所沢中央戦、決着
試合は後半二十分を過ぎた。
スコアは依然として1-0。だが――ピッチに漂う空気は明らかに変わっていた。
所沢中央が中央でボールを回す。
だが、そのたびに小柄な影がするりと割り込み、パスコースを断ち切った。
観客「また松井だ!」
「さっきから何本止めたんだよ!?」
松井は読み切ったようにボールを奪い、一ノ瀬や宮下へシンプルに預ける。
すぐさまポジションへ戻り、次の瞬間にはもう別の狙いを定めていた。
西川(……おかしい。前半はほとんど何もしてこなかったはずだ。
こいつ……後半に合わせて動き出したのか)
試合の主導権は、確実に清川へと傾きつつあった。
美里「松井君、すごいよ!!」
原田「なっ? 言ったろ?」
美里「でも……なんで? さっきまで押されてたのに?」
原田「所沢中央は、西川を中心にまとまったチームだ。
良く言えば統率が取れてる。悪く言えば“西川のワンマンチーム”。」
原田の目が鋭く細められる。
原田「だから対策は単純だ。西川の思考を読めば、所沢中央は潰れる」
美里「そ、そんなこと……できるの?」
原田「松井は読みがいい。前半はわざと“西川を観察する時間”に使わせた。
やつは必ずどこかで“同じ選択”をする。仕掛ける場所、出すコース、勝負のリズム……思考の癖があるんだ」
松井が西川の意図を読み切り、またもパスを刈り取った。
奪った瞬間、迷いなく縦へと一ノ瀬にボールを送る。
西川「一ノ瀬とFWのラインを切れ! 次、決められたら終わりだ!」
一ノ瀬は冷静に受け、逆に松井へ横スルーパスを返す。
その動きを見て、原田がベンチで小さく呟いた。
原田「加えて松井には、九十分を走り切るスタミナがある。
優れた読みと勝負勘を持ち、攻守にわたりボールの近くでチームを動かす。
それが――松井に俺が与えた役割だ」
美里「超重要じゃん……」
松井は一瞬のタメのあと、鋭い縦パスを通した。
朝倉が抜け出す。ゴール前、残されたDFとの一対一。
観客席から悲鳴に似たざわめきが響き渡る。
朝倉(……ここしかねえ!)
大きく振りかぶった右足。だが次の瞬間、力を抜き、インサイドでわずかにこするようにボールを蹴った。
――ヒュンッ!
低く抑えられた弾道が、芝生をかすめながらゴールへと走る。
GKが慌てて横っ飛びするが、指先はわずかに届かない。
ボールはポストすれすれを抜け、ゴールネットを鋭く突き破るように揺らした。
観客「うおおおおおおっ!!!」
スタジアム全体が爆発する。
決定的な二点目を叩き込んだのは、エースストライカー――朝倉だった。
⸻
その瞬間。
ピッチを見つめていた西川の口元がわずかに歪む。
同じタイミングで、ベンチの原田も小さく頷いた。
西川・原田「……決まったな」
⸻
スコアは2-0。
清川が勝利を手にし、準決勝へと駒を進めた。




