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魂を輪廻に帰す者【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/07

ガキの頃から、よく『見えた』。

見えなくていいものばかり見えてきた。

園児の親と不倫している担任の先生。

母親の金を盗んでいく母親の彼氏。

それから、幽霊、妖怪、死後の行方を迷っている魂。


そんなものばかり見えるから、俺の人生はいつも腐っていた。

魂の見えるジジイに拾われてからは、これが仕事になっているけど。

生きていくのには、金がいる。

それだけで、高尚な理由もない。

ただ、この世を彷徨っている魂は、輪廻に帰った方がいいとも思っている。

見えるから仕方なく、俺はその手伝いをする。


「どらやぃ、どらやぃ」

「どら焼きな」

手土産のどら焼きの箱を頭に乗せて、コンが早くよこせと言ってくる。


コンは、俺の子どもではない。

5歳くらいの人間の男の子に化けているだけで、本来はただの狐の妖だ。

コンは人間の魂を食べたいがために、俺のそばにいる。

生きている間にろくな生き方をしていない人間の魂が、美味しいんだと。

盗み、詐欺、人殺し、それよりも惨い何か。

そういう諸々を背負い込んで死んだ魂は、大抵どす黒い色をしている。

コンはそれが好物なのだ。

彷徨う魂を輪廻に戻すのが、俺の仕事ではある。

だが、依頼主はその工程がまるで見えないわけだ。

輪廻に戻して生まれ直しても、結局は同じことを繰り返すような魂の色はなんとも醜い。

そんな魂を送ってやれるほど、俺はいい人間ではない。

だから、それをコンが食っちまっても、俺はとやかく言わない。

コンがそばにいれば俺は他の妖に脅かされないし、対等な関係ではある。


「コン、どら焼き大事に食えよ」

「やだ」

「『見えないからぼったくりだ』って言って、依頼料を置いていかなかったんだから仕方ねえだろ」

「金ないの、お前が悪い」

「その見た目で可愛くないこと言うなよ…」

「コン、人間の魂食うから問題ない」

「尚更、どら焼きは俺のために取っておけよ」

「…もぐもぐ」

「この野郎」

はあ、と俺は畳の上に寝転んだ。

言ったそばから2個目を食ってやがる、この大食い化け物が…。


俺がきちんと仕事をこなしたとしても、こういうことはよくある。

依頼してきたくせに疑われるのは、ジジイが生きていた頃からそうだ。

今や俺以外に見える人間がいないから、証明のしようもない。

さっきの依頼主が死んだあとに魂が彷徨っていたら、コンが食っちまいそうだな。

そして、俺も死んだら、彷徨う隙もなくコンが食うんだろう。


「スマホ、鳴ってる」

口の周りをベタベタさせながら、コンが俺のスマホを渡してくる。

画面には、いつもの葬儀屋の名前が表示されていた。

「…はい。あー、出ましたか。わかりました、向かいます。…はい」

電話を切って、3つ目のどら焼きを食べているコンに支度をするように促す。

「依頼だぞ、コン」

「魂、食べていい?」

「見てみないとわからん」

「けち」

俺は袈裟に着替えて、コンが喪服に着替え終わるのを待った。


「こちらのご遺体なんです」

「わかりました。あとはやっておきます」

葬儀屋に案内されたのは、一人のご老人の遺体だった。

死んだにもかかわらず肉体から出ていかない魂というのは、たまにいる。

そうすると、どういうわけか火葬まで事が運ばなくなる。

何かしらトラブルが起きて、葬儀が滞る。

そうやって見えない人間すらも不思議に思った時に、俺のところに依頼が来る。


「あの〜、もう死んでるので、無駄な抵抗はおやめになった方がいいと思いますよ」

遺体に呼びかけたが、返事はない。

…めんどくせえ。

「何か心残りがあるなら、お話聞きますよ」

『…』

「偏屈ジジイだ、魂が腐ってる。絶対美味しい」

本人がまだ残っているのに、なんてこと言うんだ、コン。

『誰が偏屈ジジイだゴラアアアア』

言わんこっちゃない。

でも、魂が出てきた。

『お前の子か!どういう教育してるんだっ!』

「んあー」

「馬鹿っ、食うな!」

『ぎゃああ』

コンが魂の端を咥えたから、慌てて離した。

「だって色汚い」

「これは性根が腐ってるだけで、犯罪なんかはしてない色だろ!食べるなよ!」

「…けち」

「で、あなたはどうして輪廻に帰っていかないんですか?」

大抵は、この世に残してきた個人的理由みたいなものがある。

「さっさと答えないと、こいつに食われますよ?」

もう脅しでもなんでもいいわ、早く解決して帰りてぇ。

『…リン』

「なんですか?」

「冷蔵庫のプリンを食べ損ねたんじゃあ!」

…しょうもな。


「ですので、可能なら棺にプリンを、無理ならお供え物にプリンをしこたま並べてあげてください」

「ご遺族にそう伝えておきます」

そう言って葬儀屋は、正規の依頼料を支払ってくれた。

これこそぼったくりと言われても仕方がない気がする…、仕事したけどな。

「帰るぞ、コン」

「…魂、食べられなかった」

「なんでも食えると思うな」

「帰ったら、肉食わせろ」

「馬鹿野郎。せっかく入った金なんだから、まずは光熱費だ」

「けちー!」

俺もジジイの墓参りに行かないとだな。

こんなに魂の色を汚しやがってって怒られそうだけど。




お読みくださりありがとうございました! 毎日投稿38日目。

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