新体制へ
宮下「残り10分だ! ここからは守りきって勝つぞ!」
部員たち「おうっ!」
声を張り上げる宮下の背中は、仲間を鼓舞するキャプテンそのものだった。
美里「エースも復活して、勢い抜群だね! 監督は……ここまで予測してたの?」
原田「朝倉にあれくらいのポテンシャルがあるのは分かってた。だが、このまま腐るなら外すことも考えてたさ」
淡々と告げる声に、感情はほとんど乗っていない。だが、その瞳だけは鋭くピッチを射抜いていた。
原田「殻を破ったのは朝倉自身だ。俺は関係ねえよ」
笛の音が、グラウンドに鋭く響いた。
スコアは――1対0。清川の勝利。
守備陣は最後まで集中を切らさず、宮下を中心に跳ね返し続けた。
朝倉の一撃が、決勝点となったのだ。
美里「やった……! 勝ったね!」
原田「2部リーグだ。楽に勝ってもらわねえと困るんだよ。」
朝倉は両手を高々と掲げ、再び拳を突き上げていた。
ベンチに立つ原田は、そんな光景を見届けながら静かに腕を組んだ。
その口元には、わずかに満足げな歪みが浮かんでいた。
夕方のグラウンドに、シュートの音が響いていた。
美里「え、あれ……何してんの?」
FW陣が次々とゴール前でシュートを放っている。だが、ボールはバタつき、枠を外れるものも多い。
原田「首振りとワンタッチシュートの練習だ」
美里「首を振る……? なんで?」
原田「ボールに釘付けになってたらゴールもDFも見えねえ。
受ける前に視界に焼き付けとくんだよ。ゴールの位置、キーパーの立ち位置、ディフェンスの距離。
全部を頭に入れて、ボールが来た瞬間にはもう撃てるようにする」
原田の言葉通り、朝倉が首を小刻みに振りながらポジションを取る。
一ノ瀬からの鋭いパスが入ると、朝倉はトラップもせずに振り抜いた。
――ズドンッ!
鋭い弾道がゴールの遥か上へと突き抜けていった。
美里「あれ……大丈夫なの?」
原田「まあ最初はこんなもんだ」
FWたちは首を振りながら何度も動きを繰り返す。
美里は目を丸くしたまま、その不格好な光景を食い入るように見つめていた。
原田「……おい、松井。一ノ瀬。それと宮下」
三人の名を呼ぶと、視線が一斉に集まる。
原田「ちょっと来い」
松井は息を整えながら立ち上がり、一ノ瀬は気怠げにスパイクを鳴らした。
宮下は眉をひそめつつも、真っ直ぐ原田を見て歩み寄ってくる。
原田「松井……明日からボランチな」
松井「えっ……あ、はい! わかりました!」
原田「宮下と連携して守備を固めろ。練習でもそこを徹底しろ」
松井・宮下「はい!」
宮下の表情が一瞬だけ引き締まる。
原田「一ノ瀬。松井なしでもパスを通るようにしとけ」
一ノ瀬「わかりました」
三人はそれぞれに頷き、再びボールの転がるグラウンドへと視線を戻す。
夕暮れの空は群青に染まり、コートの隅には薄い影が伸びていた。
新しい布陣で挑む次戦を前に、清川の空気は確かに変わり始めていた。
――そして、いよいよ選手県予選が幕を開ける。




