対立
部員たちが散っていく夕闇のの中の部室前
宮下「監督……何で僕はレギュラーじゃないんですか。僕に足りない何かがあるんですか」
突然の声に、原田は一瞬だけ目を丸くした。
(へぇ……やっと来たな)
口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
原田「一言で言えば──今のお前に魅力を感じない」
宮下「なっ……いやだって、僕はこの守備的チームで大部分のエリアをカバーしてます。守備力も、守備範囲も、高さだって僕が一番で……それに僕はキャプテンで──」
原田「何回も同じこと言わせんな」
低い声が、冷たい風を切った。
原田「俺は、お前に魅力を感じない。それだけだ」
宮下「……じゃあ、僕にどうしろと」
視線を落とす宮下。
原田は鼻で笑い、肩をすくめた。
原田「まあ、わざわざ呼び出してまで言いに来たんだ。この“良い子ちゃんチーム”の中でな。それだけは褒めてやるよ」
原田「そんなお前にチャンスをやる。来月のリーグ戦、4戦で──失点を2以下に抑えろ」
宮下「……!」
原田「埼玉2部だろ?格下ばっかじゃねぇか。それくらい、できるよな」
宮下の奥歯がきしむ。
宮下「……やります」
(ヤバ……これ、私聞いて大丈夫だった?)
美里は引きつった笑みを手で隠した。
⸻
蒸し暑い風がグラウンドを抜ける。
傾き始めた陽射しが、ピッチをオレンジに染めていた。
宮下「俺が行く!」
ズサッ!!
スパイクが土をえぐり、砂煙が舞う。
次の瞬間、松井の足元からボールが弾き飛んだ。
松井「うっ!」
(クソ……もっと速く!速く判断を!)
「宮下ナイス!」
宮下(……やってやる。俺はキャプテンなんだ!)
胸の奥で、何かが燃える。
そんな宮下を、原田は細めた目で見ていた。
(……気合いだけは一丁前だな)
原田「お前ら!もっとオフザボールでも頭使え!もっとパサーの“選択肢”に入れって言ってんだよ!」
原田「一ノ瀬!お前も指示出せ!この先、それができねぇと通用しねえぞ!」
ベンチ脇。美里がこっそり原田を見上げる。
美里「宮下君、めっちゃ気合い入ってるね。……もしかして、これが監督の狙い?」
原田「お前……聞いてたのか。まあいいや」
ポケットに手を突っ込み、原田はピッチを見つめる。
原田「……気合いだけで守れるほど、守備は安くねえよ」
美里「え?じゃあ何であんな条件を?」
原田は、不敵に笑った。
原田「楽しみにしてろよ。リーグ戦で分かる」
⸻
プレーの音は消え、照明だけがピッチを照らしていた。
一ノ瀬「宮下、お前、気持ち入りすぎだよ。全部ボール取らなくても──」
宮下「お前、レギュラー取れたからって良い気になるなよ。お前のパス通るようになったって、点取れてねぇじゃねぇか」
一ノ瀬「別に良い気になってる訳じゃ……」
宮下「来月のリーグ戦、どっちが上か分からせてやるよ」
一ノ瀬は眉をひそめ、首をかしげた。
一ノ瀬「いや、役割が違うんだから、上も下もないだろ」
宮下「……ちっ」
吐き捨てた声が、照明に切り裂かれる。
その背中には、執念の影が伸びていた。
(宮下さん、荒れちゃってるよ〜)
美里は、笑いをこらえた。




