新たな問題
放課後のグラウンドに、西日が差し込んでいた。
人工芝の上には、ボールの軽やかな跳ねる音が響いている。
グラウンドでは、4対4のトレーニングが行われていた。
原田「2タッチ以内、制限時間3分。守備が奪った終わりな」
監督である原田の声に、選手たちがそれぞれのポジションへと散っていく。
攻撃側には一ノ瀬と松井の姿。
対する守備側には宮下。彼はいつもより一歩引いた位置に立っていた。
一ノ瀬「特訓の成果の見せ所だな」
宮下「うるせぇ、来いよ」
軽口を交わしながら、ゲームが始まった。
松井がサイドでボールを受け、軽くタッチして中へと運ぶ。
そこへ一ノ瀬が自然な動きで顔を出す。
一ノ瀬「……」
何も言わず、鋭く横に流すパス。
だが、その瞬間──。
スッと身体を滑らせた宮下が、パスコースを読むように足を出した。
──カツン。
明確な音とともに、ボールに触れる。
宮下「よし!」
一ノ瀬「……お、良いじゃん」
ゲームは続く。
守備の宮下は、以前のように突っ込むことはなかった。
パスコースを何度も読み、消すような位置取りを繰り返す。
無理に取りに行かず、消して待つ。
その分、一ノ瀬や松井のプレーは少しずつ窮屈になっていった。
原田(……動き、変わってきたな)
グラウンドの外で様子を見ていた美里が、ぽつりとつぶやく。
美里「なんかいつものディフェンスと違う」
ラスト1分。
中央から一ノ瀬が縦に鋭いパスを通す。
ボールは一瞬でペナルティエリア付近のFW・朝倉の元へ届いた。
宮下「まずい!!囲め!!」
しかし、朝倉は数秒で囲まれ、ボールを失う。
宮下(完全にやられた…あんなどフリーでFWにボールを持たせた時点で負けだ)
美里「あーー良い所まで行ったのにね…」
原田「今のはワンタッチで打てたろ。あれだけシュートまでの猶予あって何してんだよ」
美里「この前の試合でも良い所まで行くシーンは何回かあったのにね」
原田「FWがこの調子じゃあ厳しいわな」
──練習後、部室。
モニターの前では、宮下と一ノ瀬が並んで座り、コントローラーを握っていた。
画面に映るのは、サッカーゲーム『ウイニングイレブン』。
スコアは2-0。宮下の完敗である。
宮下「クソッ!」
一ノ瀬「最初に比べるとだいぶ良くなってると思うよう」
宮下「これだけボコボコにされても響かねえよ」
一ノ瀬「ま、そうか」
宮下「てか攻撃陣は大丈夫なのか?パス回しは上手くいっても点取れてねえじゃねえか」
一ノ瀬「俺も困ってる」
宮下「朝倉のやつ。足も早い。身長もある。ショート力もある。なのに何で点取れないんだ?」
一ノ瀬「朝倉は点を取る気がない感じだ。理由は分かんない。気持ちの問題だな」
宮下「どうにかしてやれねえのか?ウチで1番能力あるFWは誰が見てもあいつなんだ」
一ノ瀬「俺が気持ちとかそういうのをどうにか出来るやつに見えるか?」
宮下「あぁ……すまん」
一ノ瀬「でもアイツが目覚めないと清川の全国はないよ」




