コップ一杯の欲望
砂漠には熱風が吹き、旅人を苦しめる。じわじわと乾燥する大気が小さく嘲る。
男の身体は乾燥していた。全身からの汗は供給を止め、1ヶ月なにも口にしていない喉には血さえ滲まない。
周りにはもちろん飲み水はない。
もう限界だ……。男の膝が崩れ落ちた時、視界の端に動くものが見えた。
それは、人のような姿をしていた。していた、そう云うからには人ではないのだろう。
「旅人よ…。お前の望みはなんだ?」
「参ったな…遂に神様が迎えに来やがった……。で?いい神様なわけないよなぁ…その姿じゃあ。」
「神?我は悪魔である。願いを云え。」
「取り敢えず飲み水をくれ。こっちは1ヶ月なにも口にしてないんだよ!」
「わかった。」
そういい悪魔は何処からかコップ一杯の水を持ってきた。
「これを今飲んでも構わない。しかし、これを3日間飲まなければこの水を何百倍にもしてやろう。」
悪魔はそう言って熱風と共に去っていった。
旅人は遭難者である。今すぐにコップの水を飲み干したい。しかし、今後のことを考えると我慢する方が得策だ。今迄1ヶ月も我慢したのだから3日ぐらい訳はない。そう考えた。
人は理不尽な生き物である。存在しないものは諦め切れるが、それが目の前にあると別だ。
男は3日間苦痛と欲望に耐えながら過ごした。
悪魔は少し微笑み現れた。
「お前なら出来ると信じていた。約束通り水を増やしてやろう。」
コテージほどの大きさの巨大な樽。そこに飲み水が百年は困らないであろうかというほどに並々と注いである。
男は一心不乱に飲み干し、一つ悪魔に尋ねた。
「こんなに大量の飲み水、どこから?」
「何処かの砂漠の水脈を奪った…。」
悪魔はそう言い、去っていった。
オチを書き換えました。