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始末の方法

 ほんの少しの間、目の前が光によって真っ白だった。それが徐々に弱まり、目の前の風景が見えてきた。


 広い部屋、床には大きな絨毯が敷かれ、そこには紋様が描かれていた。

それ以外余計なものは置かれていなかった。


 ティーファにとっては見慣れた部屋だった。台座の上に立っている彼女は辺りを見渡した。


 あの時、自分を助けてくれた青年の姿はどこにもいなかった。


(やっぱり…一緒には来られなかったのですね…)

ティーファはうつむいた。


 本来、"門"は一人ずつしか通れない。あの時は二人で一気に通ろうとしたため、鍵を持っていた自分こそなんとか通れたが、あの青年は恐らく不安定な場所へと飛ばされてしまったのだろう。


門を正規の方法で通らなかった場合、どこへ飛ばされるかは誰にもわからない。

この世界には危険な場所も多い、ましてやあの青年はなんの力もない一般人、もしそこに飛ばされているのならば、命の保証はなかった。


「なんてことっ…」

 ティーファは己の無責任な行動を悔いた。

見ず知らずの自分を助けようとしてくれた。

ボロボロになりながらも立ち向かってくれた。

その人を、その勇敢なる青年をただ助けたい一心だった。

それが、自分が無理をしたばかりにさらに危険にさらすことになってしまった。


 すぐに捜しに行きたかった。しかし、そう簡単にはいかなかった。


ティーファの後方で光が射した。しばらくすると光がおさまり、自分を連れ戻そうとしたあの二人が出てきた。


「ご無事でなによりです」

一人が言った。青年と戦った者だった。


「私は、ですけどね」

ティーファは強調して言った。


「やはり、ここには来れていないようですね」

「私は今、とても自分が滑稽に思えますわ」

吐き捨てるようにティーファが言った。


「ともかく、国王に報告を」

一人が部屋から出ていった。


 しばらくして、数人が部屋へと入ってきた。


両端には腰に剣を携えた、この国の兵士であった。


中央にいるきらびやかな衣装に包まれているのは、国王ラークと王妃セレス、ティーファの父と母であった。


 父であるラークはティーファの前まで歩みよった。

鋭き眼光、オールバックにされた銀髪、筋骨隆々な身体。例え身内であっても萎縮してしまうような佇まいだった。


「お父様…」

「自分がなにをしたのか、わからないほど子どもではあるまい」

威厳ある重たい声であった。

「はい…」

「報告は聞いている、他所の世界の住人をこちらへ連れてきたそうだな」

「……」

「無断で門を私用に使っただけでも問題だと言うのに、あまつさえその先の住人をこちらへ連れてきた。他の国の王になんと説明すればよいっ」

荒げた声にティーファは身体をびくつかせた。


 少しの沈黙の後

「無事でなによりだった。怒鳴ってすまなかった、しばらく外出禁止とする。極力自分の部屋から出ないように」

そう言うとラークは踵を返し部屋を出ていった。


 ティーファはなにも言い返せない自分に腹がたった。自分の部屋へ帰ろうとすると、優しく肩に手を置かれた。

顔を上げると母であるセレスが少し涙を浮かべながらも、微笑んでいた。


「お母様…」

「本当に無事で良かった…」

「ごめんなさい…お母様…」

「あなたのしたことは簡単に許されることではないわ。でもあの人も私もとても心配していたのよ。だからしばらくはお父様の言うことを聞いてちょうだい」

セレスはティーファを抱きしめながら言った。

強張った身体がゆっくりリラックスしていくのを感じた。


「うん…」

小さく返事をすると、セレスは離れ

「さ、お部屋へ戻りましょ」

ティーファの背中に手を当て歩きだした。

「はい」

ティーファもそれに促されるように歩いた。





ーーーーーーーー

「国王、いかがなさるおつもりで?」

玉座の間には二人の人間がいた。

一人はジェラル王国国王、ラーク。

もう一人は大臣のベルゴールだ。


「……」

