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不幸な後の出合い

 蒸し暑い金曜の夜だった。

道行く人は不快感を覚えながらも、仕事終わりの開放感や、冷房のある我が家に帰るべく歩く足が早い。


 そんな街の中、遠慮なしに電光を光らせている建物の中から一人の男が出てきた。

この建物から出てくる人間は大抵二種類に分かれる。

大勝を飾り、清々しい顔で出てくる者。大敗を喫し、死んだような目で出てくる者。


 男は後者であった。

名は桜庭(さくらば) 譲一(じょういち) 歳は26

(負けた…)

少ない軍資金で夢を見て散ってしまった男である。

(あ~、最初は調子良かったのによぉ~)

 財布の中身を見ると400円しかなかった。

負けた悔しさと金のない虚しさが譲一の身体により一層暑さを感じさせた。

 胸ポケットの煙草を取り出すと、残り一本だった。

(こっちもしけてやがる…)

溜め息をつきながらも最後の一本を吸うために喫煙所を探しに歩き出したその時だった。


「イヤッ! 離して!」

周りの喧騒が飛び交う中、ハッキリと譲一の耳に届いた女の叫び声。

 何事かと辺りを見回すと、その場には似つかわしくないドレスのような服装の銀髪の少女が、人気の少ない場所で黒服の男二人に捕まっていた。

(なんだ? 誘拐か?)

初めての光景に譲一も驚いていた。


 すると、少女が糸の切れたように崩れ落ちた。

どうやら気絶させられたようだ。


「おいっ早くしろっ」

「分かってるっ」

男二人は少女を担ぐと10Mはあるであろうビルの屋上へと飛んだ。


「なにっ!?」

譲一は驚愕した。

今、自分の目の前で信じられない光景が目に映った。

(どうなってんだっ? 訳がわからねぇ!)


 さらに、いくら人気がないとはいえ、多少は人が通っている。

だというのに、今しがた起こったことに誰も気にも留めてないようだった。

(気づいてないのか…?)


 少女が連れていかれたのは、誰も使っていない廃ビルだった。

今、譲一はその入口に立って、ビルを見上げていた。


(どうする? 警察に連絡? ダメだ、どうやって説明する? 助けに行く? 俺が? 10Mもジャンプするような、わけのわからん奴等に向かっていくのか?)


 こうしている間にもあの少女は危険な目にあっているのかもしれない。そんな考えが譲一の脳裏をよぎった。


 「くそっ!」

譲一はビルに入り階段をかけ上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「ーーーーっ」

「ーーー」

誰かが近くで喋っている声で私は目が覚めた。


 頬にひんやりとした感触がありだんだん意識がはっきりしてきた。

そうだ、あの二人に捕まって…

「っ!」

 首の後ろに痛みがあった。

気絶させられたんだ、そうわかった。


「目が覚めましたか」

「……」

私は何も答えなかった。

「あまり困らせないでください。貴方がこの世界にいることはとてつもなく異例なのです」

男の一人は丁寧な口調で言う。

 

「手荒な真似をして申し訳ありません」

「いいえ、あなた方だって仕事だものね」

「そんなことは…」

「いいのよ。面倒をかけました。もっと叔父様の言っていたこの世界を見てみたかったですが…」


「おい、もうすぐで準備が整う」

「そうか、あとどれぐらいだ?」

「10分といったところだ」


 あぁ、短い冒険だった。


 その時だった、私達のいる屋上から下への階へとつながる扉が大きな音をたてて乱暴に開いた。

私が驚き向くと一人の男が膝に手をおき大きく息を荒げていた。


「ハァ、ハァ…ハァッ!」


「なんだあの男」

「わからん、見えないようにしてあるんだろ?」

「あぁ、こちらを認識できないようにしてある」

「じゃあ、なぜここに来たんだ」

「たまたま来たとか……?」

「そんな、バカな」


 突然の事態に二人は動揺している。それは私も同じだった。

私と男達を交互に見ている。こちらが見えているとしか思えない。


 息が整ったらしく、前傾だった姿勢が伸びた。それでもまだ早い呼吸をしていた。


「ハァッ…! 煙草やめようかな……」

男はそう言った。

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