崩壊と前進
埼玉2部リーグ 第2節
清川高校 vs 翔栄学園
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原田「今日の相手は、お前らと一緒に一部から落ちてきた高校だ」
「一部に戻りたいなら――勝ってこい。以上だ」
部員たち「はいっ!」
宮下(今日も……俺が全部止めてやる)
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ベンチ脇。
美里「今日も何も指示ないの?」
原田「ああ、出さねぇ」
美里「でも……翔栄って強いんじゃないの?」
原田「強いさ。二部じゃトップクラスだ」
「そんな相手に、どこまでやれるか――見ものだな」
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■ 試合開始
笛が鳴った瞬間、翔栄が牙を剥いた。
一発目のロングボール。FWが一直線に裏を狙う。
宮下(来やがったな!)
スパイクが芝をえぐり、体をぶつけて相手を弾き飛ばす。
こぼれ球をCBが拾った。
「ナイスカバー宮下!」
宮下(当たり前だ……抜かせねぇ!)
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だが――攻撃は相変わらず噛み合わない。
一ノ瀬のパスは鋭い。だが、松井の足は一歩遅れ、
ゴール前のボールはことごとくDFに弾かれた。
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ベンチ脇。
美里「……ねぇ、攻撃が全然ダメじゃない?」
原田「そんなこと、最初から分かってる」
美里「じゃあ勝てないじゃん!」
原田「ああ、勝てないよ」
美里「えっ……!?」
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宮下のスライディングが砂煙を上げる。
また一つ、相手のチャンスを潰した。
美里「宮下さん、絶好調だね!」
原田「そうだな」
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宮下「守備はできてる! あとは攻撃だ! 1点でいい! 勝つぞ!」
部員「おう!!」
美里(……なんか勝てそうな雰囲気じゃん!)
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――続く後半
宮下「俺が行く!後ろカバー!」
一ノ瀬「あっ……」
原田「あーあーそんなとこ開けちゃって」
宮下が潰しに出た瞬間――
その背中の裏で、CBとSBの間にぽっかり“穴”が開いた。
バシュッ!!
0-1
宮下「まだ1点だ!引き締め直すぞ!」
原田「お前のせいだっつーの」
その後、翔栄の牙はさらに鋭くなった。
宮下は何度も跳び、何度も滑った。
スコア 0-3。清川、惨敗。
宮下はピッチに膝をつき、握った拳を震わせる。
宮下(なんでだ……なんでなんだよ……!)
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第3節:0-1負け
第4節:0-2負け
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怒声が、狭い空間を切り裂いた。
宮下「お前ら、ふざけんなよ! 俺のとこは止めてんだ! 失点はお前らのせいだろ!」
部員(守備を統率してるのはお前じゃん)
「それに攻撃陣! 1点も取れてねぇって、恥ずかしくねえのかよ!!」
対する一ノ瀬は、ただ静かにスパイクの紐を結び直していた。
部員「……おい宮下、落ち着けよ。また練習すれば――」
宮下「うるせぇ!!」
「お前ら、悔しくねえのかよ!! ざけんな!!」
沈黙。
ロッカールームの空気が、ピキリと音を立てて割れた。
美里「ねぇ……これ、大丈夫?」
原田は口角をわずかに上げた。
原田「前よりずっと健全だろ」
「――面白くなってきたじゃねぇか」