「門を使った。それだけなら王族ならば、と強く咎められることはありますまい。」

「……」

ラークは腕を組んだまま、なにもしゃべらない。


「ですが、禁忌である異世界の者を連れてきたとなれば…我が国の立場はかなり危ういものとなります」


 ジェラル王国の歴史は他の国と比べて浅く、一番新しくできた王国なのだ。


「他の王はあまり我が国を好いてはおらん。彼らは過去に揚げた武功こそが国の一番の名誉だと思っている。戦争をほとんど経験せず、政治と経済でここまで上がってき、国力においては他の国にひけはとらない。だからこそ、弱みを見せてはならん」


「異世界の住人を連れてきたとなれば、最悪、国の存続も危ぶまれますな」


「……セレスを呼んでくれ」

「かしこまりました」

しばらく考えたのちラークは言い、ベルゴールは部屋をでた。


 数分後セレスがベルゴールと共にやってきた。


「あなた、どうされました?」

「今後のことについて、話しておきたい」

「……そう、わかりました」

そう言うと、セレスは黙ってラークの言葉を待った。


「門が開いたことはすでに各国は分かっているはずだ」


 門を国の王族が使うのは可能である。しかし、


「同時に2つでた、これが問題ですな」

「そうだ。本来一人ずつしか通れない門を無理に通ると、正常な位置に来れるのは鍵を持っている者のみ」


2つ同時にでたということは、門にとって、異常が起きたということである。


「探ってくる者が出てくると?」

セレスは問いかけた。

「全ての国ではないが、そうだな」


「門を開いたのは我が国だと周りはもう分かっています、なぜ同時に門が現れたのか、正規の門ではない方を調べられて、異世界人が見つかれば……」


「国は責任を取らされ、存続できなくなる」

ベルゴールの言葉の続きをラークは言った。


「では、もうジェラル王国は……」

セレスは悲しげな顔を見せた。



「だが、なんとかできないこともない」

ラークは口を開いた。


「え?」

「どういう事ですか?国王」

セレスとベルゴールはラークに問いかけた。


「どの国よりも早く、その異世界人を発見し確保する」


 普通、門は正規のものであれば、現れた正しい場所がすぐに分かる。しかし、異常によって現れた門は発見するのに時間がかかるのだ。


「門の出現場所の特定は、今急いでやってもらっている。分かりしだいそこへ向かってもらうつもりだ」


「異世界人が来たことをなかったことにすると?」

ラークの意図を察したベルゴールが言った。


「そうだ」

ラークはベルゴールを一瞥すると答えた。


「もしバレたらそれこそ大問題ですぞ」

「だが、なにもしなければ、国は無くなる。今回の件での娘の不始末、私だけで拭えるものではない」


 ラークの目は決意をあらわにしていた。


 王室のドアをノックする音がした。


「入れ」

ラークが促すと、一人の男性が入ってきた。

兵士とは違い武装はしていない。


男は三人の前まで歩み寄ると一枚の紙を自分の前へだした。


「門の発生場所が分かりました」

静かな王室によく響いた。


「場所は?」

「それは……」

男は口ごもった。それを見て三人は嫌な予感がした。


「危険な…場所なのですか?」

セレスは恐る恐る聞いた。

「はい…」


「どこだ?」


男は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。

「ここから東へ100kmほど…平原の中で孤立している山…です」


「東の…孤立した山…?」

セレスは男の言葉を反復した。


ラークとベルゴールは顔をしかめた。

「よりによって……」

「あの"熊"がいるところですか……」

二人は絞り出すような声をあげた。


「もしかして、あの熊…?」

セレスはラークに聞いた。


「そうだ、全ての国が関与しないと決めている獣の一体がいる山だ」

肘をつき額に手を当てラークは言った。


誰も喋らなくなった王室に暗い雰囲気が漂った。



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