お前を愛することはない?やめてそれは私の黒歴史よ!
私は今日、公爵家に嫁いできた。
家と家の繋がりを強めるための結婚。
それは貴族の義務。
私も伯爵令嬢として納得してるわ。
例え夫となる相手が不服に思っていてもね。
夫は他に愛する相手がいると隠してもいないけれど、それについてはどうでもいい。
私は家を守り、女主人としての仕事を熟すだけだもの。
「私がお前を愛することはない」
初夜の場で夫となった男が言う。
この男は貴族の義務をなんだと思ってるのかしら。
どうでもいい相手でもこう言われると不愉快なものなのね。
はいはいと呆れる頭の片隅で、何かがパチリと弾けて目を見開いた。
『あなたなんて愛さない。私の愛が得られると思わないことね!』
浮かんでくるのは、前世……の、私……?
え、なにこれ。こんな恥ずかしい台詞を吐くのが私……?
『結婚なんてしないわ!パパにお願いしてすぐ取りやめてもらうんだから』
『この私にあんたなんかが触れていいと思ってるの?』
なにこれ
なにこれ!?
「やめて……」
顔が熱い。
込み上げる羞恥心に両手で顔を覆う。恥ずかしくて死にそう。
それをどう勘違いしたのか、夫が嘲笑を浮かべた。
「ふん、愛されると思っていたのか?私が愛するのはただ一人、マーガレットだけだ!」
「私がお前に触れることはない!」
やめて!前世の私と重なるようなセリフを吐かないで!
あの頃の自分を見ているようで本当に耐えられない。
貴族令嬢じゃなかったら奇声を上げながら床をゴロゴロと転がってしまいたい……!
恥ずかしい!
恥ずかしいわ!
「この私の……」
「うるさい!!」
ごちゃごちゃ恥を吐き続ける夫にとうとう怒鳴ってしまった。
「な、なん……?」
「っこの!恥知らず!」
「は……?」
「真実の愛だとかどうでもいいわよこっちだってあんたなんて愛してるわけないでしょうふざけた事言いたいならせめて愛される人間になってからにしてちょうだい」
はあ……はあ……。
ノンブレスで言い切ったから苦しい。
息を整えて、また大きく息を吸い込む。
「この結婚は政略よ。公爵家が国の指示で進める事業に伯爵家領地の港を利用する。永く円滑に事業が進められるよう、両家の結びつきを強くするためにこの結婚が整えられたのは知ってるでしょう」
「王家も関わることなのに真実の愛だとか馬鹿なの?死にたいの?自分で愚かさを見せつけてくるなんて私は今恥ずかしくてあなたより先に死にそうよ」
「結婚させるのが親の愛だとわからないの?あなたみたいな愚か者でも仕事だけはできるから、私に頭を下げてまで結婚させて生きていけるようにしたんでしょう」
言いたいことを言い切って上がった息を整える。
夫は……顔が真っ赤で口をぱくぱくさせてるわ。
本当に恥ずかしい人ね。
でも私の前世もこの人と同じくらい恥ずかしい人間だったなんて。
嫌だわ。穴があったら入りたいわ……。
前世の私は、父の会社が傾いたにも関わらず傲慢に振る舞って、最後の愛情だった結婚の話を壊して幸せじゃないまま死んだ。
愚か者の末路ね。
ああ、夫の顔を見るたびに前世の恥を思い出すから直視できない。
枕に顔を押し付けて高音で叫びたい。
足をバタバタさせたい。
私は離れに住みましょう、そうしましょう。
でないと貴族としてあるまじき醜態を晒してしまうわ。
***
離れで心を落ち着かせる私に、なぜか夫が会いに来てかくれんぼが始まるのは一週間後のこと……。
逃げたいのに、過去の恥が追ってくる恐怖。
前世の恥と今世の恥が、向き合って精算する日は近い、かもしれない……。




