部員と麻雀
原田「……おい、お前……松井!?」
煙草の匂いがしみついた雀荘「大三元」の奥。
静かな牌の音が、一定のリズムで卓を叩いていた。
松井が、慣れた手つきで牌を並べている。
その落ち着きぶりは、ここが彼にとって“たまたま入った場所”ではないことを雄弁に示していた。
松井「……あ、監督すか。どうも」
顔を上げた松井が、軽く会釈をした。
原田「……どうもじゃねえよ。ガキが来る場所じゃねえぞ、ここは」
松井「いや、まぁ……すみません。でも、ここ落ち着くんすよね」
原田は眉間にしわを寄せたまま、煙草を取り出す。
原田「落ち着くねぇ……」
その隣で、卓を囲んでいた常連の男が笑いながら言った。
常連「原田さんの知り合いかい? そら強いわけだ。もう俺の財布、すっからかんだよ!」
原田「……まあ、知り合いみたいなもんだ」
そう言いながらも、視線は松井の手元から離れない。
原田「親父。個室、空けてくれ」
──数分後。
原田、松井、そして原田の馴染みの常連二人が、個室の卓を囲んでいた。
室内は静かだった。ただ、牌を切る音と点棒のやり取りだけが、淡々と時間を刻んでいく。
──二時間後。
原田「……お前、しょっちゅう来てんのか?」
牌を捨てながら、何気ない声で問う。
松井「ええ、まあ。
……理由は説明できないんですけど、ここ来ると──頭の中、静かになるんすよね」
淡々とした声だったが、その言葉にはどこか乾いた響きがあった。
原田「ほう……」
その瞬間。
松井「ロンです。跳満」
乾いた牌の音が一つ鳴る。
点棒が束になって、静かに卓の上を滑った。
常連「……また、かよ」
ため息がひとつ、卓の上で崩れた。
原田は煙を吐きながら、松井の手つきを観察していた。
(押すときは迷わねえ。引くときは一瞬で切る。
……悪くねぇ)
数巡後。
原田「──松井。ロンだ。倍満」
点棒の束が逆に松井の前から消えていく。
松井「……あちゃー。結局負けちゃいました。足りますかね、これ」
苦笑いをしながら頭をかく。
原田「今日は俺のツケだ。……ただし、二度はねぇぞ」
常連A「原田さん太っ腹〜!」
常連B「じゃあ俺らのも頼むわ!」
原田は鬱陶しそうに頭を掻いた。
原田「ああもう、分かった分かった。今日は全員チャラだ。帰れ」
常連たちは笑いながら部屋を出ていく。
その声より先に、原田の目だけは笑っていなかった。
静けさが戻った個室で、原田が改めて口を開く。
原田「お前、中盤に入れ。ま、まずはトップ下だな」
松井「……お、俺がですか? 俺、あんまり足元も上手くないし……なんでです?」
原田「お前、今のチームをどう思う?」
松井「……まず、点が入りません。たぶん、FWと一ノ瀬さんの──」
原田「分かってんじゃねえか。たぶん、分かってんのはお前だけだよ。だから、お前がやれ」
松井が息を飲む。
原田「……あと、ここにはもう来るな。高校生が賭け麻雀なんてバレたら、俺の監督責任になるだろ」
松井「でも──」
原田「でもじゃねえ。辞めろ」
松井「……はい」
短く返す松井に、原田は一拍置いて、静かに言った。
原田「……安心しろ」
一拍、間を置いて。少しだけ視線を上げ、ゆっくりと続けた。
原田「きっとお前にとっては、こっちの方が面白いさ」
──言い終えたあとも、原田は視線を逸らさなかった。
原田「お前がやるべきことは……言わなくても分かるな?」
松井「……たぶん、分かってます」
原田「なら……良い」
原田は満足げに煙を吐いた。
※賭け麻雀は法律で禁止されています。




