船へと向かおうと足を向けた。


 瞬間、なにやら寒気がした。

(もう一体の蛇かっ!?)

ところが蛇はとぐろを巻いてこちらを見てはいなかった。どうやら、蛇の方はなにもする気がないらしい。


「じゃあ、誰が…」

その時、バソーは自分の左手が急激に熱くなるのを感じた!まるで火に炙られたような感覚であった。


「グッ!」

たまらずバソーは左手を振り払った。それにより抱えていた、譲一が地面へと落ちた。


「まさか…こいつか…?」

バソーは左手をさすりながら、倒れている譲一を見た。


 すると

「状況から見るによぉ、俺をどっかに連れて行こうってことだろうなぁ」


倒れた状態からゆっくりと譲一が立ち上がっていく。


「俺だってこんな山さっさとおさらばしたいし、さっさと元の世界に帰ってゆっくり布団で寝たいさ」

「こいつ…しっかり気絶させた筈なのに…」


詰めが甘かったのか?バソーは信じられないといった顔だった。

 加減はしてない。普通は簡単には起きないというのに。


「けどな、何も言わずにいきなり腹を殴られて連れていかれるなんてのはなぁ」


しっかり立ち上がった譲一は拳を握りバソーを思いっきり睨んだ。


「とんでもなく腹が立ったぜっっっ!!」

譲一の怒号が辺りに響き渡った。


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