第2話 これなんてアニメ?
頭がぼんやりする。
視界が黒一色だ。
失明したか?
なんて思ったけどそうじゃない。
周り自体が暗いと分かった。
「えっと、明かりになる物は・・・。」
自慢じゃないがこちとら震災経験者だ。
何と言われようが必要最低限のものはベルトのポーチに入れてある。
ペンライトを取ろうとするが暗がりで良く分からない。
手探りで一生懸命に探しているとやっと手にそれらしき感触を得る事が出来る。
ペンライトを点けると自分がえらく広い場所にいるのが分かる。
「・・・ここ何処なのよ?」
「エクセリオンの格納庫の中です。マイマスター。」
いきなり声をかけられて飛び上がらんばかりに驚く。
気配など無い。
この気配を察する能力だけは達人以上の自負がある。
震災で難を逃れる事が出来たのもこの能力のおかげだ。
拳法の師匠もこの能力で常に回避を取る事が出来る事に呆れるぐらいなのだ。
ペンライトをその方向に向けると恭しく礼をする老執事の姿がある。
喉が引きつる。
だって向こうが透けて見えるんだもん。
所謂、フォログラフィとかいうやつか?
それともまさかの幽霊?
勇気を出して声をかける。
「失礼ですけど、お宅どちらさん?」
「私はこの万能戦艦エクセリオンのメインコンピューターのアルバートと申します。これからよろしくお願いします。」
セバスチャンじゃねぇのか・・・。
阿保な事考えてる場合じゃねぇな。
話は通じそうだし帰してもらおう。
「あのー、俺家に帰りたんだけど?」
「質問の意味が理解できません。マスターの家はこのエクセリオンであって他に住所と呼べるものはありません。」
あっ! やばい! これそっち系の人だ。下手な刺激をするととんでもない事になりそう。
でもなんで信用できそうとも思うんだ?
不思議・・・。
「と、とりあえず明かりのあるところの行きましょう? ね? ね?」
「了解しました。明かりを付けます。」
そう言うと目が眩むほどまばゆい明かりがともる。
目が慣れて来ると目の前に鋼の巨人が何体もいる。
金色や銀色、白や黒、さまざまの色の巨人が存在する。
見たことがある。
知らないなどと言えない。
MUSHAで作ったロボットたちである。
自分でもはっきりと頬が引き攣るのが分かる。
どうやら今話題の異世界転移と言うやつを俺は経験しているらしい。
しかも行先は良く知るゲームの中と来たもんだ・・・。
アルバートさんの案内で部屋に案内された。
いわゆるブリッジと言う所に。
「どうぞお座りください。」
そう言って席を進めてくれる。
いかにも偉い人が据わる様にできている席。
「そこって艦長の席ですよね?」
「この戦艦はマスターの物です。艦長席に座るのが道理です。」
いや、そんな事ないと思うけど・・・。
有無を言わせぬ迫力で艦長席を進めて来る。
ホントどうしよう。
迷った末に腹を決めて艦長席に座るとアルバートさんが何処となく満足そうだ。
とりあえず現状確認をしよう。
「えーと、アルバートさん?」
「どうぞお気軽にアルとお呼びください。」
「え? あ、はい・・・。アルさん。」
「マスター。アルです。」
どうやらさん付けが気に入らないらしい。
ええい! 染まったれ!
「では、アル。」
「何でしょうか、マスター。」
「俺がここにいる理由を教えてほしい。」
「情報が不足しすぎています。回答不能です。」
「・・・。」
え? 何こいつ? 今なんて言った?
「えっと、つまり分からないという事?」
「予測もつきません。圧倒的に情報が不足しています。私達が今どこにいるのかさえ分かりません。」
こう言われてブリッジの窓から外を見る。
星が瞬いていない。
俺、宇宙空間にいるのかな?
「ちなみにアル、外って宇宙?」
「それすらも不明です。私も気が付いたらこのエクセリオンのメインコンピューターとしての自我があるだけでした。ちなみに外には酸素がありません。」
予想の上をいかれた。
迷子ってどういう事よ・・・。
「食堂にトイレ、シャワー室にトレーニングルームに遊戯室。なんでもござれだな・・・。」
俺、エクセリオンにこんな機能があったなんて知らなかった。
きっと設定資料とかあれば「こんな風になってます」とかみたいに載ってるんだろうな・・・。
エクセリオンの中を一通り見て歩いた。
まるで某アニメのようだ。
ブリッジに戻るとアルが恭しく礼をする。
「マスター。ご報告があります。」
はいはい、何でげしょ。
「救難信号をキャッチしました。」
・・・とりあえず助けようか?
