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五行の花嫁  作者: 石田空


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5/11

襲撃と婚約の成果

 庭に急に使用人たちが入ってきた。


「撫子様、お取り込み中申し訳ございませんっ!」

「まあ、どうかなさいましたか?」


 ぜいぜいとイキを切らしている使用人たちは、陰陽師の中でも諜報活動をしている人々だ。彼らは五行の一族や拝み屋のような着物や狩衣など、霊衣を纏ってはおらず、洋装をしていた。


「……異形が現れました。一般の陰陽師だけでは手に負えません!」

「まあ……」


 異形は、そもそも怨霊や魑魅魍魎よりも力が強い。そもそも陰陽師の血が濃過ぎた結果生まれた存在なのだから、五行の一族のように血縁統制を行っていない陰陽師では手も足も出ないはずだ。

 黒斗は「おい」とほのかのほうに振り返る。


「……婚姻うんぬんかんぬんはともかく、今は皆、子作りの時期だ。人出が足りない」

「……そうだね。あたしらの場合、そういうのできないみたいだし?」


 ほのかは頷く。

 それに撫子は顔をしかめた。


「先程も申しましたが、おふたりの相性は最高と言っても差し支えありません。あなた方の使命に戻ったほうがいいかと思いますが」

「でも今は五行の一族で戦える者は限られていますから。我々が行ったほうがよろしいかと」

「撫子様、いろいろとお世話になりました!」


 ふたりは使用人たちに「異形が出た場所は!?」と聞いたあと、すぐに車を出させて瑞樹家を後にしてしまった。

 このふたりは性格的な相性があまりよろしくないだけで、陰陽師として敵を屠るということに関してだけは協調できる。そのふたりが残していった気配を見て、撫子は「ほう……」と溜息をついた。


「わたくしのようにはあまりなってほしくありませんから……あのおふたりはきちんと話し合ったほうがよろしいと思うのですが」


 占いを行い、きっぱりと結果は正しいと伝えたものの、それでも納得してもらえない以上は、納得してくれるのを待つしかあるまい。

 麒麟の巫女はどれだけ精密な占いができたとしても、人の心や思い込みを変えるほどに威力が持ち合わせてはいないのだ。


****


 車を走らせて三十分。

 本来、人通りの多い交差点に、異形が暴れていた。

 あちこちに張り巡らされた蜘蛛の巣。それに貼り付いている人々。


「助けて……!」

「おかあさん……!」


 親子がそれぞれ別の蜘蛛の巣に貼り付き、必死でもがいているが。大きさが違えども蜘蛛の巣は蜘蛛の巣。暴れれば暴れるほど、もがけばもがくほどに、糸は絡みついて粘液出身動きが取れなくなり、体はだんだん動かなくなる。

 そしてあちこちに張り巡らされた蜘蛛の巣を動き回る、上半身は女の裸体ながらも、下半身はまごうことなき蜘蛛のそれ。

 絡新婦じょろうぐも。人から生まれたのは思えないほど醜悪な異形が、ケタケタと笑いながら巣作りをしていたのだ。


「……絡新婦か」

「あれが餌取りしてるってヤバイじゃない」



 絡新婦が餌取りをしているということは、子供を孕んでいるということ。実際にあの異形の腹は、大きく膨れ上がっている。絡新婦は蜘蛛と同じような性質を持ち、餌取りをはじめた段階ですぐに始末しなければ……絡新婦は絡新婦を産み、人を食らって更に数を増やしていく。蜘蛛の子が散ったという言葉通り、絡新婦の子が一度でも散れば、最悪村ひとつ、町ひとつくらいは簡単に壊滅できる。

 黒斗は着流しの中から式神を取り出すと、ほのかに言う。


「絡新婦を倒すには?」

「……火の術式を叩き込んで、巣を焼き払う。巣をこれ以上増やされたら、あいつの足場が増えるから……」

「巣を破壊した直後、すぐに脳天を焼き払う。焼き払うのは朱雀の力だろ」

「……あたし、術式そこまで得意じゃないのは知ってるでしょう」

「……そうだったな」


 ほのかの刀に、黒斗の式神が貼り付く。


「貸しひとつだ。それでさっさと焼き払ってこい」

「……あんたのそういうところ、ほんっとうに嫌い」


 それだけ言うと、ほのかは刀を構えて、一気に高く飛んだ。

 彼女の刀は霊験あらたかな霊剣だ。それに黒斗の術式を乗せる。途端に炎が彼女の刀の中で生まれる。


「離しなさい……!!」


 巣にジュワリと熱が広がる。熱が広がれば、蜘蛛の巣は脆い。そこに貼り付いた人々が慌ててそこから飛び降りると、我先にと逃げはじめた。

 それに絡新婦が慌てる。


──待て、逃げるな……!


「逃げるに決まってるでしょう!? ふざけてるの!?」


 そう言いながら、巣を次々と焼き払ったほのかは、その刃を絡新婦に向ける。絡新婦は俊敏な動きでほのかから距離を取ると、そこに立ち尽くしている黒斗に目を留めた。

 彼はわかりやすい得物を持っていない。それににやりとすると、絡新婦は臀部を向けた。臀部からは糸を吐き出す口がある。それで粘液で黒斗を鎮めようとしたが。彼は予見していたように、臀部目がけて式神を解き放った。


「やっとこっちを向いたか狙いやすい」


 その式神に仕込まれていたのは、雷の術式。


──アガガガガガガガガガガアッ!!


 それを見た途端、ほのかは「うわあ」と言いながら刀を構えると、一気に振り下ろした。


「ご苦労様……!!」


 袈裟斬りに切りつけた異形は、一気に瓦解し、崩れた。陰陽師の血は、本来は怨霊や魑魅魍魎と戦うために血縁統制して力を蓄えたものだが。異形は姿形が人間から外れたせいなのか、一点特化の能力以外の陰陽師の力は異形の代を重ねるごとに衰え、最終的には切り傷ひとつで朽ち果てる。

 大量に町の人々を餌にしようとする事件は、あっという間に片付いてしまった。


「……本当に、あんたがあれにさっさと捕まって助ける人間増やす真似してくれなくってよかった」

「俺は得物が不得手だから、それくらい対策はする」

「そっ。でもまあ……その力は相変わらずすごいのね」


 そう言いながらほのかは刀を鞘に納めた。

 正直ほのかは認めたくないことだった。


(今まで組んできた術者の中で、玄冥が一番やりやすかった……)


 ほのかの刀の振るい方を邪魔することない補助の術式。下手に術式を付与すれば、そもそも炎だったら手に火傷を負うし、雷だったらほのかも感電しているが。彼はきっちりと刀身にだけ術式を付与したのだ。彼が大したことないように使った術式は、与えられた本人が一番大したことじゃないことを痛感している。


(……こいつはさっさとちゃんとした相手と子をつくればいいのに。いや、撫子様はその相手があたしだって言っているけど。あたし、普通にこいつとなんかして大丈夫なの?)


 撫子に何度大丈夫だと言われたとしても、ふたりの一族の持つ力が互いを食い合う関係。それで関係を持つのは、いくら戦いに明け暮れているほのかだとしても、恐怖を覚えても仕方のないものだった。

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