表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

新監督、原田

グラウンドの中央に、二人の男が並び立っていた。

鬼頭と原田。

その姿を、サッカー部の部員三十名が、囲むように取り巻いている。


誰もが困惑していた。

──昨日の敗戦。その翌日に訪れた“この場”が何を意味するのか、理解できずに。


美里「……あっ、昨日のオジサン!」


マネージャーの美里が、小さく声を漏らす。

選手たちより一歩後ろに立つ彼女の瞳が、スタンドで見かけた男の顔をはっきりと思い出していた。


「え、誰?」


「OBらしいぞ、あの人」


「ってことは……新コーチ?」


「いや、なんか頼りなさそうじゃね?」


部員たちのざわめきが、渦のように広がる。

その空気を、鬼頭の一歩が断ち切った。


鬼頭「今日から、新チームの初日だが──お前たちに報告がある」


老練な声には、妙に落ち着きがあった。

そして次に放たれた言葉で、全員の時間が一瞬止まる。


鬼頭「まず、ワシは監督を退く。そして──今日からワシの後任となるのが、原田先生だ」


静寂。

その名を告げられた瞬間、部員たちの目が一斉に原田へと向いた。


鬼頭「原田先生は、ここのOBであり──お前たちの先輩でもある。今のチームに足りないものを、彼は持っている。……信じて、ついていってやってくれ」


それはまるで、長年の役を演じ終えた役者のようだった。

鬼頭の声には、不思議と清々しさが宿っていた。


鬼頭「……てことで、ワシは今日から、ただの清川高校の一教師だ。これ以上は邪魔やろうから、校舎に戻るとするよ」


そう言って鬼頭は原田の肩を軽く叩く。

その耳元で、ぽつりと呟いた。


鬼頭「……まあ、楽しめよ」


去っていく背中を見送りながら、原田はふっと笑みをこぼす。


原田「……なら、楽しませてもらうか」


しかしその笑みはすぐに消えた。

再び無表情の仏頂面に戻り、原田は部員たちに向き直る。


原田「えー、新任の原田だ。自己紹介は──まあ、鬼頭先生がしてくれたし、省く」


(今のお前の情報、OBと“適当”しかねえよ……)

誰かの心の声が、無言の空気となって部員たちに伝播する。


原田「この前の総体、見た。──クソだったな」


その言葉に、場の空気が一瞬、凍る。


原田「点の取れないFW。引けばいいと思ってるDF。パスが通らないMF。……こんなクソチーム、見る気もしねえ」


(どうやったらそんな悪口だらけの挨拶になるんだよ)


再び、心の声がグラウンドに満ちていく。


原田「──まあ、このクソチームが何でクソなのか、それを見させてもらう。誰が足引っ張ってんのかとな。適当にアップして、紅白戦でもやれ」


(こんなモチベーション上がらない紅白戦、人生初だわ)


原田は一切の躊躇なく続ける。


原田「キャプテンは誰だ? 鬼頭先生に、それだけ決めといてくれって頼んだんだが……」


宮下「はいっ! 僕です!」


戸惑いのせいか少し遅れて、だが元気よく手を挙げたのは、2年の宮下だった。


原田「じゃあ、お前が適当に仕切ってやれ。

あと今日おれが目を付けた2人は後で発表するし、その2人は当分スタメン確定な。

俺は練習も試合も全部みてる。勝ちたいなら本気で考えてやれ。

──以上」


沈黙。

誰もが置いてけぼりのまま、言葉を失った。


その中でただ一人、マネージャーの美里だけが、ふっと笑った。


美里「……確かに、面白くなりそう。思ってたのとは違うけど、ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