「無理です! 絶対無理です!」
俺は激しく拒絶の意思を表示した。
だって、暗礁岩礁地帯だからエクセリオンでは入れないとの事。
じゃあどうするの?って聞いたら何ともふざけた回答が来た。
「マスターが自ら機体に乗って助けてください。」
こちとら震災を始め幾つもの危ない橋を渡った事があっても流石にロボットの操縦なんてやった事が無い。
やった事があるのは飛行機の操縦シュミレーター位だ。褒められたけどね。
とにかくやった事をない事をやれと言われた。
激しく拒絶をしたが次の一言で意を決める。
「助けを待っているのですよ?」
『助けてくれ!』
震災時に目の前で死んでいった人の顔が浮かぶ。
クソッタレ! 行きゃあいいんだろ!
「操縦できてるわ・・・。俺・・・。」
何故か知らねぇけど操縦桿の動かし方が分かる。
どうなってんだ? 一体・・・。
とにかく変形機能を持つ機体を巡航モードにして救難信号の発信源に向かう。
場所を確認してアルの言い分に納得する。
確かにこんな所に突っ込むとどえらい被害になるな。
鬼神や闘神なんてワンオフ機も入れるわけにはいかない。
だって修理の部品が足りなくなるもん。
だからこの量産機「サムライ」で行く事になった。
こいつなら一機ぐらいなくなっても痛くも痒くもない。
そうして点滅する光を見つける。
「お! 発見! 発見!」
言葉通じるかな? ここにきて変な外国語とか嫌だぞ? 一応主要六か国語は話せるけど・・・。
よく見てみると破損が激しい。
(戦争してるんだな・・・。)
俺にとっては懐かしい記憶だ。
救難信号を発している機体に接触し会話をしてみる。
あれ? 何で接触すると会話が出来るって知ってるんだ?
「救難信号を受け取った。こちらは民間機だ。」
口も滑らかに動く。なんで?
「こちらはメルフィル王国宇宙軍所属のイリーナ・カルッシャ少尉です。救難信号を受けて助けてくれた事を感謝します。」
「間に合ってよかった。本艦に連れて行く。巡航モードになるから掴まってくれ。」
「本艦? じゅんこうもーど? 掴まる? 一体・・・。」
とりあえず一旦離れてサムライをロボットから巡航モードに変形させる。
こっちの方が燃費が良いんだよね。
「取っ手が迫り出しているはずだ。それに掴まれ。」
接触回線時に相手の周波数を受け取ったから通信が楽になった。
・・・何でこんな事出来るの? 俺?
「変形機能を持つ機体!? こんなの本国の精鋭部隊にも配置されていないわ! 貴方は何者ですか!?」
俺が聞きたい・・・。
岩礁暗礁地帯から無事要救助者を拾ってこれた。
良かった、良かった。
でもあんなトコ行くからサムライが傷だらけ。
ナンボ量産機で使い捨てにするつもりでも可哀相。
やっぱり修理してあげよう。
エクセリオンの格納庫に入った。
アレだけいたロボットの群れは何処かに消えた。
きっとアルが気を利かせて隠してくれたんだろう。
格納庫のシャッターが閉められて空気が格納庫内に満たされる。
そうしてお互いに機体から降りる。
あれ? よく見ると相手の機体アシガルじゃん。それも相当古いヴァージョンの。
この間ヴァージョンアップされて結構強くなったはずだよね?
何で古いヴァージョンなのよ?
そんな風に考えていると相手はもう機体から降りている。
パイロットスーツのヘルメットを脱いで顔を見せる。
うん、美人だ。
ただ、頭の上に見たことも無いものがのっかてる。
知識としては知ってるよ?
でもリアルでは見たことが無いよ?
ホントだよ?
獣耳なんて初めて見たわ・・・。
俺も慌ててヘルメットを脱ぐ。
挨拶を交わす。
やっぱり初めての印象って大事だよね?
「初めまして。本田善人です。ヨシトと呼んでください。」
だけど相手は固まったまま。
獣耳がピクピク動いてる。
ホンモンだろうな・・・。
もう驚かない。
でも次の言葉でお驚いた。
「純血種の方が何故ここに居られるのですか!? 地球が滅んでから五百年、純血種の方は絶滅したはずです!」
地球が滅んでるのは想定外だったわ・・・。