必死の決断
息が荒い、肺が引き裂かれそうだった。
誘拐犯らしき二人の男と少女は譲一を見て驚いていた。男達は俺の方を見て何か話している。
少女の方は目立った傷はなく、ヒドイことはされていないようだった。
「何者だ?貴様?」
男の一人が尋ねてきた。
「その女の子…どうするつもりだ?」
「普通の人間には我々のことは認識できないようにしている。なぜ貴様はここにいる?」
男は譲一の問いかけには応じず質問を投げかけた。
(…何を言ってるんだ…?こいつらは…
さっきのアレを見たから普通じゃあないのはわかるが)
「どちらにせよ、我々のことが認識できるのなら、このまま帰すわけにはいかんな」
男の一人が、構えた。
「っ!おやめなさいっ!」
少女が叫んだ。
男はそれを聞かず、譲一の目の前まで迫った。
譲一と男の距離は10Mはあった、それが一瞬で詰まったのだ。
「ッ!」
譲一は驚愕しとっさに守りの体勢をとろうとしたが、遅すぎた。
真上から殴り抜かれ、地面に叩きつけられた。
譲一を中心とし屋上の床に大きく亀裂が入り、そして、砕けた。
「…ガハッ!」
頭部に激痛が走った、なぜ自分の頭が砕けてないのか、不思議だった。
ビルは四階建てであり、譲一は四階へと落ちていった。
パラパラと破片が落ちる音がする。その音の中、ストッという軽やかな足音が聞こえた。男も四階へと降りたのだろう。
譲一の視界は床のコンクリートしか見えなかったが、わかった。
身体のそこらじゅうが痛む中、譲一は立ち上がった。
「ハァ……ハァ…」
頭から血が流れる、流血が右目へと流れこんできた。
「ッ…クソッ!」
ぬぐっても、ぬぐっても、容赦なく血は右の視界を奪っていった。
残った左目で男を見ると、少々驚いた顔をしていた。
「ほぅ…耐えているのか…ただの一般人が」
「……」
「頑丈なんだなっ!」
男は飛び込んできた、またも一瞬で間合いを詰めた。
譲一の顔に左足の蹴りが飛んでくる。
なんとか腕でガードをするも、衝撃が顔へと伝わった。
「グッ… オラァッ!」
譲一は身体を右にひねり、男が下げようとした左足めがけて左拳を繰り出した。
鈍い音を立て男の脛に拳は叩きつけられた。
「グァッ…!」
今度は男の方がうめき声を上げた。
(人間離れした奴でも弱い場所は一般人と変わんねぇな…)
男が脛を押さえ体勢を低くしているのを狙い、譲一は蹴りを繰り出した、顎を狙って。
(まともにやりあって勝てる相手じゃねぇ…! 急所を叩くっ!)
男は迫ってくる右足に気づき、守りのため腕を上げたが、譲一の方がわずかに早かった。
「オンドラァッッ!!」
気合いの叫びと共に譲一の右足が男の顎にクリーンヒットした。
男は膝をついた、足が小刻みに震えていた。
(脳が揺れて立てねぇはずだっ…立つんじゃねぇ…)
祈る思いだった、立たれたら終わりだ、今までは興奮状態だったから、身体の痛みを我慢できた。だが、それも時間切れだった。
麻痺していた痛覚が徐々にはっきりしてきた。激痛が走る、たまらず譲一も座りこんだ。
「何をしている?」
声と共にもう一人の男が降りてきた。
譲一の背中に冷や汗が流れる。
もう一人を相手にするほどの力なんか、もう残ってなかった。
「あと3分ほどで『門』が開く、さっさと終わらせろ」
「分かってるっ…」
男は膝を押さえながら立ち上がった。
(立ちやがった…クソッ…)
男はゆっくりと近づいてくる。
「なかなか効いたぞ…少々なめていた」
「…」
「だが、お別れだ」
男が手を振り上げる。
「やめなさいっ!!」
澄んだ声が響き渡った。
譲一が顔を上げると、綺麗なドレスが視界に広がった。
あの少女だった。
「ティーファ様…?」
「これ以上、この方に手をだすことは、許しませんっ!」
ティーファと呼ばれた少女はピシャリと言い放った。
そして、ティーファはあるものを自分の前にかざした。
(鍵…?)
「そ、それは『門』の鍵!」
「ティーファ様、まさか!」
男達がうろたえ始めた。
「なりません!ティーファ様!そればかりは!」
「いいえ、あなた方がこの方を殺すと言うのなら、私達の世界へ連れて帰ります!」
「それがどういう意味なのか分かっておるのですか!」
「もちろんです…ですがこのまま見捨てることなどできません!」
ティーファのかざした鍵は徐々に光を強くしていく。
薄れゆく意識の中、譲一の耳には
「ごめんなさい…」
と悲痛ながらも綺麗な声が聞こえた。
視界に広がる眩い光に目を開けてられず、譲一は目を閉じた。
そして、譲一の意識は途絶えた。