バカとエースは使いよう
朝倉「ごめん! もう一回、俺もこのチームのFWとして戦わしてくれ!」
宮下「次、弱音吐いたら叩き出すからな」
朝倉「ああ。もう……大丈夫だ」
一ノ瀬「なら話を戻そう」
宮下「守備はこのままで大丈夫だ。問題は攻撃。一ノ瀬、どうする?」
一ノ瀬「中盤も点を取る流れはできてる。あとは最後を上手くはめるだけ。朝倉、米田。お前ら2人はゴールを取ることだけ考えてポジションとってくれ。そこにボールを運ぶのは俺たちがやる。守備は最低限でいい」
米田「OK! わかった!」
朝倉「具体的にどうすれば良い?」
一ノ瀬「お前は点の匂いがする場所に居てくれたらいい。後ろは見なくていい。――ただ、ゴールから目を背けるな」
一ノ瀬の声は冷静で、それでいて全員を背中から押すような熱を帯びていた。
朝倉は深く息を吸い込み、仲間たちの視線を正面から受け止める。
朝倉「……わかった。必ず点を取る」
その言葉に、円陣の中の空気がひときわ強く締まった。
⸻
後半開始直後。
一ノ瀬の鋭いスルーパスが一直線にゴール前へ吸い込まれる。
だが朝倉はオフサイドを気にして、ほんの一歩下がりすぎていた。
原田「遅すぎんだよ」
美里「え?」
それでも必死に追いつき、シュート体勢に入る。
角度は狭い――。
朝倉「……っ!」
振り抜いた右足から放たれたボールは、ゴールポストを叩いて外へ逸れた。
美里「もうちょっと高い所で待ってたら行けたんじゃない?」
原田「分かってんじゃねえか。まだポジションが甘すぎるな」
一ノ瀬「まだダメだ。もっとゴールに近づいていい。匂いがする場所に立つんだ」
朝倉は悔しそうに唇を噛み、息を荒げながら頷く。
朝倉「……わかった」
(匂いがする場所ってどこだよ……)
ベンチから原田の罵声が飛ぶ。
原田「ない頭で考えようとするな! 考えるな、ゴールを感じろ!」
ピッチに響き渡る声に、朝倉は条件反射で返事した。
朝倉「わかりました!」
(ダメだ。意味わかんねえ……!)
隣を走る米田が手を挙げる。
米田「僕はどうしたら良いですか?!」
原田「知らん! 好きにやれ!」
米田「はい!」
即答する姿に、美里が思わず吹き出した。
美里「米田さんだけ適当すぎない? 笑」
原田「まぁ、あいつバカだから良いんだよ」
美里「え? てか考えろってよく言うのに、朝倉さんは良いの?」
原田は鼻を鳴らし、淡々と続ける。
原田「感じて動いた奴だけが点を取れる」
美里「……FWだけ、なんか特殊なんだね」
⸻
試合は再び動き出す。
米田はボールを受けると、誰も予想しない方向へドリブルを始めた。
宮下「おい、そっちじゃねえだろ!」
味方の声すら無視して、縦でも横でもなく、斜めへ。
一ノ瀬「……は?」
松井「ん? え?」
誰もが戸惑う中、米田はあっという間に二人のDFに挟まれる。
米田(やばい! 囲まれた!)
宮下「……そらそうなるだろ」
苦し紛れに一ノ瀬へバックパスを返した。
だが、その混乱の余波がピッチ全体を一瞬だけ歪ませる。
その瞬間――。
朝倉(ゴールの匂い……ここだ!)
身体が勝手に動いた。
考えは一切なかった。ただ、嗅ぎ取った“気配”を信じた。
美里「朝倉さんがフリーだ!! もしかして米田さんは、これを狙って……?」
原田「いや、バカなだけだ」
一ノ瀬の目が朝倉を捉える。
次の瞬間、一ノ瀬から朝倉へボールが渡った。
それはいつもの鋭いキラーパスではない。
足下に吸い付くような優しいパス――「打て」とばかりのメッセージ。
ゴールまではまだ距離がある。
だが朝倉は迷わなかった。
朝倉「――っ!」
右足を大きく振り抜く。
無回転気味の弾道が、芝を切り裂くように一直線へ伸びていく。
GKが飛んだ。指先がかすめる――だが届かない。
ネットの奥に鋭く突き刺さった。
朝倉「――っしゃあああああ!!」
両腕を高々と突き上げ、全身で喜びを爆発させる。
汗を散らしながら振り返ったその顔には、強い光が宿っていた。
美里「す、すごい……!」
宮下「やっとかよ」
一ノ瀬「……ふぅ」
駆け寄る仲間たちに囲まれ、朝倉はその中心で胸を張り、拳を空へ突き立てる。
その一撃は、まるでチーム全体の鬱屈を吹き飛ばす狼煙のようだった。
スタンドからも歓声が湧き起こり、ピッチ全体が震える。
“エースの帰還”を告げるガッツポーズ。
ベンチで腕を組んだ原田の口元が、わずかに歪む。
原田「……やれば出来んじゃねえか」




