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生きるため、死なないため

 譲一が山に来て1日が経とうとしていた。正確な時間などわからなかったが、1度日が沈んでまたしばらくして昇ってきていた。


 譲一が少女を助けようとしていたあの日は夜だったがこの山に来たときは、まだ日は昇っていた。

譲一が目を覚ますまでに時間が過ぎたのか、そもそも時間軸が違うのか、譲一にとってはもう、どうでもよかった。


 あの熊はあれ以来なにもしてこなかった。こいつがいるところで、自分の暮らしにはなんら影響がないとでも思ったのか、夜の時もこちらに背を向けて寝息をたてていた。

 譲一も今までとんでもないもの経験してきた反動がきたのか、疲れたので眠った。



 朝を迎えると、譲一は目を開け起き上がった。しばらくすると、熊も目を覚ましたのか、のそりと起き上がり周りを見渡した。譲一に目が留まると、


『なんだ、まだいたのか』

そう言った。


「下りれないからな」

『ふんっ、だがずっとここにいても、どうにもならないぞ。飯はどうする?水は?ここでは全て自分で見つけねばな』


熊はそう言うと、頂上である縄張りから出て山を下りていった。


「んなこたぁ、わかってんだよっ」

譲一は下りていく熊の背に向かって悪態をついた。


(どうする? あいつの言う通り、このままここにいたら飢え死にするだけだ…)


 譲一は考えた、このまま一気に下山なんてできないのは昨日身をもって知った。

良い案が浮かぶまではここを離れられない。


(死ぬわけにはいかねぇ…でも…)

どうやったら生きれるか、今までそんな局面など、遭遇したこともない譲一にとっては、考えなど簡単に浮かぶはずもなかった。


 その時、バキッ!!と大きな音がした。


譲一は何事かと思い、その方角を見ると同時に、何かが木々を突き破って吹っ飛んできた。それは譲一の目の前へと落ちてきた。


それはトカゲだった、そう、あの時譲一を襲った奴と同じなのかは分からないがあの大トカゲと種類は同じだった。


「…あ…あぁ…っ…」

驚きのあまり、声がよくでなかった。


 トカゲはピクリとも動かなかった。かっさばかれた腹からは、血が流れていた。


「死んで…いるのか……?」

譲一は少し近づこうとしたとき、

『おっと、触るなよ、ワシのもんだ』

熊が戻ってきた。前の片足には血を滴らせながら。


「な、なんだよ…コレ……」

『朝飯』

恐る恐る聞いた、譲一に熊はあっさり答えた。


 そして熊はそれにかぶりついた。血生臭い臭いがより一層強くなった。


なんども吐きそうになった。


やがて食事を終えた熊は、寝転んだ。


大トカゲは見るも無惨な姿となっていた。

皮は剥ぎ取られ、骨にはわずかな肉が残っているだけだった。


譲一の目はそのわずかな肉を捉えていた。

ヨロヨロと近づき、その前へと膝をついた。

熊は眠っているのか、こちらを見る様子もなかった。


 譲一はその肉に恐々、顔を近づけた。

鼻を突き抜ける顔を背けたくなるような血の臭い。


そして、口に入れた。


「…っ!! オェェッ…!ガハッ!」

たまらず吐き出した。とても食えたものでなかった。


なんども唾を吐いた。

「はぁっ、はぁ……はぁ…」


(生きるためにはこんなもんを食わなきゃなんねーのかよ…)

当然火もない、調理することもできないのだ。

涙がでそうだった。


それでも、もう一度、肉へと近づいた。


(生きるためだ…死なないためだ…こんな理不尽に振り回されて死ぬなんて絶対御免だ!)

必死に言い聞かせた。

そして、肉にかじりついた。

「っ!!!」

吐きそうになるも強引に口を閉じた。

口の中一杯に走る不快感。

あまりの辛さに涙もでた。


「うぅ……」

口の中にある肉をなんとか噛み砕こうと口を動かした。

そして飲み込んだ。


「だぁっ!! はぁっ……はぁ…」

量にしてみれば、ほんの一口サイズなのにかなりの時間を要した。


譲一は間髪いれずにもう一度かぶりついた。

不快感に身を悶えさせながらも食べた。

生きるために。


 少しづつ食べ続けるも限界を感じた譲一は少し離れて寝転んだ。

もうなにもしたくなかった。熊は相変わらず、背を向け寝転んでいた。


全身に鳥肌、悪寒、不快感が走っていた。


(食中毒になるなぁ……)

そんなことを思いながら、譲一は目を瞑り

しばらくたつと眠った。



起床してから2時間、少し遅い二度寝である。


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